「女王陛下のおなーりー!」
ラッパの音が主の来訪を告げ、食堂の使用人たちは壁際の近衛兵たちと同じように並んで背筋をただした。
正面の扉が開かれ、豪奢なドレスに身を包んだ女が赤いカーペットの上に進み出る。その姿には人の上に立つ者の威厳があった。
一斉に頭を垂れた使用人たちの中から、壮年の給仕長が進み出る。
「女王陛下におかれましては、ご機嫌麗しくあらせられますことを。本日は選りすぐりの食材を用い、特別な趣向を凝らしてございます。料理長渾身の作でございます故、ごゆるりとご堪能下さいませ」
折り目正しく述べられた口上を聞いて女王が優雅に頷くと、給仕長は椅子を引いて今宵の賓客を導いた。
・食前酒
続いて長身のソムリエがワインボトルを抱えて現われる。
「本日ご用意させていただきましたのはデヴァースモン・ド・スペルメ1745年、今は無きル・テスティクラ公国産の白ワインでございます。まろやかな舌触りと鼻に抜ける芳醇な香りが料理の風味をより一層引き立てるでしょう」
女王はラベルを確かめながら答えた。
「45年と言えば、かの公国で貴族の大粛清があった年ではないか?」
「その通りでございます。大公シャット4世に叛意を示した貴族たちが一斉に捕えられ、政界から一掃されました。本来なら一族郎党処刑されるところを慈悲深き大公の恩赦により助命を受け、全男子の断種による教会への生涯幽閉に留まりました。徴発された財産が教会のワイン農園に分配され、潤沢な資金によって数多くのワインがその後数年間生産されました。しかしながら、素人貴族が手を出したワインはやや風味が落ち、まだ高い品質を保ったまま流通だけが上がったこの45年前後が最後の当たり年と言えるでしょう」
一通り薀蓄を語り終えたソムリエは、女王が頷くのを見て、出しゃばり過ぎぬように後ろに控える。
・オードブル
ついで、料理長が、傍らに10才前後の少年を連れて現われた。丸裸のまま連れられた少年の瞳には、羞恥ではなく、わずかな怯えだけが浮かんでいる。
給仕長が自慢げに女王に解説した。
「この日の為に城で育てた食用の使用人でございます」
言われてみれば、自分だけが性器を人目に晒していることに、なんら疑問を抱いておらぬ様子が伺え、裸での生活以外を知らぬことが察せられた。ただ、高貴な御方の前に連れ出されたことによる緊張だけが、無垢な少年にとっての想定外なのだろう。幼い性器の先端が、小刻みにプルプルと震えていた。
料理長の合図で、調理台が少年の前に運ばれた。塩水の入った透明のボウルが乗っており、ゆらゆらと水面を揺らしている。厨房の下働きの一人が、少年を脇の下から抱え上げ、ボウルの上に股を広げて膝立ちにさせた。それから、小さなペニスを摘み上げて縮こまった肌色の小さな袋を露わにする。
料理長は女王に向かって一礼すると、手入れの行き届いたナイフを使い、迷いない手つきで、少年の陰嚢を切り開いた。こぼれ出した睾丸は一つずつ切り離され、ポチャリ、ポチャリとボウルの中に落ちる。沈んでいく白い塊のまわりに、もやもやと赤い血の霧が薄く広がっていく様子が見えた。
終始無抵抗で、何が行われるかを知っていたであろう少年も、股間の痛みには耐えかねたのだろう。くしゃりと顔を歪めると、声を上げて泣き始めた。押さえていた下働きの男が慌てて少年を抱きかかえ、あやしながら退室する。給仕長が無作法を詫びるのを、女王は鷹揚に許した。
料理長は、泣く子供には目もくれず、素材の調理を続けている。手際よく、睾丸に絡みついた血の汚れをボウルの塩水でさっと洗い落とすと、まな板の上で薄くスライスし、皿に並べて広げ、上に淡い色合いのクリームを潤沢に盛り付けた。
完成したオードブルが給仕長の手によって女王の前に運ばれる。
「ル・テスティキュレ・トランシェ・デ・ラ・サヴ・ド・クラム・ジュー、で、ございます」
(スライスされた精巣のサワークリーム風味)
女王は手袋を外すと、一片を手に取り、優雅に口元に運んだ。酸味のあるクリームが睾丸の生臭みを中和し、わずかな塩味と共に、成熟しきらぬ幼い香りを鼻腔に届ける。丁寧に育てられた素材の良さは明らかである。しかし、それでも感じる幼子ゆえの量の物足りなさが、逆に更なる食欲を引き立てていく意図が察せられた。女王の眼差しを受けて、その要望を十二分に理解した給仕長は次の料理を運ぶ合図を出した。
・スープ
深皿に盛られたスープを運んできたのは、大人とも子供とも言い切れぬ年頃の、貴族然とした礼装に身を包んだ青年であった。物腰は優雅であるが、皿を運ぶ手つきはややぎこちなく、厨房には元々縁のない人物であるように思われた。そして、衣装の華やかさの上から隠せぬ、引き締まった肉体の様子は、彼の出自が武門の一族であることを示している。
スープを無事テーブルの端まで運び終えた青年は、皿を置いて女王の前に一礼する。やはり、所作の端々に、きびきびとした軍隊風の躾が感じられた。
給仕長が女王に向けて紹介する。
「ハンニバル・グスタフ将軍閣下の次男君、ライオネル殿でございます」
女王の声を聴き顔を上げた若者の鋭い目つきからは、なるほどかの将軍の面差しが感じられる。
「女王陛下に御拝謁の機会を頂き、まことに光栄でございます。本日は我が父ハンニバルの命により、おそれ多くも女王陛下の食卓を飾る一助として、馳せ参じた次第にございます」
女王は、ほう、と感心の溜息をついた。ハンニバル将軍と言えば、先の戦役で敵将の首を取り、この国を勝利へと導いた大英雄である。その功績を鑑みれば、いくら跡取りの嫡男ではないとはいえ、食材としての召喚を拒否しても何ら問題はない筈であった。そこを宜なわれた青年は、口元に緊張を残しながらも、穏やかに微笑んでみせる。
「この度の私の登城は父の志願によるものであり、私もまた、喜んで女王陛下の御食卓に、我が身を捧げる覚悟でございます。我ら一族、王家への忠誠を直に示させていただくこの機会、何一つ躊躇うことはありません」
何を話すかは事前に考えていたのであろう。必死に思い返しながら喋る様子に、硬さが見えるが、同時に言葉そのものには嘘偽りなき実直な性分も感じられた。
「では、御無礼をお許し頂きたく存じます」
給仕長の合図で、青年は打ち合わせ通りに、礼服の前をくつろげ始めた。平静を保とうと努力はしているようだが、頬が赤く染まっており、見守る者たちの内心を和ませた。
下着は履いておらず、下衣が膝元まで降ろされると、張りのある立派な男根がこぼれ出る。上衣の裾を左右に割り開くと、実戦は未だ知らぬながらも、年相応に鍛えられ引き締まった下腹が、健康的なフォルムを形作っていた。
「恥毛は生えておらぬのか?」
無毛のきめ細やかな肌を、美しくはあるものの訝しく思った女王が問いただすと、そのことに対する答えは用意していなかったのか、顔に焦りを浮かべながら、たどたどしく返事を紡ぎ出す。
「女王陛下にお目通りさせていただくからには、見苦しくならぬよう、全て剃れと申し付かりました」
青年が救いを求めるように伺うと、給仕長が頷く。
納得した女王の許しを得て、青年は包皮を剥きあげ、女王の前で自らを慰め始めた。耳目を集めて半ば勃起していた陰茎はすぐに亀頭を赤く張り詰めさせて膨らむ。その色合いに、大人になりきれぬ幼さを感じた女王は、ペニスを扱いている青年に語りかけた。
「未だ女を知らぬように見えるな」
手が止まりそうになったところを料理長に視線で咎められ、顔を真っ赤にして自慰を続けながら、青年は返答する。
「はい。これまでその機会がなく、陛下のお口に上るのであれば、清い体の方が良いだろうと父は兄ではなく私を選びました」
身体は引き締まっていて、顔立ちも悪くなく、身分も備えているからには、女を知ろうと思えば相手に不自由しなかったであろう。自ら宣言するからには、色事には奥手な性質だったことが伺える。後少し時がたてば、確実に何らかの形で童貞を失っていただろうことを思うと、身体の成熟と清純さの絶妙なバランスが、今しか望めない形で結実していることが感慨深く感じられた。
透明の雫が肉茎を伝うのを音を立てて擦りながら、青年は自分の絶頂を予告する。厨房の者が隣から進み出て、青年にナイフを手渡した。彼は受け取ったナイフを赤く腫れあがった先端の括れにあてがう。押し殺した呻き声と共に、尿道の先から勢いよく精液が飛び、青年の前に置かれたスープ皿の中に音を立てて飛び込んだ。腰を痙攣させながら最後の一滴まで絞り出した青年は、荒い呼吸を整えると、唇を硬く噛みしめ、萎えることなく張り詰めたままのペニスを握り締め、自分の手で一息に亀頭を切り落とした。切断された先端の肉はポチャリとスープの中に転がり落ちる。第二の精液のように勢いよく溢れた血液が、スープの中に注ぎ込まれた。料理長がその量をうかがいながら、ちょうど良いと思ったところで青年の前から皿を取り上げる。少量のスパイスによって味が調えられ、かき混ぜられると、待ちかねていた女王の前に運ばれた。
「ル・スープ・ア・ラ・ビェンデ・ダセズンメ・ルージュ・エ・ブラン、で、ございます」
(紅白仕立ての肉のスープ)
赤く混ざり込んだ血色のスープに溶けきれぬ精液が白く渦を巻き、射精の余韻冷めやらぬまま切り落とされた亀頭がぷかぷかと浮かんでいる。女王はスプーンでその肉片をすくうと、接吻するように口元へ運んだ。若いとはいえ思春期を越えた青年の性器は、噛み切るには大きすぎる。女王は鈴口の形を眺めてしっかりと目を潤した後、まだ温かい肉に唇をつけて、若者のエキスだけを啜った。
しっかりと肉の下味をつけられたスープに、精と血の香りが漂い、若者のペニスそのものが溶け込んでいるように感じられる。混ぜ込まれた体液の味付けに異物感はなく、明らかに料理長はあらかじめ何度も試行を重ねて、青年の血と精液にマッチした完璧なスープを産みだしたに違いなかった。
股間の傷を押さえながら、女王の様子を伺う青年に、一言、女王は申し付けた。
「美味である」
自分の味に対する高い評価を聞き届けると、青年は深く頭を下げて感謝した。同時に給仕長が青年の退席を促し、控えの間で傷の手当てをさせる。
青年が去り、スープを飲み終えた女王は、給仕長に耳打ちした。
「傷が治れば夜伽を申付ける故、とくと伝えよ」
給仕長は顔をほころばせた。
「それは当人も光栄でしょう。お気に召されたようでようございました。将軍閣下も、実にお喜びになることと存じます」
「妾が自ら手折る故、事前に練習などと無粋な真似をさせぬように」
「ははっ、かならず清いままで送り届けさせるよう、取り計らいます」
給仕長は、新しい女王の愛人の為に、速やかに手配を行うことにした。傷の位置を考えれば当面は有り得ぬだろうが、役目を終えた青年が、重責を果たした解放感からうっかり童貞を捨てたりせぬよう、急ぎで伝える必要がある。女王付きの侍従が申し出て、給仕長の部下と共に、手当てを受けている青年の所へ下達に走った。
・メインディッシュ
続く料理を待っていた女王の耳に、控えの間から騒がしい声が届いた。
「御耳汚し申し訳ございません。食材の性質により、静かにさせることが困難でございまして」
女王は完全な理解には及ばぬものの、次の趣向を察して許しを与えた。頭を下げた給仕長の合図で扉が開かれる。途端に、明晰な罵詈雑言が響き渡った。
「離せ! このブタ野郎! 離しやがれ! オレを誰だと思ってるんだ!」
引きたてられた少年は、腰から下は裸で、車輪の付いた台に縛り付けられていたが、肩には異国の豪華な服を被せられていた。宝石で飾られたその服を見て、女王はある程度少年の身分を察しながらも、解説を待つ。
黙らない少年に猿轡を噛ませ、給仕長が彼の身元を語った。
「先月の遠征にて捕虜にした、アルトリアのブライアン・フランチェスコ・ルトー第三王子でございます。戦後の協定において返還要求がなされておりましたが、賠償条件が折り合わず、否却されました」
女王も書類上はその事実を確認していた為、頷く。
「本来であれば斬首が適当で御座いますが、寛大なる陛下の恩赦により、去勢のち幽閉と相成りましたところ、本日はその去勢をもって食卓の華と飾り、陛下の慈悲の心を讃えさせていただく所存であります」
当の少年は猿轡の下で呻き声を上げながら首を振っていたが、女王はその様子に取り合わず、粛々と認可を出した。
「よかろう。よきにはからえ」
給仕長の合図で、料理人たちが少年を中央の柱に縛り付け、猿轡を外した。待ちかねたように少年は、女王とその国を罵り始めるが、その大言壮語をあえて止めぬのが、今回の趣向であるのが明らかであるため、誰も咎める者はいなかった。
「チクショウ、離せ! こんなことをして、只で済むと思っているのか!」
政治には疎いようで、お互いの国力の差を弁えていないのが言動から察せられる。自分の国が戦争に負けたことすらまだ理解していないのではないかと思われた。
料理長が進み出て、長く太い金串を掴み上げてはじめて、少年はヒッと息を呑んだ。怯えたように尻を後ろに引くが、そこには柱が立ち塞がるのみであった。陰茎の先に長く余った包皮を料理長が摘み上げてヘソの上まで引き上げる。少年は料理長を変態と言いつのったが、彼は微塵も取り合わず、真剣な眼差しを食材にのみ向けたまま、ペニスの付け根から先端まで、尿道に沿って金串を突き通した。喉が破れそうな大きな悲鳴を響かせて、敵国の王子は暴れた。涙と鼻水を垂らして泣き言を繰り始める。料理長は、包皮の中を覗き込んで金串が尿道口まで貫通していることを確かめると、無慈悲に亀頭の中央に鉤を引っかけ、高さを調節した炉の上に、伸ばした性器を縫いとめた。少年は痛みのあまり失禁したが、尿はペニスの先からではなく、突き立てられた金串の根元の穴から撒き散らされた。
ペニスの下に木炭が組まれ、火がつけられる。少年自身の目の前で、引き伸ばされた陰茎を、炎が炙る。王子は小刻みに身を痙攣させながら、局部を苛む苦痛に悶えた。肉の焼ける香りが漂い、溶けた脂が垂れて、ジュッと音を立てる。料理長はその性器の焼け具合を確かめながら、刷毛でタレを塗っていた。辛味の効いた液体が沁みるのか、少年は刷毛が動く度に言葉にならぬ声を上げて口から泡を噴く。
やがて、ペニスに火が通り、痛覚が鈍ったことが察せられると、料理長は躊躇いなく少年の陰茎を切り離した。そのまま転がすようにペニスを回し、まんべんなく肉に火を通していく。シェフの一人が意識朦朧として譫言を呟く少年の鼻下にアンモニアの小瓶を寄せて、目を覚まさせた。それから改めて、両の睾丸を新しい金串で二つとも貫き通す。今度こそ少年は、ひき潰されたような声を喉元で鳴らして気絶した。
女王の前に、かのアルトリア王国の地図が刺繍されたナプキンが広げられ、皿の上に焼き上がった陰茎と睾丸が重ねられた。焼き菓子で作られた小さな王冠が、ペニスの切り口を隠すように飾られている。
「ル・ロティ・ロヤール・デ・オガン・ジェニト・マスキュリン、で、ございます」
(男性生殖器の王室風姿焼き)
香ばしい薫りを漂よわせながら、陰茎がきつね色に染まっていた。征服を象徴する眺めを女王が堪能したことを確かめると、料理長自ら焼けたペニスを一口大に薄く切り分けた。噛み切るには固さの残る包皮をバナナのように引き裂き、白膜内部の海綿体を串から抜いて輪切りにする。取り分けられた小片は、肉汁に絡めたソースをまぶされ、開かれた包皮を小皿のようにして並び、女王の手元に送られる。
女王はフォークの上に乗せた切片を口へ運ぶと、性器を失った股間から血と尿を垂れ流している失神したままの敵国王子を眺めて、視覚と味覚の両方で勝利の余韻を味わった。口の中でホロホロと崩れる組織は、敗北した王族の儚さを思わせる。
続いて料理長は、陰嚢の中から睾丸を引きずり出した。袋ごと焙られた精巣は、白く凝固して独特の弾力を持つ仕上がりになっている。串刺しになっていた穴から内部の組織が少量こぼれ出しており、料理長はそこから半分に睾丸を裂いて、断面で精管が波打つ様子を露わにした。この襞の一筋一筋に、由緒正しき王族の子を産みだすはずであった子種が詰まっているのであった。
女王は陰嚢の皮膚を受け皿に並べられた睾丸の中身を、小さなスプーンで抉るように穿りだし、口へ運んだ。精巣自体はペニスの海綿体よりも一層淡泊な味わいであったが、料理長は絡めるソースの辛味をやや増すことによってバランスを保っていた。
満足した女王が食器を置くと、そこには内部をくり抜かれた情けない様相で、男性器の皮膚だけが、きつね色の焼き色を残して広がるばかりであった。給仕長がくるりとその皮を丸めると、弛んだ包皮の先端が余計に萎びた男根を強調する。
女王は、その残り滓を持ち去ろうとする給仕長を呼び止めた。
「かの小童が目覚めたならば、その包皮を食わせてやるがよい」
「素晴らしいお考えにございます」
給仕長は敬礼すると、傷の手当てを受けた後、生涯牢に幽閉される王子の最初の食事が、自分の性器の皮となるように手配した。
柱に縛られていた王子はそのまま目を覚ますことなく、担架に乗せて外へ運び出されていった。顔も股間も隠そうとはされなかったので、辿る道のりで王族の上着を着た少年の去勢された姿を、皆が眺めていくことになるだろう。
一息ついた女王の前に、口清めのワインが注ぎ直され、女王は改めて本日のメニューに合わせたワインの謂れを思い返し、ソムリエの選択を褒めた。
・デザート
さて、コースを終えた女王の前に洒落た身なりのパティシエが進み出た。
「本日の締めくくりに、特製のアイスクリームを用意させていただきました。お召し上がりくださいませ」
差し出されたガラスの容器には、純白のアイスクリームが丸く盛られ、小さなナッツのようなものが添えられていた。匙を使ってすくった女王の口を、心地よい冷たさが洗い、舌の上で溶けていくにつれてまろやかなミルクの味わいが広がる。同時に女王は、先ほどまで何度か口にしたことのあるものに似た風味もわずかに感じ取っていた。
パティシエに視線をやると、彼は得意そうにほほ笑んだ。
「そのアイスには、昨日産まれたばかりの幼児の睾丸を磨り潰して練り込んでございます」
女王は驚いて一口食べたばかりの氷菓子を見つめ直した。道理で独特のクセがないはずである。産まれたばかりの幼児ともなれば、その睾丸に詰まる子種も、瑞々しく爽やかなままなのであろう。
「では、これは?」
女王がナッツとばかり思っていた塊をすくうと、よく見れば明らかに、小さいながらも男の証を形作っているのがわかる。
「その赤子のペニスを凍らせたものでございます。独特の手法で凍らせましたので、そのまま噛み砕くことが出来ます」
女王は興味深げに、弧を描いたまま凍り付いた幼いペニスに歯を立てる。サク、と軽快な音を立てて組織が崩れ、口の中で程よい冷たさ舌触りを残して砕け散った。肉とは思えぬ触感に女王は目を丸くした。
「不思議な味わいであるな」
「赤子ならではのものでございます」
確かに、年経た男の肉では、このような薄い味付けの氷菓に加えると、どうしてもくどさが勝ってしまうだろう。
「ラ・グラース・デ・バル・ド・インファンティリ・アーベ・ウン・ペニ・コンジェリ、で、ございます」
(幼児の睾丸アイスのフローズンペニス添え)
女王は感嘆しながら、残りを味わいつつ尋ねた。
「しかし、よくそのような赤子を都合よく手に入れることが出来たな」
女王の問いに、パティシエは首を振った。
「ちょうど、私の妻が産んだばかりでございました。陛下のデザートを下拵えする晩に産まれた息子でありますから、これは陛下に召し上がって頂く他ないと、ご用意させていただいた次第にございます」
「そなたの息子であったか。大義であった。女として育てるつもりか?」
「滅相もない。恐れ多くも女王陛下の御口に召されたことを誇りと言い聞かせ、立派な宦官として育てさせていただきますとも」
「なれば、無事に育った暁には後宮に登らせるがよい。幼き頃より躾ければ、いずれ我が娘付きの侍従にもなれよう」
「有難きお言葉!」
「他の者も大儀であった。今宵の食事は実に満足できたぞ。今後も励むが良い」
「ははっ!」
揃って頭を下げる厨房係の家臣たちに見送られ、女王はまた優雅に歩み去っていくのであった。
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投稿:2022.07.07
女王様のれすとらん
著者 ななしさん 様 / アクセス 3606 / ♥ 15