「序」
ブルマ検査制度が施行されて数年後の世界です。
第1章
夕焼け空の雲は涙の海を漂っていた。
私は中学1年生の女子。でも去年の夏まではれっきとした「男の子」だった。
小学6年生のブルマ検査で私はブルマになった。正式には検査によって強制的にブルマにさせられたといったほうがいい。
今年この街でブルマになった子は私も含めて3人。私の学校では幸か不幸か私1人だけだった。ここ数年でブルマになった人をすべて合わせても10人程度だ。だからブルマになるということは男の子にとってある意味「特別なこと」といえる。
検査結果が不合格ならブルマになることが規則で決まっていても、昨日まで「男の子」として生きてきたことをいともあっさり否定され、「女の子」にさせられてしまうのだから、私たち当事者にとってはたまったものではない。
自分がブルマを宣告された時の絶望感。自分のすぐ横では合格を言い渡された複数の男の子の歓喜に溢れた雄叫び。それらはほんの一瞬のことでも、その場で、見える範囲で自分だけが「不合格」になってしまったことの現実を突きつけられた「運命の一瞬」だった。
合格者は次々と検査場の保健室を出て行く。自分だけが残され、保健室は施術場になった。
施術開始までは逃げ出したくても逃げることはできない。拒否もできない。オチンチンとタマタマが自分の体から切り離されるそのときを、ただただ待つだけの恐怖以外の何ものでもない時間。
そんなこちらのことを全く気にも留めないかのように、冷淡で、事務的にロボットのように動き回る先生、看護婦さん。
机に置かれた施術道具は無言のまま私の心に語りかけ、私のオチンチンとタマタマに恐ろしいほどに睨みを利かせ、時折輝くきらめきは私のオチンチンとタマタマの運命を知って、ほくそ笑んでいるかのように見えた。
何の覚悟もできないまま「始めます」のたった一声で強制的に開始された私へのブルマ施術。
目覚めたら、もう「男の子」ではなくなってしまった私に対して、先生も看護婦さんも、みんな笑顔で「おめでとう」の声、声、声・・・。
かくして私はブルマへと変わった。
第2章
この国もブルマ法を実際に適用するまで、テレビ、新聞などで私が幼い頃から啓発運動をしていた。
ブルマ検査の前、保健体育の時間はブルマのことを教えられる。
だから私がブルマになった時も差別されるようなことはなかった。表向きは・・・。
ブルマになった私たちには1ヶ月に1回のブルマ身体検査がある。
ブルマになって正常に成長しているか、ブルマ化の進行具合はどうか、異常はないか。とにかく隅々まで検査される。私たちのためとは言いながら、こちらの気分など関係なしに進められる。ほとんど義務といってもいいほどだ。ブルマ法のモルモットにされているという感情は否めない。
夏休み中のブルマ教育が終わって学校に戻ってみると、すべてが違う。差別されるようなことはなくても、男子は今までのような身近な存在ではない。明らかに私が異性になったことで男子と私の間に見えない壁ができている。
かといってブルマ教育で女子としての訓練をしたからといって、ついこの前まで男子として生きて、男子としての話題、男子としての遊びしか知らない私がすぐ女子になれるはずがない。
それより、男子も女子も私に対して腫れ物に触るような感じだった。
気を使っているのかもしれないけれど、すべてがよそよそしく感じられる。
こんなとき、私が唯一自分自身に戻れるのが家だった。完全に男の子気分が抜け切れない私が清々としていられる場所。ここならいつでも男の子に戻れる。気持ちだけは・・・。
外では無理に女子のように振る舞い、家では男子に戻る。まるで不自由な鳥かごの中が自由で、自由なはずの外が不自由とは実に皮肉なものだ。
あるとき、家族の留守中に本気で男の子に帰りたくなってトイレで立ちションに挑戦してみた。私ながら思い切った行動をしたと思う。
無謀な挑戦は、小便器の前に立ち、ズボンとパンツを下げたら、腰を突き出して、あとは男の子だったときを思い出しながら・・・。
うつむくと、何も付いていない股間だけが見えてなんとも格好がつかないから、手だけを股間にそえて・・・。
プシャーという音とともにオシッコは手を濡らすと、ふとももを伝い下に垂れていった。
これまで私のオシッコを普通に受け止めていた白い朝顔は、私が一滴も彼の口にオシッコを入れられなくなった無様でだらしない姿を見て笑っているようだった。
私は笑う小便器に、無言の抵抗しかできなかった。彼の口に入ったのはオシッコではなく私の涙だった。
ブルマになって月日が過ぎると、男子たちはどんどん男らしくなっていく。私だけが「ブルマ化」という運命にさからうことはできずに強制的に女子化していった。すべてはたった一つのブルマ法が私にもたらした運命だった。
こんなときでも定期的なブルマ身体検査は無情にも行われた。
第3章
中学生になった私は、ブルマの生活に慣れてきたとはいえ、まだまだ女子には完全に溶け込めないでいた。
ある初夏の日、下校途中の公園のベンチで独り読書をしていたら、いつの間にか2人の男子小学生の声が聞こえてきた。
「オレ、ブルマに絶対にならないぞ。オレのオチンチンはでかいんだ。」
「大きな声を出すな。そこの女の人に聞こえるぞ。」
その子達からすれば私は外観はすでに普通の「女の人」かもしれない。
しばらくすると、二人の声は近くの公衆トイレから聞こえてきた。
「これなら明日の放尿検査は合格だ。」
彼等は明日のブルマ検査のことを言っているのだろう。
(もうあれから1年か・・・)
この1年のすべての出来事が走馬灯のように心に浮かんできては、私は目からあふれ出るものをぐっとこらえながら夕空を見上げていた。
おしまい
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投稿:2017.04.13
ブルマ法施行初期の出来事
著者 やかん 様 / アクセス 13955 / ♥ 8