「序」
突然届いた1通の手紙。それが一人の少年の運命を大きく変えてしまった。
第1章 「ブルマ対策講座(ブルマ模擬検査)」
ボクは5年生まではごく普通の男の子だった。あえて変わったところといえば、色白、女顔でたまに初対面の人に女子と間違われることがあった程度だった。でもこんなことはボクたちの年齢ではたまにあることだ。
普通に学校に行って、普通に友達と遊ぶ。本当にごく普通の男の子だった。
そんなボクの「普通」に衝撃が走ったのは5年生の春休みであった。
5年生が終わる直前、ボクたち男子にはブルマ対策講座というのが開かれた。今度の6年生のブルマ検査は最後のブルマ検査であると同時に一番厳しい。
ブルマ対策講座はいわば半年後の6年生のブルマ検査の模擬検査で、オチンチンの膨張検査、放尿検査、射精検査にはじまり、そして大きさ長さにいたるまで一通り体験してみることでおおよその合格基準の目安となる。しかし、この模擬検査で否定的な結果が出たとしても即ブルマにされるわけではなく、すべては半年後の本検査のみが合否の判断とされている。そのため、この模擬検査で包茎と判断された者は、本検査までにその施術をしてくるということも可能だ。
このため、考え方によってはそのままではブルマになってしまう者の救済模擬検査とも捉えることができる。
この模擬検査の結果は、それぞれを合計してほぼ合格圏内「青」、注意(再検査)圏内「黄」、不合格圏内「赤」で表される。
当然、今回の模擬検査でまだ精通しておらず、射精検査が原因で「黄」ないし「赤」の判定を受けたとしても、本番の検査までに精通が起こることも十分考えられるので、模擬検査の結果のみで悲観することはない。とはいえ、「赤」判定であったのなら、健全な男子たるもの不安になるのもまた事実である。
ちなみにボクの結果は「青」ランクに届いており、このまま行けば本番も合格圏内ということだった。
そんな中、ボクの友人シゲユキは今回の模擬検査で「赤」の判定を受けて悲観に暮れている一人だった。
「なあ、タカシ。オレ、半年後には女にさせられちまうのかな。」
涙で顔を汚すシゲユキの結果表を見せてもらうと、包茎、膨張率不足、未精通など、放尿検査(立ちション)以外はほぼ絶望的な結果が並んでいた。
「まだ半年もあるじゃないか。そんなに泣くなよ。」
「オレ、女にはなりたくないよ・・・。」
模擬とはいえ、なんと声をかけていいのかわからなかった。シゲユキだけではなく、友人の中には「黄」判定を受けたものもおり、自分が「青」だからといって素直には喜べなかった。
そんなモヤモヤした気持ちのまま帰宅すると、ボク宛に一通の封筒が届いていた。
第2章「手紙」
届いた封筒に書かれていた内容を見てボクは絶句した。父も母も何も言えなくなった。
中の手紙の内容は以下のように書かれていた。
優遇ブルマ制度のご案内
2XXX年3月20日
拝啓 桜花爛漫の候、ますます御健勝のこととお喜び申し上げます。
さて、ご子息タカシ君の小学6年生進級の時が近づいてきました。ご存知のように、6年次のブルマ検査は最終のブルマ検査であると同時に、これまでより厳密な検査になりますので、ご子息タカシ君を始めご家族皆様も何かと不安でいらっしゃるかと思われます。
そこで、ブルマ判定委員会では、毎年6年生になられる男子の出生時個人個人の男性ホルモンの基礎データと、前年までのブルマ検査の結果より、昨年までの男性器の成長状況、男性ホルモンの量を出生時のデータと照らし合わせることでより科学的、医学的に分析した結果、6年次のブルマ検査の判定の合否にかかわらず、女子になること(ブルマ性転換)の素質があると分析結果が出ました皆さんにこの通知を送付させていただいております。
つきましては、ご子息タカシ君のブルマ性転換をご一考いただけませんでしょうか。女児の出生率の年々低下と、ブルマ志願者の伸び悩みにつき、女子人口は年々減少の一途をたどっています。このような形での将来の人口減少に歯止めをかけるべく、国難窮地を救うための英断が必要されている所存でございます。
また、この優遇ブルマ制度においてブルマになられることをご決断された方には、「特別志願者」として将来の進学、就職、結婚などについて一般ブルマやブルマ志願者の方々よりも、より手厚い措置を取らせていただくことを約束させていただきます。
なお、この優遇ブルマ制度は強制ではありません。タカシ君ご自身が夏のブルマ検査を受けられ、合格することで男性としての道を歩まれることを希望されるのなら、ブルマ判定委員会はタカシ君ご自身の決断を尊重いたします。
男性として生きてこられたのに、突然女性になることを提案され、驚きと不安があるかと思われますが、どうかご一考願えませんでしょうか。
もし、ご決断された場合は7月までに下記までご返事くだされば幸せです。
敬具
ブルマ判定委員会事務局
〒XXX-XXX
T都 A区 E町 XX-XX-XX
電話0X-12XX-34XX
つまり、ボクはブルマ検査を主催するブルマ判定委員会から他の男の子よりも女性(ブルマ)になる素質、適正があると判断されたということだった。
蛇足ながら、このブルマ優遇制度の封筒が届くのは男子8千人に一人ということだった。
(どうしよう。自分の体なのに宝くじみたいなのに当たっちゃった。これまで初対面の人に女の子と思われるのは、ボクに女の子の素質があるということ・・・!?)
父も母も、決断はボクに任す。ということで言葉少なげだった。
第3章 「葛藤」
例の手紙が届いてからボクの感情は揺れ動いた。
今まで男の子として生きてきたことがイヤというわけではなかった。しかし、男として生きてきた以上、このまま6年生になって、そして中学生になる。人それぞれの違う人生といっても、男として生きていく大体の筋書きは周りの男性を見ていればおおよそ見当が付いた。
しかし、どうしても男のボクにとって理解不可能な存在があった。それが女子だった。時には群れ、時には孤独を好み、怒っていても他人が来たらうそのように笑顔になる。それでいて繊細だ。
いつしか、ボクにとって女子は常に目で追う存在になっていた。こんなことは男の子なら誰でもあるかもしれない。しかし、女の子の素質があるなどという手紙をもらってしまった以上、その女子というものがどういうものなのかより深く知ってみたいと思うようになったのもまた事実だ。恋愛感情とは違う。あっさり言うなら疑問に対する答えを探しているようなものだ。
女子が何気なくしている仕草。ほかの子はそれを可愛いなどと言っている。実際ボクもそう思う。しかし、もしボクがブルマになったなら、その可愛いしぐさを普通にするのだろうか。その答えを見つけようとしているうちに、いつからかボクはそれを自分のものにしたくなっていたことに気が付いた。自宅の部屋でひとりでいるとき、今日学校で見た女子の仕草を真似てみる・・・。好きな子に対する憧れというものではなく、その女子のしていた仕草を自分自身が何気なく普通にやりたい・・・。そんなところから始まった。
その後、仕草のみならず、化粧や、できるかぎり女の子っぽい服装にも。
目覚めたなんていうヤツもいるかもしれない。しかし、ボクにとっては、知らないものに対する冒険心。変身願望・・・。女の子というものに対する淡い憧れ・・・。そう言ったほうがいいかもしれない。
しかし、これでブルマになる決心が付いたというわけではなかった。これまで自分が生きてきた、粗暴で無鉄砲。何かあると女子とは違っていつも我慢を強いられる。それでいて自由奔放な男子が居心地がいいというのもまた事実だった。逆に、男子であるボクからすると、女子はいろいろ制約が多くて窮屈と思える場面も見てきた。それゆえに、率直にブルマになりたいかと言われればイエスともノーとも言えない。男子のまま残りたいかということもはっきりとは決断できない。男子に生まれて女子の素質があるとされ、ボクの心は男と女の狭間で常に揺れ動いていた。
第4章「決断」
結局、自分自身に決断が下すことができないまま新学期が始まってしまった。例の手紙が来たことはシゲユキたち友人には黙っていた。
しかし、当のシゲユキはブルマにされてしまう恐怖からか、常におどおどしているようだった。
いつしかシゲユキと帰り道で話す話題はブルマ検査一色に染まっていった。
「なあ、タカシ。オレ本当に自信ないんだ。5年の模擬検査の時よりオレのチンポもキンタマも少しは成長しているみたいだけど、やっぱり基準に届かないんだ・・・。」
「あきらめるなよ。そんなにビクビクしていたらオチンチンも縮こまっちゃうぞ。」
こんな会話が何回も繰り返された。
(不合格を宣告されてブルマになるのと、合格圏内なのにブルマの素質があるといわれるのはどっちがショックがおおきいものだろう・・・。)
結論の出ない疑問に自問自答することも多くなった。
そんなこんなで月日は流れ、6月も半ば過ぎになった頃、シゲユキは相変わらず不満を口にしていた。
さすがのボクも毎日、不安を言われればイライラがたまる。シゲユキの態度は不安にビクビクしていて、正直女々しい。ボクはついにシゲユキに不満をぶちまけた。
「おい、シゲユキ。いい加減にしろよ。不安はわかるけど、もし負けても男らしく堂々と負けろよ。負けると解っていても勝つくらいの信念がなくてどうするんだ。最後まで男らしくしろよ。結論が出たら出たでキッパリとうけとめろよ。お前も不安なのはわかるけど・・・。ボクだって・・・。」
言いかけたけど、すぐにシゲユキの前から逃げ出すように走り去った。
(ボクだって、ボクだって、今一番辛いんだ・・・。)
いつしか眼から大粒の涙が溢れていた。
その日はなかなか眠れなかった。
(ボクだって男でいたいよ。でも男のままでいると何か中途半端な男みたいな感じがする。すべてはあの手紙が悪いんだ・・・。)
悩みぬいた末、ボクはついに決断した。ブルマの「特別志願者」になることを。いつしか自分の心に芽生えた中途半端な男という気持ちにふりまわされるのなら、そして折角自分に女子の素質があるという分析結果が出ているのなら、一番最初に抱いた疑問に結論という終止符を打つためにも、ブルマを決断した・・・。
ボクの結論に、父は「そうか。」というだけだった。母は無言だった。しかし、息子が下した結論についてとやかくは言わなかった。
第5章 「約束」
次の日、担任によってボクが「特別志願者」になることが帰りのHRでみんなの前で打ち明けられた。皆、女子も含め驚いた様子だったが、「特別志願者」を決断したという勇気に拍手でこたえてくれた。
「来週からタカシ君は『ブルマ特別志願者』として、皆さん(男子)がうけるブルマ検査より一足先に、ブルマになるためT都の学校に転校します。T都の学校ではタカシ君のように『ブルマ特別志願者』が集まり、そこで施術、教育をうけます。『ブルマ特別志願者』は特に女の子としての素質に恵まれた男の子がなるもので、今後のブルマになる子のためにも体の変化などのデータの模範とされるため、タカシ君はそちらの学校にいったまま卒業します。皆さんが中学生になるときには戻ってきますので、そのときは女の子になったタカシ君を温かく迎えてください。」
担任からのひととおりの説明が終わった後、ボクはこの学校での最後の下校を向かえた。そんな時、ボクを追いかけてくるやつがいた。シゲユキだ。
「タカシ。今まで悪かった。お前の勇気をみせてもらって、オレも来月のブルマ検査、正々堂々と受けることにする。どっちみち女にされちまうけどな。だから、中学の入学式でお互い笑って会おうぜ。男同士の約束だぜ。」
この約束がシゲユキと交わした最後の男同士の約束だった。
「次に会うときは女同士だな。」
シゲユキはそう言って笑っていた。
第6章 「カルチャーショックそして出会い」
7月よりボクは『ブルマ特別志願者』の集まるT都の学校に転校した。
しかし、そこは想像を絶するところだった。
新しい学校に集まってきた『ブルマ特別志願者』たちはみんな女子。・・・というより男子なのだが皆女子の格好をしている。それに、以前ボクが気にしていた女子の仕草をほぼ全員そつなくこなしている。
正直、女子として全く違和感がない。髪型も、服装も、何もかも・・・。股間に男の子のものが付いていることをいわなければ、女子で通せるレベルだ・・・。 ボクから見ればもう施術を待っているだけというくらいに見えた。
(何なんだここは・・・。)
聞くと、皆ブルマ志願者で、普段から女子として生活をしていたそうだ。それで今年のブルマ検査でブルマ志願をする予定でいたところ、『ブルマ特別志願者』の封筒が届いたため、これに応募したとのこと。
今まで男子として過ごしてきたボクとはレベルが違いすぎる・・・。完全にアウェーだ。転校初日から大きな遅れを取ってしまった。
そんな中、ボクと同じ男子の格好のまま『ブルマ特別志願者』に応募してきたヤツがいた。彼はヒロシといっていた。
結局女子としての基礎が備わっていて、ほぼ施術を待つだけの彼女(?)たちとは大きく遅れを取っているボクとヒロシの2人は基礎クラスに振り分けられてしまった。
午前中は普通の学科、そして午後は女子になるための基礎をみっちり教え込まれる。一日が終わり寮に帰るとへとへとだ。ちなみに寮では同じ基礎クラスのヒロシとルームメイトになった。
毎日毎日、朝から晩まで女子として振舞う。ここでは男子として振舞うことは一切禁止されている。他の彼女(?)たちはそんなこと関係ないかもしれない。しかし、ボク達にとっては正直重荷だ。
(今頃シゲユキも女の子になるために頑張っているんだ。『ブルマ特別志願者』のボクが負けるわけにはいかない。)
それを励みに毎日一緒にいる他の彼女(?)たちに早く追いつこうと頑張った。
第7章「ヒロシの本音」
訓練も1ヶ月が過ぎ、ついに明日は施術日。そんなとき、部屋で寝る前ヒロシがボクに話しかけてきた。
「タカシ。いよいよオレたち明日女にされちまうんだけどお前どう思う?」
「・・・。」
「怖いのか?オレたち2人だけここでは浮いた存在だ。よくお前も『ブルマ特別志願者』なんかになったよな。」
「確かに怖いよ。でもボクは・・・。」
なぜボクがこの『ブルマ特別志願者』に応募したのかをそのいきさつをヒロシに正直に話した。
「ふーん。オレよりしっかりしているじゃん。お前は女顔だからきっといいブルマになれるよ。」
「そういうヒロシ君は・・・。」
「オレ?オレは馬鹿だったから応募したの。」
「えっ?」
「簡単に言えばこれに志願すればある程度の将来のサポートをしてくれるだろ。それが目当てだったといってもいい。前の学校じゃ問題児だったんだ。いじめ、万引き馬鹿なこと何回もやって、気が付けば中学に入る前から中学のヤンキーな人たちから目を付けられて・・・。もうどうしようもなくなったとき、例の封筒が届いたんだ。馬鹿がゼロからやり直すにはブルマになるしかないんだ。ブルマになれば男としての悪さはできなくなる。女になってもう一度リセットさ。オレなりのけじめさ。例の封筒はオレにとって天の助けみたいなもんだ。幸い中学からは例のヤンキーのいない中学にいくことになった。馬鹿やってチンポなくしてオレは本当の馬鹿だよ。」
「そうだったんだ・・・。」
「でも、言っておくぞ。オレ達『ブルマ特別志願者』なんていうのは体裁のいいモルモットさ。だってそうだろ、女子の素質があるなんて言われても、紙切れのデータ眺めて出しただけじゃんか。初めから女になりたいやつはいいけれど、オレ達の今までをブルマ判定委員会は一度でも生で見たことがあるのかよ。女子人口の頭数をそろえるために将来のサポートを飴として、勝手に男を奪っちまうんだから残酷なところだよ。」
そう言うとヒロシは枕を抱えて泣いていた。
ボクはそっと布団の中で目を閉じた。
第8章「ブルマへ」
翌日、ボク達のブルマ施術は予定通り行われた。昨日のヒロシの言葉が少し胸にささっていたが、ボクはボクなりに出した結論だ。後悔はできない。
施術台にあがる前、最後にオチンチンをまじまじと見た。
「お願いします。」
涙をこらえながら、女医さんにそう言った。
施術台に寝ると、首のところでカーテンがしかれた。もう自分の股間を見ることはできない。
薬のせいで痛みはないとはいえ、金属のカチャカチャという音が、次第にボクの体から男を消し去っていく。
カーテン越しのシルエットの動きがボクを女の子に変えていく。女医さんの手が止まったとき、看護婦さんによってボクの股間から細長い塊がトレーに乗せられた。それが何なのかはシルエットでもはっきりとわかった。シルエットはだんだん涙でにじんでいった。
施術が終わると、しばらくは安静のためベッドで寝かされました。
その日は午後から寮で自由時間だった。しかし、部屋にヒロシはいなかった。
聞くと、変わってしまった自分の体を見て泣き叫びだし、そのまま情緒不安定とされ、入院治療となったとのこと。結局卒業までヒロシに会うことはなかった。
施術後、数日すると身体測定が日課に加わり、胸の成長、筋肉のつき具合、など、緻密に行われた。これが今後のブルマになる子達のためのデータとなるらしい。
さすがに半月もすると、自分でも解るくらいに体の変化が現れていった。
寮のバスルームの鏡に映る姿はまさに少女だ。ボクはブルマになったのだから少女で間違いないのだが、今まで以上に少女になっている。
毎日の身体測定があるため8月の夏休み期間も基本的には寮生活だったけど、お盆の3日間は帰宅が許された。
転校当時より髪を伸ばしていたため、今では短いながらもツインテールになった。
「ただいま。」
恐る恐る玄関をくぐった。
「タカシか?」
父はボクの顔をまじまじと見ていた。
「おかえり。よく頑張った。」
「ただいま。タカシだよ。女の子になったタカシだよ。」
眼に涙をいっぱい浮かべた父はボクを抱きしめた。笑っている母の顔には涙が伝わっていた。つい先日まで息子だった子が女の子の素質ありであったとしてもわずかの間で娘になってしまうのだから無理はないだろう。ボクも父の胸の中で泣いた。
自分自身がブルマになったことを一番実感したときだった。
3日間はほぼ家にいた。友人たちと久しぶりに会おうとも思ったが、シゲユキとの約束もあるのでそこはぐっとこらえた。
第9章「再会」
帰宅した3日間が過ぎると、再び寮での生活となった。
秋になり、ボクは基礎クラスから、最初から女子(?)だった『ブルマ特別志願者』のクラスに編入となった。もうこの頃になると女の子としての生活も板についてきた。
月日は流れ、3月、ついに『ブルマ特別志願者』としての集合生活は終わりを迎えた。つまり卒業となった。もう体ははじめから女子だったといってもいいほどに本当の女子の体と謙遜ないほどになっていた。
再び実家に戻ると、4月から通う中学の制服が用意されていた。
そして4月。真新しいセーラー服に身を包んで、入学式の日。真っ先にシゲユキの家に向かった。
(シゲユキもどんな風に変身したんだろう。)
そんな想像をしながらシゲユキの家のチャイムを鳴らした。
久しぶりに見たシゲユキの姿に絶句した。シゲユキは学ラン姿だった。
「誰・・・。」
「ボクだよ。タカシ・・・。」
「えーっ。ぜんぜん解らない。」
それよりボクにとってシゲユキが男姿で出てきたことが意外だった。
聞けば、5年生の模擬検査では不合格「赤」判定だったが、身体の成長によってその後の本番では再検査にまわされたものの、その再検査で合格となり、かろうじてブルマにならずにすんだということだった。
「・・・ということは、友人でブルマになったヤツは・・・。」
「残念だけどお前だけ・・・。」
(そんなことって・・・。)
結局、5年生の模擬検査のあと、男子の成長期に入ったやつが多く、赤判定は黄色に、黄色判定は青になったやつが多く、ブルマ宣告された人数は予想されていた人数よりはるかに下回ったということであった。
結果的に運命のいたずらによって、合格圏内にいたボクだけが志願とはいえブルマになったという皮肉な結末になった。勿論最後の男同士の約束は実現することはなかった。
(何でボクだけ・・・。)
終章 「自分の中の男との決別」
入学式のあと、ボクはシゲユキともうひとりの友人Yを祖父の畑に呼び出した。祖父の畑といってももう数年前から祖父は畑仕事を引退している。畑とは名ばかりの空き地だ。当然そこにある農機具小屋も空き家だ。ここはボクたちにとって格好の遊び場だった。
2人を農機具小屋に招き入れると、ボクは彼らの前ですべての服を脱ぎ捨てた。
「おい、なんだよいきなり。」
唖然としている2人にボクは言い放った。
「ボクの体よく見ろよ。お前らだってなっていたかもしれない体だぞ。」
「何でそんなことを・・・。」
「これでもまだ男だぞ。」
『ブルマ特別志願者』としての認定はもう受けている。しかし、まだボクは改名が終わっていないためみなし女子だ。改名の手続きに時間がかかってしまったために、今でもタカシだ。
「お前ら運命とはいえ男同士の約束守れなかったじゃんか。」
「・・・。」
「だから、せめてもブルマになったこの体をしっかりと見てくれ。ボクはまだ男だから恥ずかしいなんて思っていないぞ。」
正直、運命のいたずらで自分だけブルマになったことが悔しかった。
「ずっと前、遊んだ時3人でよくオシッコの飛ばしっこやったよな。今からまたやろうぜ。」
「そんな事言ったって・・・。タカシお前。」
「いいからやろうぜ。さあ、オチンチン出せよ。」
「・・・。」
「やらないのならボクから行くぞ。」
結果はわかっている。でもこうでもしなければ気がすまなかった。
オシッコは不規則に足を伝っていった。
「わかったから止めてくれタカシ。」
「これで解っただろ。ブルマの体がどういうものなのか。ボクはオチンチンを切られたからオシッコを飛ばすことさえもうできないんだ。」
『ブルマ特別志願者』にあるまじき行為だということはわかっている。でも、突然届いた手紙一通によって運命を変えられたこの気持ちを彼らにはわかってほしくて、それと自分自身の中の男に決別するためにもこの無茶を見せつけた。
女子としてはじめから生まれていれば立ちションとは無縁だ。でも、男に生まれ普通に立ちションをしていて、志願とはいえある日突然それを奪われてしまった気持ちは元男子にしかわからないだろう。男子から女子になって一番変わってしまった部分。男のまま残ることができたこの二人にはそれをわかってほしかった。
シゲユキに男らしい態度などといって一番最後に女々しい態度を取ったのはボクだった。
二人の前で泣くだけ泣いたら、服を着た。
「お前ら。今日のこと誰にも言うなよ。」
そう言ってボクは家路に付いた。
家に帰ると泣きはらしたボクの顔を見て、父が
「タカシ、何かあったのか?」
と言ってきたが、ボクは
「別に・・・なにも・・・。」
とだけ答えた。
(あの手紙が憎たらしい・・・。早く改名して正真正銘の女子になりたい。)
ボクの改名は今月中にはできるはずだ・・・。
おしまい
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投稿:2015.04.01
ブルマ残酷物語
著者 やかん 様 / アクセス 16970 / ♥ 3