■魔羅喰い狐
「こりゃあ、日が暮れるまでに村に着くのは難しいな……」
柳行李に詰め込んだ薬の重さがズシリ、ズシリと足腰に響く。
いつも通り慣れた街道を大きく北に外れ、一山向こうにあると聞いた村へと足を運んだのが間違いだった。
おぼろげに続く山道が、夕暮れとともに、どんどんと草木の陰と同化してゆく。
辺ぴな山奥ゆえに賊は居ないであろうが、どこか一晩凌げる場所を探した方が良さそうだ。
「おっ? お稲荷様か」
ようやく峠の頂上を過ぎたところで、半ば崩れかけたお稲荷様の祠を見つけた。
丁度、山々に猟師の放った鉄砲の音がこだました。
草木を掻き分け音のした方の麓を覗いてみると、おぼろげに村の灯りが見える。
村まではまだ二、三里ほど離れており、俺はため息をついた。
「村入りは明日にするか……」
俺は崩れかけたさい銭箱に一文銭を投げ入れ、祠の奥で一晩の宿をとらせてもらう事にした。
祠の中は外観とは裏腹に小奇麗に掃除されていた。
その奥にポツンと置かれた布団を拝借して、俺は眠りに就いた……。
(ガサッ……ガサガサッ)
「(獣か?)」
眠りに就いて一時ほど経った頃、外からガサガサという音が聞こえた。そして次の瞬間……。
(バタンッ!)
「ひっ!?」
祠の扉を押し開けて何かが倒れ込んだ。
俺は驚き小さく悲鳴を上げて布団から飛び出した。
そこには白い着物を纏い、力なく横たわる姿が月明かりに照らされていた。
その白い着物には赤く血が滲んでいる。
「だっ、大丈夫か?」
俺は介抱しようと、その傍へと駆け寄りその人を抱き起した。
しかし、その顔を見た瞬間驚き、俺は心の臓が止まりそうになった。
「わたしに……触れるな……人間めが」
「きっ! 狐か!?」
その姿は人間の女の様であったが、頭には獣のような耳がそそり立ち、何より大きな尻尾が動いているのが見て取れた。
俺はその場から逃げ出そうと思った。しかし、沸々と血を流し弱り切ったその姿を見過ごす事も出来なかった。
「な……何をしている……お主を……喰らうぞ……ケホッ、ケホッ」
「俺は薬売りだ。狐だろうと何だろうと、目の前で死にそうになっとるのを放ってはおけん」
俺はその狐を抱き抱え布団へと寝かせ、巫女の様な着物を脱がし横腹の傷を露わにした。
吸いこまれる様な白い肌と、その美しくしなやかな乳房に一瞬目を奪われてしまいそうになる。
「こりゃあ、鉄砲傷じゃないか! さっきの鉄砲の音はお前を撃った音だったのか?」
「……見……るな……」
狐は横を向いたまま俺の問いには答えず、弱弱しい動きで必死に乳房を隠そうとしている。
異形の者とは言え、男に裸を見られるのはやはり恥ずかしいようだ。
俺も気恥ずかしくなり、手ぬぐいで乳房を覆ってやると安心したのか、そのまま眠ってしまった。
「やれやれ、医者にでもなってりゃあ山奥でこんな目に遭わなくても済んだんだろうな」
俺はそう呟きながら医者の真似ごとをして、手持ちの薬で出来る限りの手当てをしてやった。
幸い鉄砲の玉は抜けており、肝もそう傷めては無いようだった。
「さて、どうするかな……」
傷の手当てを終えると、俺はこのまま逃げ去ろうと身支度をしながら悩んだ。
異形とは言え、若い女の姿をした者を放っておくのも気が引ける。
一しきり悩んでいるうちに、俺はウトウトと眠りこけてしまった……。
(ズシリ)
「(なんだ!?)」
すっかり寝入っていた俺の上に何かが圧し掛かる。
それはあの狐だとすぐにわかった。
狐は俺の上に馬乗りになり、瞳が怪しく輝いている。
「おい! 大人しく寝てないと、傷が開くぞ!」
そう怒鳴りつけたが、その大きな耳には届いていないように見えた。
俺は狐を振り払おうとしたが、まるで金縛りのように尋常ではない力が俺を押さえつける。
先ほどの弱り切った姿に惑わされて気付かなかったが、この狐は相当な妖力を持っているようだ。
「(大馬鹿者だな……俺は)」
やはり異形の者など助けるべきでは無かった、さっさと逃げていればよかった……そう後悔した。
「お、おい! 何をしている!」
狐は視線を下の方へと移し、両手で俺の股引きをずり下ろし、その白く細い指先でいやらしく魔羅を揉みはじめた。
まだ女を知らぬ俺の魔羅はその刺激に負け、異形の者への恐怖を打ち負かせ、あっと言う間にそそり起ってしまった。
狐は大きくそそり起つ魔羅を両手で握り締めながら、視線を俺の顔へと戻し口を開いた。
「お主は馬鹿じゃ……なぜ逃げなかったのじゃ。喰らうと言ったであろう」
「く、喰らう?」
(カプッ)
「あっ!」
狐は俺の魔羅を口で頬張ると、そのまま一気に喉の奥まで飲み込んでしまった。
その不思議な感触が快感となって魔羅の先端に襲いかかる。
「待ってくれ! そんなことをしたら出しちまう!」
俺がそう叫ぶと狐は魔羅から口を離し、呆れた表情で語りかける。
「今から魔羅を喰われると言うのに、お主はそんな心配をしておるのか?」
「喰うって、本当に噛み切って喰うつもりか?」
「わたしは魔羅喰い狐の狐娘。きっこと呼ばれておる妖怪じゃ」
「そんな! 魔羅なんて喰って美味いのか? 立って小便が出来なくなる! やめてくれっ!」
俺はようやく魔羅を喰らうという意味が分かり、慌てて喰わぬよう懇願した。
「もう遅いわ……」
狐、いや、きっこは再び視線を落とすと、俺の魔羅を喉の奥まで一気に飲み込む。
そして、意地の悪そうな目つきで俺を見つめ、喉の奥で執拗に先端を刺激する。
手淫とは全く違う、絵にも描けない快感が脳天まで痺れさせる。
「あああああっ! やめてくれっ! 頼む! 魔羅を失くしとうない! 男でなくなるのは嫌だっ!」
(ギリッ)
「痛っ! ハッ、ハッ……ああっ、気持ちイイ! 止めてくれ……頭がおかしくなっちまう」
ゆっくりと、きっこの歯が魔羅に喰い込み、薄らと魔羅から血が流れ出す。
ズキリと感じる痛みと、初めて感じる快感に俺の頭はおかしくなりそうだった。
「ああああっ! 出ちまう! 喰わないでくれ!」
(ドクッドクッドクッ、ドクドクッ……)
俺はきっこの喉の奥に、大量の男の精を吐きだしてしまった。
もう終わりだ、魔羅を喰い切られる。そう思った。
……しかし、きっこの口はゆっくりと開き、俺の魔羅から離れた。
「お主、わたしの口は気持ち良かったか?」
「え? あ、ああ……そりゃあもう、天にも昇る様な気持ちよさだった……」
俺は意外な展開に驚き、嬉々としてそう答えるときっこはクスクスと笑いながらこう答えた。
「お主の魔羅を喰うのはやめじゃ。馬鹿がうつると困るわ」
「え? いいのか?」
「なんじゃ? わたしに魔羅を喰って欲しいのか?」
きっこはそう言うと、まだ硬さを失っていない俺の魔羅をギュッと握りしめた。
「そ、そんなつもりはない、喰わないでくれ!」
「フフッ、お主は変な奴じゃ。今のは傷を手当てしてくれた礼じゃ、そして……」
「そ、そして?」
きっこは俺の魔羅に小さく空いた牙の傷を指先でなぞりながらこう続けた。
「痛むか? これは、わたしの裸を見た罰じゃ……許せ」
「い、いや……俺の方こそいきなり脱がせちまって悪かった、堪忍してくれ」
俺は先ほど見てしまったきっこの美しい乳房を思い出し、顔を赤くしながら失礼を詫びた。
「クスクスクスッ、お主は本当に変わった人間じゃ。気に入った、わたしはお主に憑いて行くぞ」
「え、ええっ!?」
「わたしはもうここには居れん、馬鹿なお主でもわかるであろう?」
村人に鉄砲で追われる狐の妖怪。ここに留まればまた命を狙われるということだろう。
妖力を持った妖怪相手に断る事も出来ず、俺はそれを承諾するしかなかった。
きっこは俺の股引きを上げ、まだ半起ちの魔羅を仕舞うと、すぐにここを離れると言った。
「傷はもう大丈夫なのか?」
「もうこのとおりじゃ。しかし、お主が手当をしてくれなければ死んでおったかもしれん……鉄砲にはかなわぬ」
きっこの横腹の鉄砲の穴は完全に塞がり、瘡蓋を残すだけになっていた。
祠の外から村の方を見ると、一里ほど離れた場所に松明の灯りが見える。
きっこは、村人の山狩りが近づくのを感じ取っていたようだ。
■逃避行
俺は身支度を済ませ、人間に化け、耳と尻尾を隠したきっこと街道に向かって山道を急いで下った。
その道中で、この様な事になったいきさつを聞いた。
「どうして、村人に追われているんだ? 村で魔羅を喰ったのか?」
「わたしは、あの村の豊作の神として崇められておったのじゃ」
「だったらどうして……」
きっこが物心ついた頃には、あのお稲荷様で豊作の神として崇められていたと言う。
きっこは、代々あの祠で神に化けて村人を騙して暮らしていた狐の妖怪だったのだ。
酒、山の幸、川の幸と次々に奉納され、何一つ不自由のない日々を過ごしていたそうだ。
「数年前のことじゃ……つい、姿を見せたのが間違いじゃった。わたしが女だと知ってから、村人が男の魔羅を奉納してきたのじゃ」
「村人が魔羅を!」
「そうじゃ……年に一度、田植えの前になると若い男の魔羅を切り取って奉納してきたのじゃ」
「そんな! その男はどうなったんだ?」
「そんなことは知らぬ。初めて頬張った魔羅はこの世のものとも思えぬほど美味であった! 決して止めることなど出来ぬ……」
「あんなモノが、そんなに美味いのか?」
俺の問いに、きっこは恍惚とした表情を浮かべながら答えた。
「人間にはわからぬ。あれは絶品じゃ……年にたった一本の魔羅で我慢など出来ぬ」
魔羅の味を占めたきっこは、あらゆる手段で祟りを演じ、少しでも多くの魔羅を奉納させるように仕向けたと言う。
しかし、やがてそれは村人の反発を招き、祠は荒れ果て魔羅も奉納されなくなってしまったそうだ。
そして、きっこは妖怪の本性を現し、村で恋人や妻に化けて男達から魔羅を喰い千切り、喰らったと……。
「先刻、村長の娘婿の魔羅を喰ったのがまずかったようじゃ」
「……そりゃあ、まずかったな」
「町から来た魔羅は一味違って美味かったぞ……お主の魔羅も同じように美味そうじゃ」
きっこはそう言うと、舌舐めずりをしながら俺の股を見つめた。
「や、やめてくれっ!」
「クスクスクスッ、我慢してやるから安心せい」
ひと山ほど越えたところで祠の方を振り返ると、そこに火が放たれているのが分かった。
山狩りがこちらに向かっている様子はない。なんとか逃げ切る事が出来そうだ。
俺たちはそのまま街道へと抜け出ると、まず行商の者から町娘の着ているような着物を買い、それをきっこに着させた。
「これは村の娘の着物とはちがって何ともかわいらしいのぉ、気に入ったぞ」
「そうか、そりゃ良かった」
そうして三里ほど歩いた先の宿場でひとまず宿を取り、念のために身を隠すことにした。
きっこは二階の宿の部屋から街道を見下ろし、こう呟いた。
「本当に人間の多い所じゃ……信じられぬ」
「そうか? 都に出ればもっと多くの人間がいるぞ」
「そうなのか……わたしはあの村しか知らぬからな、無知を許せ」
俺はきっこに魔羅の味を忘れさせようと思い、奮発して宿に豪華な料理を用意させた。
きっこはその料理の煌びやかさに目を丸くして興奮している。
「これはなんと豪華な供物じゃ! 褒めて使わすぞ」
「別に供物というわけじゃないんだが……食ってみろ」
そう言い終わらないうちに、きっこは料理にむしゃぶりついた。
「村の供物とは比べ物にならぬ美味さじゃ! お主、礼を言うぞ」
「どうだ? 魔羅より美味いか?」
「魔羅より美味いものなどありはせぬ、心配せずともお主の魔羅は喰ったりはせん」
「……そうか」
俺の思案は大きく外れたようだ。
「ところでお主、名はなんと申す?」
「え? ああ、名乗っていなかったな。俺は薬売りの五平だ」
「そうか、五平か。改めて礼を言うぞ、五平……わたしの騒動に巻き込んでしまってすまぬ、許せ」
「そんなに改まって言われると照れちまう、やめてくれ」
「何を照れておる……そうじゃ! 五平もわたしのことをきっこと呼んでよいぞ、許す」
そしてきっこはあっという間に料理を全て平らげると、満足そうな表情で笑みを浮かべている。
行燈に照らされるその横顔はとても色っぽく、俺は思わず息を呑んだ……しかし、きっこは妖怪なのだ。
決して人間と釣り合うような存在ではない、それに、いつか気が変わって、俺の魔羅を喰うかもしれない。
「どうしたのじゃ五平? 顔が強張っておるぞ?」
「いっ! いや! なんでもない……」
「そうか?」
「も、もう日も暮れて遅いからな、長旅に備えて寝た方が良い」
「そうじゃな、そうすることにしよう。このような豪華な布団も始めてじゃ、嬉しいのぉ」
俺はきっこと布団を並べて、眠りに就いた……。
■丑三時
(ゴトッ)
「(ん? きっこか?)」
すっかり静かになった丑三時に物音が聞こえ、俺は薄らと目を開いた。
そっと横を見るがそこにきっこの姿は無かった……。
「きっこ……一体どこに行ったんだ?」
不審に思い体を起こすと、廊下の襖の前に立ったまま、俺を見下ろすきっこの姿を見つけた。
「五平……」
「どうしたんだ?」
きっこは俺の名を呟くと、ゆっくりと着物を脱ぎ始めた。
着物がストンと床に落ちると、白く美しい裸体が障子戸から漏れる月光に照らし出された。
先ほどまでの人間の娘の姿でなく、頭には大きな耳が飛出し、床まで届く長い尻尾が揺れ動いている。
「き、きっこ! 何をしてるんだ!」
「五平……身体が疼くのだ、抱いてくれぬか?」
「そっ……えっ?」
(ガバッ)
きっこはそのまま俺に覆いかぶさると、凄い勢いで俺の着物を引き剥がそうとした。
「待て、着物は脱ぐから待ってくれ」
状況が良く分からないが、俺も男であり、きっこの裸体を見た瞬間から魔羅はすでに硬く起ちあがっていた。
俺が着物を脱ぎ終わると、再びきっこが覆いかぶさってきた。
「あぁっ……魔羅が、魔羅が付いておる……わたしは嬉しいぞ五平」
きっこは俺の魔羅を握りしめ、あの時と同じように口に含んだ。
しかし今度は根本まで飲み込まず、舌先で魔羅を弄ぶ。俺はその快感に再び仰け反った。
「き、きっこ、待ってくれ! 俺は女は初めてなんだ! もっとゆっくりやってくれ!」
「あぁん、五平! 素敵な魔羅じゃ……あぁっ」
あの時と違い、きっこは興奮しており、その色っぽい吐息や仕草が俺を刺激し続けた。
きっこはひとしきり俺の魔羅を弄ぶと、今度は完全に馬乗りになり、その右手で俺の魔羅を大事な部分へと導くのが分かった。
「き、きっこ! そんな、いきなり……あっ!」
「これを、これを待っておったのじゃ五平!」
きっこはヌルリと潤ったそこで、ゆっくりと俺の魔羅を飲み込みはじめた。
生まれて初めての暖かい感触が、俺の硬く起ちあがった魔羅を包み込んだ。
「あぁっ……ん、五平……五平の魔羅がわたしに喰われておるぞ、あぁん」
「きっこ! ああっ、なんて気持ちいいんだ……ああっ」
俺は馬乗りになり、魔羅で繋がったきっこの美しい乳房を、両手で優しく揉みあげた。
きっこは吐息をあげてゆっくりと腰を動かし、恍惚感を感じていた……。
「んあぁぁっ、五平っ……気持ちいい、気持ちいいぞ五平、あぁぁぁあっ……」
「俺も、きっこの中、気持ちいいぞ……出してしまいそうだ」
「ああっ、出してよいぞ五平……許す、あぁん、出すのじゃ五平、ああっ」
(ビクビクッ……ドクッ、ドクッ、ドクッドクン……)
俺はきっこの中に多くの精を解き放ってしまった。
同時にきっこの体もビクンと痙攣して崩れ落ちた……。
一時の間、俺ときっこはグッタリと横たわったまま動けなかった。
「五平……わたしは初めてこの気持ちを満たすことが出来たのじゃ、礼を言うぞ」
「そんな、俺だってこんな気持ちいいことは生まれて初めてだ」
「そうか、ではお相子じゃな……クスクスクスッ」
俺ときっこは互いに瞳を見つめ合いながら、ゆっくりと接吻を交わした。
「!!」
その接吻の瞬間、俺は薄らと血の味を感じ、再び心の臓が止まるかと思った。
「どうしたのじゃ? 五平……」
「きっこ……まさか魔羅を喰ったのか?」
「……すまぬ……すまぬ五平、わたしを許してくれないか」
「許すも何も……一体どこで!」
きっこはどうしても魔羅を喰う事を我慢できず、俺が寝ている隙に町娘に化けて他の宿場の男を誑かし、その魔羅を喰らってしまったと言う。
「わたしは……魔羅を喰らうと、どうしても男と交わりたくなるのじゃ」
「それで俺と……」
「そうじゃ! 魔羅を喰った後に残るのはいつも魔羅が無い男じゃ! わたしはいつも狂おしい気持ちで手淫をするしかなかったのじゃ……ウウッ」
「何てこった……」
俺はきっこの身勝手な振る舞いなどどうでもよかった。
宿場の男が魔羅を喰われたことで大騒ぎになる前にここを逃げ出そう、そう思った瞬間……。
(ドタドタドタッ、バンッ!)
「いたぞっ! 捕まえろ!」
廊下の襖が大きく開くと十人ほどの屈強な男達が部屋になだれ込み、俺は素っ裸のまま、あっという間に抑え込まれた。
■復讐
「痛たたたたたっ! 何をしやがる!」
「五平を離せ!」
抑え込まれた俺を助けようと、きっこが妖力を使おうとした時、男達の後ろから一人の女が現れた。
「動くんじゃないよ! この化け物が!」
その声と同時に俺の首筋に男が持つ短刀が喰いこんだ。
「やっ、やめろっ! 五平を離せ!」
「動くんじゃないよ! 動いたらこいつの首を落としちまうよ!」
「クッ……」
俺の首筋から薄らと血が滲み、その言葉が本気だと知らせた。
きっこが大人しくすると、あっという間に他の男達にねじ伏せられた。
「やめろ! きっこに何をする!」
(バシッ)
先ほどの女が、きっこを離せと怒鳴った俺の顔を平手打ちした。
「うるさいよっ! しっかし驚いたわねぇ……魔羅を喰らう化け物にまさか男がいたなんてね」
「……」
きっこは恐ろしい目つきで女を睨みつける。
「まさか同じ宿場に泊まってるとは思わなかったわ、化け物に誘われた馬鹿な男のおかげであんた達を見つけられて感謝してるわ」
「五平は関係ない……わたしだけ殺せ!」
「(きっこ……)」
きっこは俺を庇おうとしている……しかし、俺はきっこの為に何もすることが出来ない。
その悔しさに唇を噛みしめた。
「ふざけるんじゃないわよ! 私の亭主の魔羅を喰っておいて勝手な事ぬかすんじゃないわよ!」
「クッ……」
この女は、きっこに魔羅を喰われた婿の妻、あの村の村長の娘だと分かった。
その復讐の為にここまで追って来ていたのだろう、俺の読みは少し甘かったようだ。
この女の言うとおり、きっこの言い分は通らない話だ。俺はただでは済まないだろう……そう予感した。
そして、その予感は当たった。
「許してほしけりゃ、この男の魔羅を喰いな」
「そ、そんなっ、五平は関係ないっ!」
「ほら、さっさと喰わないと、こいつの首を落とすよ?」
(サクッ)
「クッ!」
「やめろっ!」
男の持つ短刀が俺の喉に喰いこみ、ダラダラと血が流れ落ちる。
きっこは涙目になりながら俺を見つめる。
「……わかった」
「きっこ!」
きっこは女の言うとおり俺の魔羅を喰うと答えた。
そして後ろ手に抑えられながら、俺の前へと連れてこられた。
その瞳がゆっくりと俺の顔を見つめた……。
「すまぬ……すまぬ、五平……許してくれるか?」
「(きっこ……)」
涙で瞳を潤わせながら、きっこは俺の魔羅を喰らうことを許せと言う……俺はどうして良いかわからなくなった。
あの時、本当ならきっこに魔羅を喰われていたのかもしれない……それが少し遅れただけだ。
そして男女の契りまで交わしたのだから、文句は言えまい……そう考えようとするが、無理だ。
魔羅を失くしたくない、もっときっこと交わりたい、心からそう願った。
「嫌だ……きっこと交われないなら死んだ方がましだ……逃げてくれ、きっこ」
「五平……」
俺は本心にもない事を言ってしまった。しかし……あの心地よい交わりを知った今、それが出来ないぐらいなら死んだ方がましだというのもまた本心だった。
「へぇ……命より魔羅が大事かい? その阿呆な男の首を落としておしまい!」
短刀がさらに強く押し付けられ、俺は死の恐怖に全身を震わせた。
これできっこが助かるならそれも男冥利……そう思い、覚悟を決めるしかなかった。
「待って!!」
「なんだい? この男が愛おしいならさっさと魔羅を喰いな!」
「うるさい! お前なんぞに指図されなくとも喰ってやる! わたしは魔羅喰い狐のきっこだ!」
きっこは後ろ手にされた腕を振りほどき、自分の意思で俺の魔羅を握った。
「あの時逃げなかったお主が悪いのじゃ、この大馬鹿者が……」
「きっこ……」
きっこは大粒の涙をぽろぽろと流しながら、俺の唇に接吻をすると、そのまましゃがみ込んだ。
そして、縮み上がった俺の魔羅をそっと指先で撫でると、ゆっくりと口に含んだ。
「きっこ……あっ……」
こんな状況でも魔羅はきっこの舌先の愛撫を感じ、大きく起ち上がってしまった。
張り裂けそうになっている先端をゆっくりと舐め回し、そして魔羅の付け根まで喉の奥へと飲み込んだ。
「こんな化け物と知って咥えられて魔羅をおっ起てるなんて、ずいぶん変わった男がいたもんだ……わたしにはもう咥える魔羅がないんだよ! この化け物が!」
俺ときっこの口淫を見て嫉妬した女が罵声を浴びせる。
ずっと、ずっとこのままきっこに咥えられていたい、そう願いながら俺は精を放つのを我慢し続けた。
「あっ……きっこ……嫌だ、俺の魔羅を喰わないでくれ、交わりたい……きっこと交わりたいんだ……ああっ」
「……」
きっこは俺の瞳を見つめたまま、魔羅を喉の奥で愛し続けた……もうそれに抗うことは出来なかった。
「あぁっ……きっこ……」
(ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ……ドク……ン)
俺はきっこの喉に、再び精を放った……魔羅を持った男として最後の精を放った。
次の瞬間、きっこの歯が上下から挟み込み、一気に俺の魔羅を断ち切った。
(ザクッ……ブツンッ)
「グッ……アアアアアアアアアアアッ!!」
その激痛に全身の筋が切れそうなほど硬直し、体中をガクガクと震わせた。
そしてきっこの口と俺の体が離れる。そこにはもう、魔羅は無かった。
きっこはそのまま床に崩れ落ち、嗚咽していた。
「あっはっはっはははははははっ! こいつは最高だねぇ! 人様の魔羅を何本も喰らっていた化け物が、愛おしい魔羅を一本喰らっただけでこの様! あっはっはっはははははははっ」
復讐を果たした女が狂ったように笑っている。
俺は魔羅を喰われた激痛と衝撃で床に崩れ落ちた……先ほどまで嗚咽していたきっこが俺を抱きしめる。
「様ぁないねぇ、化け物のくせに人並みの幸せ手に入れようとか思うんじゃないよ! 二人仲良く纏めてやっちまいな!」
「!!」
朦朧とする意識の中、焦げた臭いに気づいたときはもう遅かった。
一人の男が俺ときっこに鉄砲を向けている。もう、成す術はなかった……しかし、きっこは違った。
「……おのれ……おのれ、人間めが!!」
きっこの瞳が大きく見開き、その尻尾が部屋中を大きくなびいた。
(ズバッ……)
次の瞬間、鉄砲を持った男だけでなく、傍に居た数人の男達の首が同時に床に落ちた。
「ひっ! ばっ、化け物!」
残りの男達は血相を変えて宿から逃げ出した。
「ひっ! ひっ! たっ、助けておくれっ」
女は腰を抜かして這いずりながら逃げようとしている、きっこはその女を殺そうと迫る。
「きっこ……」
「五平……」
俺はきっこの足を掴み、それを止めさせた。そして、そのまま気を失った……。
■旅路
「ん……クッ……痛っ!」
次に目が覚めた時、俺は街道から少し山間に入った祠の中に居た。
ズキンと痛むそこを弄り、俺はきっこに魔羅を喰われた事を思い出した……。
恐る恐るそこに視線を落とすと、魔羅の断面に俺の柳行李にあった油紙が貼られている。
これはきっこが手当てしたのであろう、そう思った。
「きっこ……きっこ? どこだ?」
俺は股間を庇いながらゆっくりと立ち上がり、きっこの姿を探した。
しかし、どこにもきっこの姿は無かった。
祠の奥にどっさりと置かれた山の幸、桶に汲まれた水……。
またどこかで魔羅を喰らい、俺に迷惑をかけると思い、きっこは俺の元から去ってしまったのだろうか。
「きっこ……」
俺は魔羅だけではなく、きっこまで失くしてしまった……そう思うと、涙が止まらなかった。
とにかく、俺はありったけの薬を使い、魔羅の断面の手当を施して回復を待った。
きっこが妖力を使ったのか、傷の治りは予想以上に早く、五日程でどうにか歩けるようになった。
恐る恐る街道へと出て、あの宿場へと舞い戻ると、話題はあの夜の一件の事で持ち切りになっていた。
「何かあったんですかい?」
「ああ、あの柳谷っていう宿でよ、数人の男が首をはねられる事件があったんだってよ」
「そうりゃあまた、凄い話で……で、下手人は?」
「その場で気が触れた女が一人捕えられたんだけどよ、まさか女一人であんなことは出来まいという事で、村に帰されたんだとよ、下手人はわからず仕舞いだな」
魔羅喰いの件は広まっていないようで俺は一安心した。
きっこは何処へ行ってしまったのだろう……俺は探す当てもなく途方に暮れるしかなかった。
「ここに居ても仕方ない、都に出てみるか……」
俺はこの宿場を後にして、都へと向かうことにした。
魔羅の傷はすっかり癒えたが、座って小便をしなければならないのが旅路には不便だ。
街道の外れに来たところで木枯らしに身を震わせ、小便を催した俺は、急ぎ足で茂みへと飛び込んだ。
(ガサッ)
「あっ!!」
「えっ!?」
そこには見慣れた姿があった。
「きっ、きっこ! どうしてこんな所に!?」
「……」
きっこは気まずそうな表情で俺から目線をそらし、何も答えない。
「……ずっと、俺の後をつけていたのか?」
「(コクッ)」
「……俺に迷惑を掛けないように気遣ってたのか?」
「べ、別にそういうわけではないぞ!」
「えっ?」
きっこは落ち着きを取り戻すと、急に調子よく語り始めた。
「お主……い、いや、五平が可哀そうじゃから、こうやってこっそりと見守っておったのじゃ」
「こっそりとついてこなくてもいいじゃないか……」
「いや、その……魔羅を失くした五平に嫁が来るか心配でな」
「……魔羅がない俺に嫁が来るわけないだろうが」
「そ、それもそうじゃな……よし! じゃあ、わたしが嫁になってやろう」
「……え、ええっ! 嫁にっ?」
きっこが俺の嫁になる。
再会を喜ぶどころか、それを通り越して俺は腰を抜かすほど驚いてしまった。
「なに、五平が生きておる間だけじゃ……わたしには苦にもならん、人間の一時ほどじゃ」
「でも、人間の俺なんかで良いのか?」
「何を言っておる! 五平だから良いのじゃ!」
「きっこ……」
「あー、もう良い! わ、わたしは五平が好きじゃ!」
「俺もきっこが好きだ!」
俺はきっこと強く抱き合い、接吻を交わした。
その唇から血の味はせず、俺は安堵してきっこを抱きしめた。
「もう、魔羅を喰わなくても大丈夫なのか?」
「魔羅の味は忘れられぬ……」
「そうか……」
「でも……この世に五平の魔羅より美味い魔羅は無かろう、それより不味い魔羅など喰いとうない」
「きっこ……」
「これからは、五平の金玉を舐め回して、魔羅を喰らうのを我慢してやる。覚悟するがよい!」
「ええっ! ちょっと待て待て! ああっ!」
きっこは、出会った時と同じように瞳を怪しく輝かせながら俺に馬乗りになり、俺の股引きを下し、そこに顔を埋めた……。
(END)
-
投稿:2013.12.11更新:2019.05.16
魔羅喰い狐と薬売り
著者 いち 様 / アクセス 13292 / ♥ 6