「じゃあ、何もかもデタラメってことですかっ……!?」
あまりのショックに一瞬頭の中が真っ白になった。
私の動揺とは対照的に目の前の白衣の女医は落ち着いて微笑んだ。
「大きな声を出さないで下さい、三田村さん。
一応ここ、病院ですから。」
私は、ハッと我を忘れて興奮してしまったことに気づいて
自分を落ち着かせる為に大きく息を吐いた。
胸の鼓動は一向に収まる気配はない。
「でも…、その、つまり…切除してるわけですよね……。
少年たちの…、その…お、おちんちんを……。」
その言葉を口にしながら、その意味を反芻して生唾を飲み込んだ。
思春期の少年が性器を失う。
その残酷な事実を受け入れるには相応の理由が必要だ。
今その理由がデタラメであることを目の前の女医は簡単に認めたのである。
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「予防切除」という治療法は、本来最後の手段で有るはずの患部の切除行為を、
病の発症前、つまり最も初期段階で行う必要があるため、ある意味残酷な治療法といえる。
リスク回避のために未だ正常な身体の一部を放棄するのだ。
そこには確たる理由が必要だ。
ましてや切除される部位が患者にとって特別な意味を持つならば。
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学生の頃からジャーナリストを志し、その専門学部が存在する大学に進学した私は
教授から知り合いのジャーナリストを紹介してもらい、
在学したままそのジャーナリストのデータマンとして雇ってもらえることになった。
平たく言えばアシスタントとしてバイトしながら、ジャーナリストの下積みをすることになったのだ。
幸運にも私には収集された大量のデータから整合性の取れない数字を見抜く才能があったようで
大学卒業までに師匠とともに公益法人の役員と民間委託会社の癒着を記事にして
新聞社に売り込むことに成功した。
結果、卒業後は報道機関に属さず、師匠の下でデータマンとして下積みを続けながら
フリーランスのジャーナリストとして活動する道を私は選んだ。
大卒の新人としては異例のことだった。
師匠のもとでアシスタントとしては優秀であった私は、経済的に困窮することは無かったが
肝心のフリージャーナリストとしての活動は好調とは言えなかった。
大学を出たばかりの小娘が生意気な、と報道社会の風当たりが強かったのだ。
そんなときである。
政治家と医療法人のつながりの裏付け取材を行っている際に「予防切除」という言葉を聞いたのだ。
アメリカの女優が乳がんの予防切除を受けたニュースを私は思い出した。
確かに遺伝性のがんなら事前に予測が可能であり、発症後転移することで生命を脅かす危険があるのなら
「予防切除」という荒療治も致し方ないのだろう。
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そうして私はその病名を知ってしまった。
「若年性男性外性器がん」・・・思春期の少年を襲う、「男子としては致命的」な病魔。
包皮、陰茎、睾丸に発症する悪性腫瘍で、若年性であるゆえに進行が早くリンパ節転移を起こしやすい。
症状に気付いた時にはすでに転移してしまってるケースが多く、もはや手遅れのケースがほとんどだ。
発症率こそ極稀であるものの、進行が早く致死率も高い。
にもかかわらず、この恐ろしい病気が世間一般にあまり知られていないのには理由がある。
理由はその治療法・・・つまり「予防切除」である。
「若年性男性外性器がん」は遺伝子の突然変異から発生される「がん」だとされている。
しかしながらこの病気、遺伝性はほぼ無い。
なぜなら、この病気を発症する少年は次世代を残す前に死亡するか、予防切除によって生殖器を失うからだ。
予防切除はこの病魔に対する唯一の手段であった。
幸いにもこの病気は血液検査でその兆候を調べることができる。
血液検査で疑わしい検査結果がでるとすぐに精密検査が行われる。
精密検査が行われ、それでも疑いが残る場合は予防切除が行われるのだ。
ただし、予防切除はあくまで「リスクの回避」である。
精密検査でも判明するのは発症する「疑い」でしかない。
それが発症するのが何年先かもわからないし、発症しないかもしれない。
しかしそれでも対処法が他に無い以上、予防切除せざるを得ないのだ。
それは虫歯一本引き抜くのに隣り合った健康な歯をまとめて引き抜く行為に似ている。
そうして少年たちは「リスク」という形のないものと引き替えに性器を失うのだ。
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本来、こうした手術は本人の意思が尊重されるべきなのだろう。
しかしこの場合、本人の意思に任せたなら予防切除を受ける少年など一人もいない。
結果、医師の判断で予防切除を行うことが特別に認められたのだ。
それは私にとって少しショッキングな事実であった。
つまり場合によっては全く正常で問題のない少年のペニスを本人の意思に反して
切り落とす判断ができるということだ。
「少年の・・・おちんちんを・・・、切る・・・。」
医療行為であるとはいえ、それは一つ間違えれば許されない行為である。
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その後私は師匠と共に医療法人が政治家に違法な献金を行った件を記事にした。
依然アシスタントの私は好調であり、独立したジャーナリストの私は不調であった。
いっそ師匠の元を去ることも考えたが、取材を行うのにも費用はかかるし
今更どこかの報道機関に属するのもむずかしい。
もやもやとした気分でいた折、例の「予防切除」のことを思い出した。
記者としての私の得意分野はいわゆる政治家や会社役員の不正の実態調査である。
医療法人の違法な献金を記事にした経験はあるものの、医療自体の専門知識は皆無だ。
ただ行き詰まりのようなものを感じていた私は、
興味本位で「若年性男性外性器がん」を調べることにした。
好奇心優先で始めた仕事で、もしかしたら記事にはならないかもしれない。
しかしどうせ本業のほうは上手くいってないのだ。
たまには見識を広める意味でも、というかむしろ息抜きのような意味で
この専門外の仕事に取り掛かることにした。
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息抜きのような仕事ということで
どのような記事にしあげるか?ということなど全く考えずに
ただ好奇心に任せるままに調査を始めた。
「予防切除」という治療を受ける以上、患者の取材協力は期待できない。
まずこの病気の知識を基本的な部分から調べ直し、次にこの病気を取り扱える病院、医師を調べあげ
病院に対しては国からどれほどの補助があるのか、医師に関してはその経歴を調べあげた。
もともと発症率の極稀な病気である。
取り扱える病院も医師もそれ程多いというわけでも無かった。
昨年度、予防切除を受けた少年はおおよそ50人前後。
その9割を超える患者が、都内の郊外にある医療法人栄華会が経営する藤ヶ崎総合病院で手術を受けていた。
この病院は言うなれば少年たちの「男子としての」処刑場である。
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元々私は、他人が思うほどの正義漢ではない。
どちらかというと他人の不正を暴くという行為自体に関心があり、
それを記事にすることで、自分が世の中に出ていくことが目的だった。
だから、不祥事というものがこの世から無くなってしまっては困るのだ。
・・・他者の秘密を垣間見る。
それは一言でいえば野次馬根性であり、この仕事にとって必要なものだと思った。
本音を言うと、今やっている息抜きのような調査は
決して公に語られることの無い、少年たちの性器の「予防切除」に興味が湧いたからだ。
きっと私の関心は予防切除を受ける、あるいはすでに受けてしまった少年たちにあるのだろう。
なぜなら彼らこそはプライバシーという堅い秘密のベールで覆われているからだ。
とはいっても、彼らの秘密を暴露するつもりもないし、記事にもできない。
どうせ記事にならなくてもいい、と思ってやっている調査だし
結局、自身の好奇心が満たされれば良いぐらいのつもりであった。
・・・その藤ヶ崎総合病院に違和感を感じるまでは。
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昨年、この病院で40人程の少年が予防切除の手術を受けたことになるが
その手術は月によって多い少ないといった偏りが無い。
定期的に病院側の都合で手術が行われているように感じたのだ。
そんなのはこの病院に予防切除を行う執刀医が一人しかおらず
謂わばその執刀医のスケジュールに合わせて手術を行っているとしか考えられない。
では何故執刀医を増やさないのか?
きっと増やすと都合の悪いことがあるに違いない。
不審な点は他にもある。
この病院に専門医が一人しかいないのであれば
9割を超える患者をこの病院で手術をする必要などあるはずがない。
少し踏み込んで調べてみると、他の病院から患者が移ってきた様子もなかった。
つまりこの病院で予防切除を受けた患者はほぼ都内の少年なのだ。
いくら都内の人口が多いとはいえここまで地域的に集中するのは不自然だ。
定期的に行われる手術、都合よくまるでそれに合わせるように調達される患者たち。
それが意味するのは一つだ。
『藤ヶ崎総合病院では何らかの理由で少年の性器を切り落とす人体実験をしている。』
その理由はわからないが、間違いなくこれは「若年性男性外性器がん」の治療ではない。
「予防切除」という特殊な治療方法を悪用しているのだ。
若年性男性外性器がんの予防切除はその疑いさえあれば
その疑わしき少年の性器を切除することができる。
健康体の少年の性器を切除することなど簡単に行えるのだ。
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「・・・・・・!」
唖然となった。呼吸は乱れ、胸が締め付けられた。
たまらなく嫌な気持ちになった。
その感情は複雑すぎて言葉にすることができない。
いたたまれない程、不安定な感情につつまれてふと思った。
「これ以上関わり合いにならないほうが良いかもしれない。」
心の奥のほうからそんなつぶやきが聞こえてくる。
『世の中には知らなくていい真実があり、その真実を知ってしまうことで
開いてはいけない扉を開いてしまうことがある。』
それは行き過ぎたジャーナリズムへの警鐘なのだろうか。
それとも私自身への警鐘なのだろうか。
私は静かに目を閉じ心を落ち着かせた。
「私は自分の仕事を遂行するだけ。」
自分に言い聞かせるようにつぶやくと一枚の写真を見た。
そこに写っている人物は、おそらく藤ヶ崎総合病院で少年たちの性器を切り落としている張本人。
「霧神小夜子・・・。」
彼女がどんな理由でこんなことをしているかわからない。
どんな心境で少年たちの性器を切除しているのか問い詰めてやる、と思った。
それは彼女、霧神小夜子と対峙する覚悟を決めたことを意味していた。
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医療法人「栄華会」が経営する藤ヶ崎総合病院は都心から少し離れた郊外に位置し
その広い敷地内には、外来患者を受け入れる本来あるべき総合病院としての東棟と
おそらく実験施設としての機能をもった西棟が存在する。
霧神小夜子は医療法人栄華会の会長の孫娘であり、肩書こそ院長ではないが
藤ヶ崎総合病院の実質的なリーダーであることは容易に推測できた。
つまり藤ヶ崎総合病院は彼女の城なのだ。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、私は迷わず霧神女史に取材を申し込んだ。
あくまで相手の出方を見るための牽制の意味もあったのだが
まるでこちらの取材を予測していたかのように彼女はそれを快く受け入れた。
ある意味それは運命だったのだろう。
そうして私は霧神小夜子と対峙したのだ。
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「ずいぶんお若いのにご活躍のようですね、三田村愛子さん。」
予想通り藤ヶ崎総合病院の『西棟』側の客間に通された私は
名刺を差し出す前に霧神小夜子から牽制を受けた。
その言葉はつまり私のことは一通り調査済みという意味である。
彼女はゆったりとソファに腰かけると医師特有の目つきで吟味するように私を見た。
その視線は冷たく鋭く、そして恐ろしさを感じるほど魅惑的だ。
彼女の体つきは長身痩躯であり、他者を圧倒するかのようなカリスマ性を持っていた。
彼女がこの病院の院長として君臨しないのは、ただその年齢が相応しくないほど若いからだろう。
私は一通り挨拶と取材協力に対しての感謝を述べると、大きく息を吐いた。
「貴女のこと調べさせてもらいましたよ。霧神先生。
ですが経歴を見る限り、貴女の専門はがん治療では無いですよね。」
霧神小夜子の専門は形成外科である。
ホルモン治療などの専門知識もあるようだが少なくともがん治療の専門ではない。
彼女はまるでペニスを切り落とすために存在する医師のようだ。
私の質問に霧神女史はまるで逆に気を良くしたように微笑んだ。
「私も貴女のこと調べさせてもらいましたよ、三田村さん。
貴女も専門外のことを調査なさってるようですね?」
彼女の言葉は私の弱い部分を刺してくるように鋭かった。
ホンの少し動揺を見せると彼女はその隙をチェスのように突いてくる。
「貴女はペニスの予防切除に興味があるのではないですか?」
彼女の鋭く際どい言葉に息が詰まった。
たしかにこの仕事の取っ掛かりは単なる好奇心だ。
息抜き目的の下卑た野次馬根性がきっかけであるのは間違いない。
「今更、正義という言葉を振りかざすのは都合が良すぎるんじゃないか?」
霧神女史は冷たく微笑みながら暗にそう言っているのだ。
「私のことはともかく、この病院ではおそらく手術が必要のない少年が
性器の予防切除を受けさせられているんじゃないですか?」
彼女にペースを持っていかれないうちに本題を切り出した。
「この病院で予防切除の水増しの不正、
並びに人体実験が行われてるんじゃないか?と言っているんですよ。」
あらん限りの気持ちを込めて告発の言葉を吐いた。
客間は水を打ったように静まり返り、その緊迫した様子に私の鼓動も高まった。
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「さすが優秀でいらっしゃいますね、三田村さん。
ですが、『その先の覚悟』は持ってらっしゃるんですか?」
霧神女史はむしろ楽しそうに、まるで私の言い分を認めるようにうなづいた。
「貴女たちを敵に廻す覚悟がなければ、こんなことは言いません。」と返答すると
「そういう意味じゃないんですけど・・・。」と彼女は意味深げに冷たく微笑んだ。
何か癇に障るその言葉に私は血の気が上ったが、続く彼女の言葉に血の気は失せた。
「確かにこの病院で行っている予防切除は名目にすぎません。
この施設も『若年性男性外性器がん』のためのものではありませんし、
性器を切除された少年たちも、実際はその疑いのある患者ではありません。」
冷や汗が背筋をつたう。霧神小夜子はまるで先手を打つようにその不正を認めたのだ。
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「じゃあ、何もかもデタラメってことですかっ……!?」
「大きな声を出さないで下さい、三田村さん。 一応ここ、病院ですから。」
「でも…、その、つまり…切除してるわけですよね……。
少年たちの…、その…お、おちんちんを……。」
・・・つまり私の予想通りだったといえる。
彼女たちは都内の普通の少年たちを何らかの理由で
『若年性男性外性器がんの疑い有り』と偽り、その性器を無秩序に切除していた。
少年たちの性器を実験動物を解剖するように奪っていたのだ。
性器を失う。それは思春期の年頃の少年には悲痛なまでの屈辱だろう。
ペニスを失った少年はある意味少年ではない。
自己の喪失。男性としての死。
性器を失った少年はどう自分を認識すればいいのだろうか・・・。
「・・・大丈夫ですか、三田村さん?顔が真っ赤ですよ。」
霧神女史の言葉に私は我に返った。
体温が上昇し、胸の鼓動が高鳴っている。
少し身体の芯が熱くなっているのを感じた。
「貴女は御自分のなさっていることを理解しているのですか!?」
まるで自分の動揺を隠すように声を荒げて詰問した。
「少なくとも貴女よりかは理解してますよ?三田村さん。」
霧神女史のその妙な言い回しに苦虫を潰した表情になった。
まだ何かを彼女は隠しているようで、その上で挑発的だ。
彼女のまるで捉え様のない威圧感に負けないように鋭い視線で睨み返すと
霧神女史はまるで敵意が無いことを示すかのように手のひらで
「まあまあ、落ち着いてください。」とジェスチャーしてみせた。
「貴女はとても優秀で、私たちの秘密の一部にたどり着いたのは認めましょう。
しかし、木を見て森を見ずという言葉もあります。
都合のいい部分だけ切り抜いて報道するのはジャーナリズムの悪しき慣習ですよ。」
痛いところを突かれて少し気勢を削がれた気持ちになった。
動揺に付け込むように彼女は次の一手を打った。
「まあ、私たちの言い分というか、少し見ていただきたいものがあるんですが。」
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霧神女史はまるで手下のような数人のナースたちを客間に入れると
そのたちナースたちに指示を出して大型のモニターを用意させた。
さらにイヤフォンとマイクの付いたヘッドセットを装着すると
用意させたリモコンのスイッチでモニターの電源を入れた。
大型のモニターは次世代型の4Kモニターのようで
どこか別の室内の様子がくっきりと映し出された。
室内には数人のナースたちが何やら作業をしている。
そのうちの一人は霧神女史のようにヘッドセットを装着していた。
怪訝な様子で霧神女史を見ると、彼女はモニターに映し出された部屋は
この施設内の別の部屋であることを説明してくれた。
「じゃあ、手筈通りに。」
霧神女史はヘッドセットでモニター内のナースたちに指示を出す。
つまりこの映像は録画されたものでなくて現在進行形で中継されているのだ。
ナースたちに招かれて学生服を着た少年が一人室内に入ってきた。
モニター内の少年はナースに指示されて、カメラに映りやすい位置に立たされた。
音声が聞こえてこない上に、少年がカメラを意識する様子もない。
「これって盗撮じゃあないですかっ・・・?」
非難の眼差しを霧神女史に向けると、彼女はカメラが医療機器に偽装してあり
それと気付かれない様に隠してあることを認めた。
「ですが、一応医療記録を撮る可能性については事前に説明して了承済みなんですよ。」
霧神女史は病院側に非は無いかのように説明してみせた。
問題は少年に撮影されている意識がないということなのに。
私は納得のいかないままモニターを眺めた。
画面内の少年は少し緊張した様子でやや顔が赤い。
しかし、促されると周囲のナースたちの目を気にしながら学生服を脱ぎだした。
異様な光景だった。少年の周囲のナースたちはどう見ても少年に対して配慮が無い。
一枚一枚衣服を脱いでいく少年から視線を逸らすどころか、まるでおかしそうに笑っているのだ。
背筋がぞくりとした。
まるでナースたちのその目は実験動物を見る目だ。
Tシャツとトランクス姿になった少年は先にトランクスに手をかけてそこで躊躇した。
私はこの先を見ることは倫理的に問題があると理解していたが、目を背けることが出来なかった。
鼓動が早まるのを感じて、決してあってはならない感情が湧き出てくるのを感じた。
そして小さく驚きの声を漏らした。
少年はトランクスを脱ぐとその下にもう一枚下着をつけていた。
その下着を周囲のナースたちの目から守るように、少年はTシャツの裾を恥ずかしそうに両手で伸ばした。
少年は女性用の下着をトランクスの下に身に着けていたのだ。
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その意味はすぐ理解できた。
つまり少年はすでに少年ではないのだ。
唖然とモニター内の少年を見つめた。
少年は下着姿を気にしてTシャツの裾で前を隠している。
すぐにそばにいたナースがその手を優しくつかんで体の後ろに廻させた。
私は一瞬躊躇したものの、魅入られたようにモニターから目を離せなかった。
恥じらう少年の下着姿の股間部分に本来あるべきふくらみは存在しなかった。
少年の股間にペニスが存在しない事実に生唾を飲み込んだ。
女性下着は少年を男子として否定する象徴のようで
ペニスの無い少年が身に着けるのは、よりいっそう屈辱的なことに違いなかった。
「・・・無理やりですか?」
ヘッドセットでモニター内のナースたちに指示を与える霧神女史に声を低くして尋ねた。
モニター内ではナースたちが何かの準備を進めていて、
その間少年はまるで罰を受けているみたいに下着姿で立たされていた。
ナースたちに指示を出し終えると霧神女史は振り返って私の質問に答えた。
「無理やりというわけではないんですよ。
ただ手術を受けた少年は分泌物過多と若干の排尿障害で生理用品が必須なんです。
もちろん女性用下着、サニタリーショーツの着用を嫌がるんですが・・・。」
そこで霧神女史は堪え切れないようにクスクスと笑みをこぼした。
「ブリーフパンツにナプキンやおりものシートを貼ったりして必死に頑張るみたいですね。
フィット性が高くないので、すぐお漏らししたみたいになっちゃうそうですけど。
女性用の下着だけは意地でも穿きたくないって。
でも一か月もすれば観念してサニタリーショーツを穿くようになるんですよ。」
私は言葉を失った。それはある意味無理やり女性用下着を穿かされるよりも苦痛だろう。
少年はもはや少年ではない。女性用下着を身に着けることで少年はそれを自覚するのだ。
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「・・・それで一体貴女はこれを見せて何を言いたいんですか?」
モニター内ではナースたちが産婦人科でおなじみの開脚台を用意していた。
下着姿にさせられた少年と開脚台の組み合わせが、少し私を苛立たせた。
霧神女史はまるで私のうしろめたい部分を察知してそれを刺激しているようだ。
「そうですね。私は貴女が話せば理解してくださる人物だと感じたので
ここで行われる全てをお見せしようと思ったんですよ。」
霧神女史の言うことはいちいち癇に障った。
彼女たちの行いを理解することはあっても、肯定することは無い。
私にとってそれは何としても守るべきところであった。
私の思惑を察するかのように、彼女は挑発的な視線を私に向けながら
ヘッドセットのマイクでモニター内のナースたちに指示を出した。
「・・・じゃあ、脱がせてください。」
その一言はまるで魔法がかかっているようだった。
くやしいことに、意思に反して視線がモニターに吸い込まれていくのを感じた。
危険で背徳的な気持ちが私を支配する。
ナースが背後から女性用下着に手をかけてゆっくりとそれを下した。
モニターに少年にとって最も屈辱的な姿が映し出される。
それは少年の誰にも知られたくない秘密。
あらゆる生物の性別を判別するのに最も端的な部分。
少年のその部分は、少年のそれではなく少女のそれであった。
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少年はTシャツ一枚のまま開脚台に座らされた。
恥ずかしそうに性器を隠すように足を閉じて座る仕草は皮肉にも女性的だった。
そこで霧神女史は私のほうを振り返って声のトーンを変えて話し出した。
彼女はまず最初にこの施設はペニスを切除するための施設であることを認め
モニター内の少年をはじめ、霧神女史が担当した患者の少年の全てのペニスを
偽りの理由で、その真実を本人に明かすことなく切除したことを改めて認めた。
「実はここは本来の目的は薬品の研究と生産のためにつくられた施設なんですよ。」
そういうと霧神女史は不敵な笑みを浮かべながら、移動して立ち位置を変えた。
彼女を見つめると自然とモニターが視界に入るそんな立ち位置だ。
モニター内の少年はナースたちによって手足を開脚台に拘束されるように固定された。
少年は未だに足を閉じた姿を保っているが、開脚台に座らされた時点で
それが如何に無駄な努力であるかが明白だ。
「ところで若年性男性外性器がんの反対のケースについてお考えになったことはありますか?」
突然の霧神女史の意外な質問に思いのほか戸惑った。
それは今まで気付かなかった盲点ともいえる。
「私たちは、その病気を若年性女性内性器がんと呼んでいます。」
それは思いもしなかったことだった。
そして霧神女史はその病気もまた「予防切除」でしかその命を救えないと明かした。
つまりやはり思春期の少女が『その疑いがある』というだけで女性として生きる道を失うということだ。
そこで雷に打たれたような衝撃が背筋を貫いた。
慌てて霧神女史を見つめた。
「やっぱり貴女優秀ですね、三田村さん。察しが良い。」
霧神女史は満足そうにうなづいた。そして私にモニターを見るように促す。
モニター内ではナースが無機質に開脚台のスイッチを入れた。
少年の必死の抵抗をあざ笑うかのように電動式の開脚部が少しずつ残酷に開いていく。
そして見た者の背筋を凍らせるほどの悪魔のような笑みを浮かべて、
霧神小夜子はついにその事実を明かした。
「少女の女性としての人生を守るために少年のペニスは犠牲になってもらったんですよ。」
私の中で何かが崩れ落ちていくのが理解できた。
彼女の背後のモニターには少年のいやらしい女性器が屈辱的に映し出されていた。
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霧神女史は少しづつジグソーパズルのピースを埋めるように断片的に語りだした。。
「努力はしたんですが特効薬というものは今の医学では到底不可能でした。
つまりどちらもやはり『予防切除』でしか患者の命は救えないんです。」
モニターには依然、少年の局部が大きく映し出されている。
少年の性器はほとんど女性と同じだが完全に同一ではない。
膣口が存在しない代わりにやや大きめの尿道口がその位置に存在していた。
「ですが非常に精度の高い検査薬の開発にはなんとか成功したのですよ。
つまりその検査薬を使えば発症する疑いの範囲をより狭めることができる。」
霧神女史は淡々と話を続ける。
モニターではナースが細長いカテーテルのような器具を用意しているのが見える。
「つまり 将来確実に命に関わる少女だけを選別して予防切除を行うことが可能になったんです。
不確かな検査による予防切除で、不必要に性器を失う少女はほぼ無くなった。
多くの少女を救えるようになったんです。 ・・・少女に限っては、ですけど。」
意識は散漫だ。彼女の話が耳に入ってくる。視線は宙を泳いでモニターにたどり着く。
少年の女性器の穴からは分泌物があふれているのが見える。
少年の性器は奇異で異質で、見た者の下卑た好奇心を掻き立て満たす代物だ。
「その検査薬は残念ながら少年には無意味なんですよ。
詳しくは説明しませんけど身体的に女性でないと不可能な検査方法なので。」
モニター内のナースは手にした器具を試運転させた。
細長い棒状のカテーテルの先端は空気圧で膨らむバルーンのようなもので
スイッチを入れると、それが激しく振動しだした。
女性器を露わにする拘束された少年と、先端が振動する棒状の器具を持ったナース。
何が行われようとしているのかは残酷なほど明白だ。
「その検査薬の製造にはある種のたんぱく質が大量に必要なんです。
そのたんぱく質を製造するには『品種改良』が必要でしてね。」
その器具を持ったナースはまるでカメラ越しに私を見て微笑んで見せた。
そうしてカメラの邪魔にならないよう背後から回り込んで
少年の脇に位置取ると少年の女性器を指で開いてみせる。
ナースは楽しそうに少年の分泌物が溢れだす女性的な穴に器具の先端をあてがうと
指示を待つように動きを止めた。
「もうお分かりですよね。モニター内ではそれを搾液しようとしているんですよ。」
その一言が合図のようにナースはいやらしい手つきで器具を少年の中に挿入した。
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後で霧神女史から受けた説明を含めてここにまとめると
彼女たちは検査薬を製造するために少年たちを去勢していた。
去勢したうえで、ある種のホルモン剤を少年に投与する。
少年たちは睾丸を除去されて精子はつくることができないが
精嚢と前立腺は残されているので精液はつくれるとのこと。
彼女の言う『品種改良』とはもちろん去勢のことであり
ペニスと睾丸を除去、ホルモン剤を投薬してようやく
必要なたんぱく質を含んだ精液を少年たちは生産するのだ。
検査薬に必要なたんぱく質は『去勢された少年』からしか得られない。
この施設は医薬品の生産工場であり、少年たちはその原料となる精液を生産する機械だった。
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少年は大股を開いて開脚台に拘束されている。
ナースの器具を挿入する手つきに反応して
少年はその身体を生きの良い魚のようにビクンビクン跳ねあげさせている。
その様子は少し尋常ではなく、拘束の必要性を理解した。
「い、痛いんですか?」
心配になって霧神女史に尋ねると、彼女はおかしそうに
「まさか。気持ちいいんですよ。」と笑って答えた。
少年たちの精液は件の検査薬に使われるほか、
残った不要な成分も美容薬品や化粧品の希少な原料として
化学製品メーカーが高価な値段で買い取るらしい。
それらのメーカーは彼女たちの研究のスポンサーでもあった。
霧神女史たちにとって、少年たちは金の卵を射精するニワトリだった。
「まるで家畜じゃないですか。檻に入れなくていいんですか?」と皮肉をこめると
霧神女史は「必要ありませんよ、射精管理はできていますから。」と真顔で答えた。
少年たちは自慰で性的絶頂に達することはあっても、射精することは無い。
ここの施設内で、ナースが持つ器具でによってのみ射精に導くことが出来るそうだ。
少年たちは自慰をすればするほど射精への欲求がたまる。
その欲求を開放できるのは目の前の女医だけなのだ。
「この子たちは本当にいい子たちばかり・・・。なにせ月に一度ほど
射精させてあげさえすれば、何でも言うことを聞きますからね。」
霧神女史はクスクス笑いながら、手にしたボールペンでモニター内のナースの手つきを真似してみせた。
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モニター内ではナースが休むことなくその手をいやらしく動かしている。
少年の目は焦点があっておらず、その呼吸も荒い。
あやつり人形のように、ナースの手つきに反応して身体をくねらせる。
その反応、その仕草は女性的としか感じることができず
そしていつしか自分が少年を少女のように見ていることに気づいた。
『男の子としての自尊心がレイプされている・・・。』
少年は誰にも知られたくない少女としての自分をさらけ出し、それを私は盗撮という形で見ている。
ぞわぞわと自分の知らない暗く甘い感情が足元から這い上がってくる。
・・・危険で背徳的な興奮。
それは少年の性器を予防切除する病気の存在を知ったときと同じ興奮だった。
「貴女はまだこの病院を告発するつもりですか?」
私の心を見透かすかのように霧神女史は今このタイミングでその質問をした。
「あ、あたりまえじゃないですか・・・。ほ、ほんにんに、むだんで・・、こ、こんなこと・・・。」
『どういう理由があっても許されない。』その言葉はついに私の口からは出てこなかった。
うわの空だった。彼女との会話よりも私の意識はモニター内の少年の姿に囚われていた。
少年の顔はメスの表情だった。ナースの手つきに合わせる様にいやらしく腰を振りはじめていた。
音声が無くとも少年の女の子のような喘ぎ声が聞こえてくるようだった。
「あと2分ってとこかしら。」霧神女史はそうつぶやくと私の目を見て
「その姿を見てしまうと告発なんてできなくなってしまいますよ?」と笑ってみせた。
その言葉は私の心の隙間を広げた。「もう、遅すぎる。」私の良心が弱音を吐いた。
私の決意はいつの間にかヒビだらけになって崩れる寸前だ。
ナースの手つきの速さが上がる。同時に器具の振動を最大にまで強めたようだ。
その瞬間、我慢できないように少年はその身体をまたしても跳ね上げさせる。
しかしそれでも増した速さに合わせて、少年は腰を自ら淫らにおどらせた。
少年が見せる男の子にとって屈辱的なその姿に魅了されて生唾を飲んだ。
「本人は決して認めないでしょうけど、この子たちは今噛み締めているんですよ。」
少年が苦しむかのように身体をけいれんさせると
受け皿を用意して、ナースが熟知したタイミングで器具を引き抜く。
最後に霧神小夜子が暗く冷酷にそして美しく笑う。
「おちんちんを切られて、女の子としてレイプされる幸せをね。」
少年はその女性器から白濁液を潮を吹くように吐き出した。
その射精する姿は倒錯的で淫靡で、残酷なほど屈辱的だった。
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少年の屈辱的で惨めな姿を最後まで盗み見てしまったことで
ついに自分には彼女たちを告発する資格が無いと自覚してしまった。
もともとこの病院の調査自体、興味本位で始めたことだ。言い訳などない。
それに少年たちが犠牲にになることで救われる少女が存在するのも確かだ。
霧神女史たちがただ単純に悪事を行っているとも言い難い。
「・・・でもどうして、少年に女性器なんですか?
切除するだけとかではダメなんですか?」
霧神女史は私の質問に対して回りくどく答えた。
「少年の女性器形成は最新の再生医療によるものなんですよ。」
それは元々予防切除で女性としての重要な器官を
失ってしまう少女のための最新技術だったと彼女は説明した。
その少女たちはホルモン投与で女性らしさを保つことはできたが
生殖機能は失われ、性的快楽を享受することもできなかった。
しかしその再生医療で性的快感を感じることが可能になったという。
「少女のみならず少年たちもね。」
先ほどの少年のそれを求めるかのように腰を淫らに振る姿が思い浮かんで赤面した。
「貴女も見たでしょう。あの子が嬉しそうに射精する姿を。」
それも少年のためと主張する霧神女史の微笑みは暗黒に染まっていた。
彼女は勿論理解している。 射精の瞬間、少年がどんなことを感じているのかを。
少年は性的快感に屈服して、自ら腰を女の子のように振ってしまっているのだ。
最もいやらしい形での男の子としての自己否定。
建前はたくさんあるようだが、彼女の本音はそれを望んでいるのだ。
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「その最新の再生医療とやらでペニスを形成してあげないのですか?」
本来ならそれが一番筋が通っていると思った。当たり前の話だ。
霧神女史はまるでそのことに関心が無いように「そうですね。」と素っ気なく答えた。
「男性器の形成に関しては私たちは興味が無いんですよ。」
ぞっとするような返答だった。
確かに男性器の再生は技術的には女性器の再生より難しいとのこと。
再生すべき器官がより大きいのが原因だそうだ。
彼女たちは主張する。形はどうあれ彼らは性的快感を感じることが出来る。
つまり機能的には何も問題はない、と。
私はそのいびつな主張に彼女たちの狂気を感じた。
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霧神小夜子。年齢は32歳。見た目は私より少し年上に見える程度に若い。
形成外科部の部長補佐ではあるものの、その権力は院長と変わらない。
おそらく彼女は今までに300本以上の少年のペニスを切り落とし
彼らを射精管理し、家畜化させている。
家畜化した少年からは徹底して男の子としての自尊心を奪い隷属させている。
彼女の背後には大手化学企業がスポンサーとして存在し、
少女たちを救う検査薬の開発を成功させたことで、少年の去勢を合法化した。
一言でいえば彼女は『去勢の権化』であり、それは決して笑える冗談ではなかった。
彼女の去勢の本来の目的は紛れもなく彼女自身のためであることには間違いない。
間違いなく彼女は異常者で自身の『去勢欲求』を満たすために去勢している。
しかし同時に副産物的に『少女を救う』という去勢に釣り合う成果をもあげている。
ゆえに全てを知ってしまうと、彼女を告発することに迷いが生じる。
それに私はすこしずつ気付いてしまっている。
私が彼女に抱く嫌悪感は、私自身決して認めたくない部分から生まれてきているのだと。
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客間にあったモニターは撤収され、霧神女史ついてくるよう指示される。
私たちは部屋を出て少し廊下を歩くと区切りの無いレストルームに出た。
自販機とソファが置いてあり携帯は使用できるが喫煙はできないようだ。
そこで先ほどの少年に出会った。その驚きを私は必死に飲み込んだ。
少年は霧神女史に挨拶をすると、その後ろに面識のない私を見つけて少し戸惑ったようだ。
霧神女史が少年に私を病院に取材に来た記者だと紹介すると
少年は一目で分るほどに警戒してしまった。
少年が抱えている秘密を考えれば当然だ。
私は気まずさを隠すように軽く会釈した。
「新しい下着には慣れたかしら。どう?履き心地は。」
霧神女史の際どい言葉にその場の空気が凍った。
あたふたと困惑した少年は、結局私を気にして小さく頷く程度にしか返事ができなかった。
同じく動揺しながら私は、努めてその会話の意味が分からない感じで素知らぬふりをした。
少年は不安に感じたのだろう。逃げるように顔を真っ赤にしてその場を立ち去った。
少年のその反応に私は少年以上に赤面してしまった。
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「今から先ほどとは別の少年を少し検査するんですよ。」
霧神女史は私に少しその検査を手伝ってほしいと言う。
ここまで取材に協力しているのだからいいじゃあないですか、と彼女は笑った。
「ずいぶん楽しそうなんですね。」と、私は精一杯の嫌味を言った。
じゃあ貴女は楽しくないんですか?と霧神女史はクスクス笑いながら私を舐めるように見た。
この女の吐く言葉はいちいち癇にさわる。
が、悔しいが彼女が為す行動について興味が無いと言えば嘘になる。
目の前にいる女は非常に危険だ。少年たちにとっても私にとっても。
部屋の前で待機していたナースが白衣を手渡しそれを着るように促した。
確かにこれに袖を通すだけで病院関係者らしくみえる。
彼女が案内した部屋は見覚えがあった。
理解してなければ気付かないだろうが、わずかに精液の匂いが残っている。
先ほどの少年の匂いだ。
つまりこの部屋は先ほど盗撮していた部屋で、勿論私はカメラを警戒した。
霧神女史は偽装してある医療機器にシートを掛けて、盗撮の意思が無いことを示した。
部屋の奥をみると先ほどと同い年くらいの少年が立っている。
突然ぞろぞろと女集団が部屋に入ってきたのを見て
少し少年は居心地の悪さを感じたようだ。
部屋には霧神女史、私、ナースが数名。女性陣の中に少年は下着姿でいる。
Tシャツと白いブリーフパンツ。
私はついその部分に目がいってしまう自分に気づいて恥ずかしくなった。
しかし確かにその部分には男の子らしい小さな膨らみがあり
奇妙な言い方だが少年はちゃんと男の子であった。
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「今度はどんな検査が始まるんですか。」
霧神女史に小声で今更のように尋ねると、
「どんな検査が始まると思いますか?」
と苦笑しながら返事が小声で返ってきた。
質問するまでも無い。
今から少年はパンツを下ろされるのだろう。
そのための下着姿であるのは違いない。
部屋の端に立っていた少年は指示を受けて中央に立たされ
前を隠していた両手もナースが後ろから掴んで肩の高さまで持ち上げた。
「じゃあ、三田村さん。パンツを下ろしてください。」
霧神小夜子の言葉に頭が真っ白になった。
手伝えというのはこのことだったのか。
少年がおどおどとした視線で私を見る。
生唾を飲み込んだ。
嗜虐心というものがくすぐられた。
先ほどの去勢された少年の屈辱的な姿が頭に浮かぶ。
善悪を抜きにして語るならばその姿は刺激的だった。
少しづつ毒がまわってきているような気がした。
私は少年の足元にしゃがみこんでその下着に指を掛けた。
少年の脚はやや震えているようだ。
すっとゆっくりパンツを下げると目の前に少年のペニスが顔をだした。
男性経験が無いわけではないし、初めて見るというわけでも無い。
しかし確かに私は身体の芯が熱くなっていた。
つまり少年に男の子として屈辱与える行為に知らず知らず興奮していたのだ。
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パンツを下した後、これからそもそもどういう検査を行うか知らないことに気づいた。
少年は両手を後ろからナースに掴まれてるので動けない。
私の目と鼻の先には少年のペニスが恥ずかしそうに揺れている。
霧神女史を見ると満足そうにうなずいて合図をすると
周囲のナースたちが少年の足元からパンツを取り上げ壁際まで下がらせた。
少年の両手はナースが掴んだままだ。
少年は恥ずかしそうに終始うつむいたままで
無論そのペニスを周囲の視線から守るものはない。
そんな少年の姿を横目で見ながら霧神女史に小声で尋ねた。
「あの・・・、これって何の検査なんですか?」
霧神女史は少年にはただ「成長期の身体的な検査」としか伝えていないと小声で説明した。
勿論そんなのはただの建前でしかないのは明白だ。
霧神女史が私を見て少しクスクスと笑ってその視線を流した。
流した視線の先を追うとそこには少年のペニスがあった。
「貴女はこの子のペニスを見てどう思いましたか?」
霧神女史はそれを見つめながら小声でささやく。
質問が曖昧すぎて私にはその意図が理解できなかった。
「どうって言われても…。」
少年のペニスをチラチラ見ながら答えを探す。
困惑する私を見て、霧神女史は楽しそうにヒソヒソと小声で耳打ちした。
『…つまり、アウトかセーフかって意味ですよ。』
背筋に電気が走った。
同時にぞわぞわとおぞましくて暗くて甘い気持ちが足元から登ってくる。
その言葉に魅入られたように私はすべてを忘れて少年のペニスを見つめた。
「この少年の・・・おちんちんを・・・、切る・・・。」
つい漏れてしまった言葉は私を薄暗くほのかに興奮させる。
刺激的で許されない感情が湧き上がり飲み込まれそうになる。
私は知っている。霧神女史にペニスを切られるということは
ただそれを失うだけではすまないことを。
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ちらりと霧神女史を見る。彼女は楽しんでいる。
寒気がした。
きっといつもこんな感じで切除するペニスを選別しているのだろう。
ここで彼女が『切る』と判断した少年は
改めて『若年性男性外性器がんの疑いアリ』として精密検査に廻されるのだろう。
勿論その精密検査に意味はない。
つまり今この場所が少年にとっての最終検査だ。
しかしこれを検査と呼んでしまっていいのだろうか。
これはどちらかというと屈辱的で残酷なペニスの品評会だ。
気まぐれな審査員が不合格を出したペニスは去勢されるのだ。
霧神女史が蛇のような目で様子を伺いながら私の返事を待つ。
私は睨まれたカエルだ。
彼女はおそらく他人の心の弱い部分を見抜いて
そこに背徳的な感情を植え付ける才能があるのだろう。
植え付けられた感情が芽吹くとその人間は彼女に支配される。
恐ろしいまでのカリスマ性だ。
私は次第に足が震えてきた。
どう答えていいかが分からないのだ。
それは勿論、結局誰かが去勢されてしまうことを
私は知らされてしまったからだ。
目の前の少年が去勢されなくても別の少年が。
もしかすると検査薬が足りないとなれば少年たちより多くの少女が
不確かな検査のまま予防切除を受けざるを得ないかもしれない。
「難しく考えるからダメなんですよ。」
霧神女史はあっけらかんと簡単に言う。
考えても意味が無いからペニスの見た目で判断するんですよ、と彼女は笑う。
それは切られる側から見て、ペニスを切除される理由の中では最も屈辱的な理由だ。
「わ、私が決めなくてはいけないのですか?」
私はあくまで部外者という立場を主張した。
「もちろん、最終的な判断はこちらがしますよ。
一応、貴女の意見を伺いたいだけで。
貴女の意見に何らかの責任が発生することはありませんから。」
霧神小夜子は楽しむように私を眺めて微笑んだ。
私に何らかの責任が発生しないことは本当だろう。
ただし、本当に最終的な判断があるかどうかは疑わしい。
おそらく私が「切る」と言えば絶対に切るだろうし
反対に私が「切らない」言えば彼女は絶対に切らないだろう。
目の前の少年のペニスを切るか、
目の前にいない他の少年のペニスを切るか選べ、と彼女は言っているのだ。
ぐらりと地面が揺れて立っていられない気分がした。
この女は人の姿をした悪魔だ・・・。
初めに彼女は『覚悟はあるか』と私に確認した。
その覚悟は『彼女を敵に廻す覚悟』なんて甘いものではなかった。
彼女は私に『少年のペニスを切る覚悟はあるか。』と言っていたのだ。
霧神小夜子という人物は敵に廻してはいけないのではない。
決して近づいてはいけない人物だったのだ。
決して暑くない部屋で冷や汗が流れ落ちる。
思考がめぐることがあってもまとまることは無い。
私の視線は少年のペニスに釘付けだ。
ペニスから目を背けて見ないで判断するのも失礼な気がした。
少年は私の突き刺さるような視線が気になるようで
たまらず恥ずかしそうに足を内股に閉じてもじもじさせた。
『自分がどれほど危険な立場にあるか理解していない。』
少年の恥ずかしがる姿にそう感じてしまった。
無理もない。理解できるわけがないし、想像できるはずもない。
自分のペニスが私の気まぐれで切られてしまうなんて。
そしてその事実は私の身体の芯をほんの少し熱くさせた。
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霧神小夜子という人物は私が予想していた以上の怪物だった。
彼女を告発する決意でこの病院に乗り込んだものの、
気付けば私はあべこべに少年のペニスを切るかどうかで悩み苦しんでいる。
彼女の毒は次第に浸み込むように私を汚染する。
去勢された少年の犯される姿が頭に焼き付いて消えてくれない。
本来ならば少年のペニスを切るなど許されることではない。
しかし、霧神小夜子はそこに正当な理由を用意したのだ。
すると、私の心の弱い部分に植え付けられた悪魔がささやいてくる。
『こんなチャンスはあり得ない。』
気持ちがぐらりと揺れる。
何しろ目の前の少年のペニスを切っても心を痛める必要がないのだ。
社会全体からみて、それは尊い犠牲と割り切ればいい。
少年から見ても、確かに男の子の自尊心は失われるが
その代り家畜としての喜びを霧神女史から与えてもらえる。
そうだ、先ほどの去勢された少年も射精する瞬間
あんなにも幸せそうだったではないか。
きっと最初から、予防切除について知ってしまったときから
私は去勢という行為に深く関心を抱いていたのだ。
そして今、信じられないことにそれを実行することが可能だ。
正確にいうならば、実際にペニスを切る行為に関しては
医師ではない私が行うのはいろいろ面倒があるだろう。
しかし目の前の少年のペニスを切る判断は、今確かに私ができるのだ。
それはこの子に女性用の下着をはかせることであり
射精管理で惨めな家畜にすることでもあり、
こころの奥底にいびつなレイプ願望を植え付けることでもある。
可能だから実行してみたいと思う気持ち。
特別に許されるからその権利を使用したいという優越感。
そして歪んだ性的嗜虐心。
それらが徐々に私の心を暗く甘く真っ黒に塗り替えていく。
吐き気がする。頭がおかしくなりそうだ。
逃げ出したい。取材になんて来なければよかった。
切ってみたいという欲求とそれを押し止めようとする理性。
それらが私の心の中で争っている。
答えが出せない。覚悟が足りない。
「もう良いですよ。パンツをはかせてください。」
口を開いたのは霧神女史だった。
私は全身の力が抜け、大きく息を吐いた。
ナースたちは少年にパンツをはかせ、隣の部屋で
別の検査を行うという理由で少年を部屋から退室させた。
部屋には私と霧神女史だけが残った。
「真面目ですね、貴女は。」
霧神女史は感心したような口振りだった。
「でも楽しむ気持ちも必要なんですよ。」
彼女はそう言ってクスクスと笑った。
霧神女史の言い分は常軌を逸している。
しかしその常軌を逸した言い分を私は理解できてしまう。
「そうですね。貴女がもう少し楽しめるようにしましょうか。」
背筋がぞっとした。そして気付いた。
私は少年のペニスよりも自分自身を彼女から守るべきだったことを。
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隣の部屋で行われていた形だけの検査が終わり
少年が再びナースたちと共に部屋に入ってきた。
ナースたちは少年を椅子に座らせその身体に
心電図で使うような電極をぺたぺたと貼り付けた。
少年が腰かけた椅子は厳密には椅子ではない。
見覚えがある。去勢された少年が拘束されていた開脚台だ。
「これから最後の検査をします。」
霧神女史はそう言うとまたしてもナースたちに指示して少年のパンツを脱がせた。
開脚台に拘束され、先ほどの少年と同じく足を強制的に広げさせられる。
既にペニスを晒しているとはいえ、その姿は屈辱的で刺激的だ。
既視感に襲われる。
去勢された少年と目の前の少年の姿が重なる。
二人の少年の違いは言うまでもない。
その部分が男性器であるか女性器であるかだ。
この既視感すら彼女の演出なのだろう。
理性に反して胸がときめく。
彼女の毒が私の心を蝕んでいく。
「三田村さん。じゃあお願いします。」
霧神女史はクスクス笑いながらチラリと少年のペニスを見た。
もはや嫌な予感しかしない。
そして霧神女史は少年にではなく、まるで私に向けてするように説明しだした。
「今から、勃起中の検査を始めます。精密な検査なので被験者は勃起を維持してください。」
「「えっ?」」
驚きと困惑の声が重なった。声の主は少年と私だ。
霧神女史が少年の無防備な性器の前にイスを用意すると
私の背中をどんと押して其処に座らせる。
少年は手足を拘束されている。
つまり少年のペニスを私に勃起させろ、と言っているのだ。
大股に開いた股間が眼前にあり、少年の包茎が嗜虐心を煽るように
ピクピクと恥ずかし気に怯えている。
少年の表情を見なくてもその気持ちがペニスから伝わってくるようだ。
医療用の薄手のゴム手袋と潤滑剤が手渡された。
その行為を断るのであれば今の内である。
チラリと霧神女史の表情を伺う。
彼女はクスリと笑って耳元でささやいた。
「とりあえず勃起させてあげてください。楽しいですよ?」
臆する私を後押しするように言い含めると、私の手を取って
少年のペニスに導いた。
さわられた感触にビックリしたのか、少年のペニスが小さく跳ねた。
その反応に私の心に小さな火が灯った。
じゃれつくように人差し指で軽く包茎をもてあそぶ。
他人の性器を勝手にもてあそぶ行為が
甘く暗い支配感と優越感を私の心に植え付けた。
包茎の先端をつまみ、ぐっと押し下げると
包皮がくるんと反転し、ピンク色の敏感な亀頭が顔を出した。
ヒンヤリとした潤滑剤を歯磨き粉のように塗り付け包皮を戻す。
潤滑剤が溢れ出ないように包茎の口を指でつまんで、
神社の鈴緒のように意地悪く振り回した。
いとも簡単に少年は反応して勃起する。
指を離すと包皮内の潤滑剤がよだれのようにこぼれ落ちた。
「検査はすぐ済みますから、しばらくそのままで。」
霧神女史はそう言って、指で輪を作って上下に動かすしぐさをして見せた。
(ペニスをしごいて下さい。)
彼女は笑いをこらえながら、そう合図したのだ。
私は本能に従うように手を動かす。
「あ、あの…っ!」
少年がたまらず訴えるように声を出した。
「すぐ済みますから、我慢して下さい。」
少年が全部言い終える前に、霧神女史は冷たくさえぎった。
周囲のナースたちは笑い声を漏らさないように堪えている。
それを横目にリズミカルに手を動かす。
私は生つばを飲んだ。のどは焼けるようにカラカラだ。
『少年の意に反して』おちんちんをしごくという危険な行為に私は魅了された。
「検査中に勝手に射精しないでくださいね。
後日に検査をやり直さなくてはいけなくなってしまいますからね?」
霧神女史は私ではなく少年に厳しく忠告した。
「射精させてはいけない」のではなく、
「射精してはいけない」なのだ。
私はもう彼女の意図すら考えることもできない。
興奮している。
目の前の少年のおちんちんをもてあそぶことに夢中だ。
そうしてふと思った。
『このペニスはもはや少年のものではない。』
毒が全身を蝕んでいる。
その毒が心地よいと感じている。
手を動かしながら霧神女史をチラリと見る。
その眼差しは魅惑的だ。
きっと彼女のことだ。
「射精してはいけない」という言葉にも魔法がかかっているのだろう。
それはおそらく私の理性を崩壊させる魔法だ。
私の全てを見透かしたように
霧神小夜子は一度うなづいて再度少年に忠告した。
「絶対に射精しちゃダメですよ。」
そして氷のようなヒヤリとした空気が周囲を包む。
彼女はクスリと悪魔のように微笑むと、まるで軽く冗談を言うように警告した。
『そんないやらしいおちんちんは、ちょん切ってしまいますよ?』
その言葉は私の全てを崩壊させる一言だった。
一瞬で興奮は頂点に達し、背筋に電流が走った。
周囲のナースたちは少年に遠慮することなくクスクス笑う。
少年はその言葉に困ったような表情をみせた。
その握ったペニスから少年の気持ちが伝わってくる。
それはお漏らしをしてしまった子供が保健室の先生に女の子たちの前で
「次にしたらおちんちん切っちゃうよ。」と言われたときに感じる程度の気持ち。
去勢の恐怖ではなく、男の子として恥ずかしいという気持ち。
私は絶句した。
少年には分かりようが無いのだ。
霧神小夜子のその一言が冗談でもなんでもないことを。
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そしてその一言は少年ではなく私に向けてのものだ。
少年がどれほど必死に我慢しても、その気でしごき続ければいずれ射精する。
霧神女史はつまり少年のおちんちんを切り落としたいなら
射精させてください、と私に言っているのだ。
私にその気がなければ手を緩めてあげる、もしくはしごくことを止めてしまえばいい。
霧神女史は絶対にこの少年を去勢の対象にはしないだろう。
深呼吸をするように大きく息を吐いた。
もうすでに私にとって少年が犠牲になることは最早問題ではない。
誰かが犠牲になるのは仕方のないことなのだ。
誰を犠牲にするか選ぶという責任も負わなくて良いのなら
問題はたった一つだ。
つまり「私が少年のペニスを切除することを楽しめるかどうか」である。
私が少年のペニスをしごいて虐め抜く結果、少年は大事なペニスを失うのである。
その手を動かすのを止めない。
文字通り少年のペニスの運命を握っている。
私の指先一つでその運命は簡単に変わるのだ。
このまま手を止めなければ、少年は射精に至り
後日の再検査で異常が発見され予防切除の名目で去勢される。
そして新たにパンツの中身が女性器という
屈辱的な秘密を抱えた少年が生み出されるのだ。
ぐらりと天秤のはかりが傾いていくのを感じる。
理性を淫靡で漆黒な感情が駆逐していく。
楽しい。
楽しくて仕方がない。
おちんちんをしごくという行為がこんなにも楽しいことだったなんて。
潤滑剤を多めに取り少年のペニスに馴染ませる。
人差し指でヌルヌルの亀頭をなでてやるとピクピク反応する。
包茎を利用して包皮をスライドさせる。
ピンクの亀頭を出し入れする感触が心地よい。
高揚感とともに手の動きを速めていく。
少年はたまらず音をあげた。
「だ、だめっ。もう出ちゃいま…!」
「男の子なら、必死で我慢しなさい!」
さえぎるように私は少年を叱責した。
我慢出来なくなったときは男の子でなくなるのだ。
自分の身は自分で守ればいい。
少年が鉄のような意思で射精を我慢することが出来れば。
私の腕が疲れて動けなくなるまで必死に我慢できれば
少年は男の子でいられる。自分の身を守れるのだ。
勿論そんなことは私が許さない。
(君は私が女の子にしてあげる。それも最も残酷な形で。)
それはつまり私が覚悟を決めたということだ。
霧神小夜子の傀儡になるなんて御免だ。
彼女は私が少年を射精させると思っている。
それをほんの少し裏切ってやりたい。
彼女が私に魔法をかけたように、私は少年に魔法をかけてやるのだ。
少年は女の子のような声を漏らしながら必死で耐えている。
私はあえて少年が限界に近づくとスローダウンし、
持ち直しかけるとギアチェンジして回転数をあげた。
生かさず、殺さず。
それは拷問の鉄則だ。
やがて少年に変化が見えてくる。
目を見れば分かる。
言いつけを守れない幼稚園児が見せるおねだりの目。
私はあえて少年のおちんちんを責める手を緩める。
少年は今度は逆に自ら腰を動かして乞うようにペニスを私の手に擦り寄せる。
私の指に引っかかるようにして勃起したペニスの包皮がめくれ上がる。
私は手こそ動かさないが指で少しばかりペニスを絞めてあげる。
指の輪に絞められたペニスを少年はいやらしく上下させる。
「おちんちん、自分から動かさないっ。」
私の一言に少年はびくっと驚いて赤面した。
周囲のナースたちからクスクスと苦笑が漏れる。
霧神女史は少し神妙な表情を見せた。
一呼吸をおいて私は再び少年のペニスを握り有無を言わさず責めあげる。
少年は我慢できないように声を漏らす。
ある程度回転数を上げて保った後、またしても徐々にその手を緩める。
少年は我慢できないように再び自分からペニスを上下させる。
「おちんちん!!」
私が強めに叱責すると、少年はひっ、と情けなく声を漏らす。
どっとナースたちが笑い転げた。
少年は真っ赤になって涙目だ。
「次はもう注意しませんよ。あと2,3分で検査は終わりですから。」
私は勝手に時間を区切った。霧神女史は私のスタンドプレーに少し驚いている。
彼女の驚きは私にとって少し気分の良いものだった。
何も問題はない。3分で終わらせるのだから。
ギアをトップに入れてフルアクセルで少年のペニスをしごく。
私は霧神小夜子に合図するようにウインクしてみせた。
そしてチキンレースのようにフルスロットルから、手を止めて急ブレーキをかける。
絶妙のタイミングで射精寸前で見事にピタリと急停止した。
「…………!」
私は狙ったのだ。
少年が逆に検査終了を最も苦しむタイミングを。
ちらりと霧神女史を見た。
唖然とした表情でこちらを見ている。
彼女もこうなれば可愛いものだ。
少年の下半身がピクピク痙攣している。
私には掴んだペニスから少年の心情が手に取るようにわかる。
少年のペニスは懇願するように、みたび自ら上下に動き始めた。
もう私は少年を叱責することは無い。
ただ少年の目を見つめた。
少年の目は悪いことをしている子が取り繕うかのような表情だ。
私は何も言わず表情も変えずただ指で輪を作って絞めてあげる。
少年は私の顔色をおびえながら伺う。
そしてごめんなさいという表情でペニスの動きを速めていく。
少年は必死で腰をふる。
ペニスの動きに合わせて包皮がひとりでにめくれ上がる。
少年が腰を突き出すとピンクの先端が顔を出し
腰を戻すとそのピンクの先端は恥ずかしそうに包皮に埋もれた。
その姿は滑稽というしかない。
哀れな少年は射精したら去勢されるという運命を理解できていない。
ゆえに自分がどれほど惨めに私の手のひらで踊らされているかが分からないのだ。
この少年の運命は決まった。
時間はそろそろ3分だ。
私は少年のペニスを握る指を小指から一本づつゆっくり離していく。
順に離していくと最後に親指と人差し指だけでつまんだ状態になった。
少年はただ射精したい一心で腰を振る。
その二本の指さえも少しづつ離していくと少年のペニスは素振りのように空を切る。
少年に快楽を与える指は無い。
少年のペニスは物欲しそうにぴくぴく痙攣している。
少年の表情は見ているこちらまでとろけそうだ。
「みんな見てるわよ。」
私の一言で少年はあっ、と小さく声を漏らして周りをうかがった。
数人のナースたちと霧神小夜子が少年を見つめている。
これは彼女たちにとっても予想外のことなのだ。
自分の姿を思い返して少年にどっと羞恥心が襲い掛かる。
「いけない子ね。」恥ずかしさでいっぱいの少年に甘くささやく。
少年の心の奥底にある罪悪感を呼び起こして私は少年に意地悪く魔法をかけた。
「・・・いやらしいおちんちん。」
その言葉は少年にとっても聞き覚えのある言葉。
『いやらしいおちんちんはちょん切ってしまう』 霧神小夜子の言葉だ。
ナースたちがクスクスとこぼれるように笑い出す。
彼女たちはただ私が少年の痴態を嘲笑ったと感じたのだろう。
それも狙い通りだ。
霧神小夜子はその言葉を口にした本人だ。
私の言葉の意図を理解したのだろう、絶句している。
いい気分だ。
少年もその言葉を言われた本人である。
気が付かないはずが無い。
私は少年の痴態を辱めながら、霧神女史の言葉を思い出させたのだ。
部屋にはナースたちの軽笑が渦巻く。
もともと少年は限界寸前だったのだ。
どんな些細な刺激でも少年は射精してしまう。
それが嘲笑という刺激でも。
それは同時に去勢という不安を与える言葉でもある。
少年の表情が苦しくゆがむ。
射精したいという気持ちから、射精してはいけないという気持ちへ。
駄目を押すように私は心を込めてささやいた。
「いやらしい、・・・おちんちん。」
少年の身体が言葉に反応して悶えた。
少年の顔は真っ赤だ。
おそらく少年には霧神小夜子の言葉が聞こえてくるのだろう。
『そんないやらしいおちんちんは、ちょん切ってしまいますよ?』
愉快なことにその男の子としての悔しい恥ずかしさが少年を射精させてしまう。
少年はたまらず声をか弱く漏らした。
「・・・・あ、あ、ああっ。」
その姿は去勢された少年と重なる。
この少年にも女性用の下着が屈辱的なほどに似合うだろう。
少年のおちんちんが意思に反してビクンと跳ねる。
「ご、ごめんなさいっ……!」
少年のペニスはまるで独りでにセルフタイマーのように
濁った精液を大量に勢いよく吐き出した。
少年の運命はその瞬間決定してしまった。
時間はきっかり3分。
少年は自分自身の行為で性器を失ってしまったのだ。
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「どういうつもりですか?・・・勝手にあんなこと。」
少年を退室させるなり、霧神女史は興奮した様子で尋ねてきた。
だが決して私を責めているようではないようだ。
「私が射精させたのではないですよ。あの子が勝手に射精したんです。」
その言葉は彼女の問いの答えになってはいない。
これはあくまで屁理屈めいた自己弁護だ。
何故なら彼女の言いなりで少年を射精させてしまい、去勢に至ったなら
おそらく私は彼女のしもべに成り下がってしまうだろう。
『病院で行われている行為は黙認するが、立場は対等だ。』
私はその言葉を口にすることなく主張してのけた。
霧神女史は茫然として言葉を失ったが、まばたきを何度か繰り返したあと口を開いた。
「呆っれた・・・。貴女、筋金入りの負けず嫌いなのね。」
あそこまでやりますか?と言いたげに彼女はおかしそうに笑ってみせた。
私にしてみれば当然だ。
霧神女史が私を魅了したように、
私も彼女を魅了させないとその主張に説得力はない。
そのために少年には彼女を魅了させるほどの屈辱を味あわせたのだ。
「やだ、あの子かわいそう(笑)」
あんなミジメな射精は見たことがないと彼女は頬を赤らめた。
いずれ少年のペニスを切り落とす張本人が何を言っているのだろうと
私は彼女の勝手な言い分に苦笑せざるをえなかった。
「去勢する少年と同数以上の少女を予防切除から
守れるという大義名分があるから、私はこのことを黙認するのよ。」
それは私の偽らない本心だ。きっと彼女もその部分だけは守り通すだろう。
そうして彼女はその手を差し出す。
「勿論わかってるわ、愛子。」
「取材協力ありがとう、小夜子。」
私はその手を握りかえす。
私は何か吹っ切れた心地がした。
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私は踏ん切りがついたのか、その後すぐに師匠と手を切った。
私は様々な分野に取材を行い、独自の記事を売り込んだ。
今までの行き詰まりが嘘のようだった。
数か月後、雑誌に私の書いた記事が掲載された。
もちろん、小夜子と藤ヶ崎総合病院の記事だ。
そこでは彼女が開発した検査薬のおかげで
予防切除から救われた少女たちの話が書かれている。
そこには嘘は書かれていない。
都合のいい部分だけ切り抜いて報道するのはジャーナリズムの悪しき慣習なのだ。
この記事は彼女たちの援護射撃になるだろう。
程なくして小夜子から小包が届いた。
桐の小箱の蓋を開け、中の布包みを取り出し、それを紐解く。
予想どおり見覚えのある包茎が姿を現した。
手術に先だって小夜子から手術の立ち合いを
特別に許可する旨の連絡があったが丁寧に断った。
素人が邪魔をしては申し訳がない。
手術の仔細は彼女とアルコールを飲み交わしながら聞けばいいだろう。
再検査の後、「若年性男性外性器がんの疑い有」という診断が下されると
少年は最初、「射精のお仕置きとして去勢されるんじゃないか」と
疑念を持ったらしいが、小夜子が上手くフォローを入れたようだ。
少年の一つ下の弟も「若年性男性外性器がんの疑い有」として去勢したという。
少年の家系はその病気の発症しやすい家系と暗に含ませたのだ。
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「愛子。去勢したい子がいたら連絡ちょうだいね。」
小夜子はそれがまるで口癖のようになっていた。
彼女にとって例の少年の件が忘れられないらしい。
私も似たようなものだ。
名前さえわかれば目に入る少年は誰でもそのペニスを切り落とすことができる。
しかし誰でもいいというのは逆に難しい。
つまりそのペニスを切り落としたいと思わせる少年が見つからないのだ。
小夜子が適当に一定の人数を見繕って、ペニスの品評会を行う理由はそこなのだろう。
私は時折、下校時間を狙って住宅街のスクールゾーンを車で徐行する。
交通マナー違反の少年たちにむけて、少し乱暴にクラクションを鳴らしてやる。
案の定少年たちは思った通りの反応をする。
「なんだよ、うるさいな。女のくせに。」
舌を出して嘲る子もいるが私は不思議とその子たちを
去勢したいとまでは思わなかった。
ため息をついて、ゆっくり車のアクセルを踏むと
先の路地から少年が慌てて道を横切るのが見えた。
追いかけられてるのかな、と危険予知して速度を緩める。
思ったとおり追いかけている二人組の女の子が道に飛び出してきた。
二人は車にびっくりしたが、徐行のおかげでぶつかる前に車は停止した。
「危ないじゃない、道路にとびだしちゃ。」
その女の子たちがごめんなさいと謝ると
追いかけられていた男の子がその様子を見てケラケラと笑う。
二人の女の子はきりきりと悔しがった。
少し好奇心が湧いたので話を聞いてみる。
「スカートめくり?」
二人の少女はその被害を訴えた。
少年はその常習犯で、ひどいときはパンツもおしりが見えるまで下してしまうらしい。
少し悪質な気もしたが、その復讐に去勢というのもどうかと思った。
つまりそこに私にとっての面白味がないのだ。
「同じように仕返ししてしまえばいいじゃない。」
少年と少女たちの体格はたいして変わらないように見える。
二人がかりでそれこそ少年のパンツを脱がせてしまえばいいのだ。
「あいつ、多分恥ずかしいって気持ちがないんですよ。」
二人の少女は予想外の答えを返した。
一度パンツを脱がしたことがあったが、ひるむことなく
フルチンのままで仕返しとばかりにパンツを下し返そうとしてきたという。
「あいつにも恥ずかしいって気持ちを味あわせてやりたいんですっ!」
二人の少女は悔しそうに少し涙ぐんでその怒りをあらわにした。
ははあ、なるほどと私は事の状況がつかめてきた。
「つまり、あなたたちはあの子のパンツを下して泣かしてみたいわけね。」
私の直接的な言い方に少女たちはどぎまぎしたようだが、
出来っこないですよ、無理無理、と諦め顔で私に答えた。
「そんなの魔法でもつかわないと無理だよ。」
私はその魔法を使える人物をよく知っている。
彼女もその魔法を使うだけの価値のある獲物を待っている。
「あの子がスカートめくりをしなくなったら、思いっきり仕返ししなさい。」
二人の少女には私のいう意味が分からないだろう。
それでいいのだ。
そうしてその魔法使いに連絡を取る。
「・・・もしもし、小夜子?去勢してほしい子が一人いるんだけど。」
そのとき二人の少女のびっくりする顔と
少年の絶対的な秘密がばれて泣いてしまう顔を思い浮かべて私は楽しく笑った。
(終わり)
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「君のおちんちん、女の子になっちゃったわね。」
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投稿:2015.01.26更新:2015.02.12
魔女の住む城
挿絵あり 著者 うっかり 様 / アクセス 21957 / ♥ 23