「国王陛下のおなーりー!」
ラッパの音が主の来訪を告げ、食堂の使用人たちは壁際の近衛兵たちと同じように並んで背筋をただした。
正面の扉が開かれ、豪奢なマントに身を包んだ男が赤いカーペットの上に進み出る。その姿には人の上に立つ者の威厳があった。
一斉に頭を垂れた使用人たちの中から、壮年の給仕長が進み出る。
「国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しくあらせられますことを。本日は選りすぐりの食材を用い、特別な趣向を凝らしてございます。料理長渾身の作でございます故、ごゆるりとご堪能下さいませ」
折り目正しく述べられた口上を聞いて国王が優雅に頷くと、給仕長は椅子を引いて今宵の賓客を導いた。
・食前酒
続いて長身のソムリエがワインボトルを抱えて現われる。
「本日ご用意させていただきましたのはサン・ド・コッホ・キャヴァーニュ1720年、失われたウニューク辺境伯領名産の赤ワインでございます。年を重ねた濃厚な味わいとしっかりと舌に残る落ち着いた香りが料理の風味をより一層馴染ませるでしょう」
国王はラベルを確かめながら答えた。
「20年と言えば、かの領地に隣国の大侵攻があった年ではないか?」
「その通りでございます。前線に立って勇敢に戦った辺境伯もついには捕らえられ、性器を中心に凄惨な拷問を受けました。しかし、忠義深き辺境伯は決して屈することなく、援軍が到着するまでの時間を稼ぎ切ったのです。敵国は滅び、我が国に吸収されましたが、子種を失った辺境伯の領地もまた国境としての役割を終え、接収されました。ワイン畑も戦火に失われ、残された数本は最高の忠誠を象徴する幻の銘酒と名高い一品です」
一通り薀蓄を語り終えたソムリエは、国王が頷くのを見て、出しゃばり過ぎぬように後ろに控える。
・オードブル
ついで、料理長が、傍らに20才前後の若者を連れて現われた。丸裸のまま連れられた青年の瞳には、羞恥ではなく、諦めと怯えだけが浮かんでいる。
給仕長が自慢げに国王に解説した。
「この日の為に城で購入した食用の奴隷でございます」
言われてみれば、自分だけが性器を人目に晒していることに、なんら疑問を抱いておらぬ様子が伺え、裸での生活にもはや違和感を持たぬことが察せられた。ただ、高貴な御方の前に連れ出され、いざ去勢の時を迎えることによる絶望だけが、無力な青年の持つ全てなのだろう。萎縮した性器の先端が、小刻みにプルプルと震えていた。
料理長の合図で、調理台が青年の前に運ばれた。油紙を敷かれた金属製のトレイが、磨かれた表面に照明の光を反射している。厨房の下働きが数人がかりで、青年を両側から押さえつけ、トレイの上に股を広げて構えさせた。そして、中々の大きさがあるペニスを摘み上げて浅黒い肌色の袋を露わにする。
料理長は国王に向かって一礼すると、手入れの行き届いたナイフを使い、迷いない手つきで、青年の陰嚢を切り開いた。こぼれ出した睾丸は一つずつ切り離され、ポトリ、ポトリとトレイの上に落ちる。油紙の上を転がった白い塊の後に、じわじわと赤い血の染みが滲んでいく様子が見えた。
終始無抵抗で、何が行われるかを知っていたであろう若者は、続いて包皮を引っ張られると、くしゃりと顔を歪め、うめき声を上げてもがいた。押さえていた下働きの男が慌てて青年を殴りつけ、無理矢理に先端の皮を切り取る。給仕長が無作法を詫びるのを、国王は鷹揚に許した。
料理長は、持ち主の男には目もくれず、素材の調理を続けている。手際よく、睾丸に絡みついた血の汚れを拭き取ると、小麦粉を溶いた衣をまぶして、高温の油でカラリと揚げる。やがて包皮も同じように調理され、その包皮を皿に睾丸が乗せられた。
完成したオードブルが給仕長の手によって国王の前に運ばれる。
「プリプーセ・エ・テスティキュレ・フリト・ア・ル・オリエンターレ、で、ございます」
(包皮と精巣の東洋風重ね揚げ)
国王はナイフとフォークを使って、一口大に切り刻み、優雅に口元に運んだ。しっかりと火の通された組織は歯ごたえを感じさせながらも、軽快に噛み砕かれ、滲み出した油とともに濃厚な雄の風味を鼻腔に届ける。しかし、あえて包皮と睾丸のみという限られた部位を用いた物足りなさが、逆に更なる食欲を引き立てていく意図が察せられた。国王の眼差しを受けて、その要望を十二分に理解した給仕長は次の料理を運ぶ合図を出した。
・スープ
深皿に盛られたスープを運んできたのは、威風堂々とした体格の、将官然とした軍服に身を包んだ壮年の男であった。物腰は自信に溢れているが、皿を運ぶ手つきはやや武骨で、厨房には元々縁のない人物であるように思われた。そして、衣装の厳しさによって際立つ、引き締まった肉体の様子は、彼自身がまごうことなき歴戦の兵であることを示している。
スープを無事テーブルの端まで運び終えた男は、皿を置いて国王の前に一礼する。明らかに身分にそぐわぬ茶番を大真面目にこなす様からは、深い忠誠が感じられた。
給仕長が国王に向けて紹介する。
「ハンニバル・グスタフ将軍閣下でございます」
国王の声を聴き顔を上げた将軍の厳しい顔立ちには、今更改めて教えられるまでもない見慣れた威圧感が感じられる。
「国王陛下に御拝謁の機会を頂き、まことに光栄でございます。本日は我がグスタフ家の忠誠を示す機会を頂けると聞き及び、おそれ多くも国王陛下の食卓を飾る一助として、馳せ参じた次第にございます」
国王は、ほう、と感心の溜息をついた。ハンニバル将軍と言えば、先の戦役で敵将の首を取り、この国を勝利へと導いた大英雄である。その功績を鑑みれば、今更その肉体を食材として差し出してまで、王家に媚びを売る必要は全くない筈であった。そこを宜なわれた将軍は、珍しくおどけた様子で、豪快に微笑んでみせる。
「我が先祖が、王家の御膳に侍った話を聞いてから、いつかは某も己の主君にこの身を捧げるのが密かな夢でございました。この機を逃せばもはや叶わぬと、本来の果報者を蹴落として役目を奪った次第。老骨の我侭にどうかお付き合いくだされ」
いつもは冗談の一つも言わぬ堅物であった粗野な将軍は、見せる笑顔にも裏のない実直な性分がはっきりと現れている。その目は鋭く真剣であった。
「では、御無礼をお許し頂きたく存じます」
給仕長の合図で、将軍は打ち合わせ通りに、礼服の前をくつろげ始めた。頬が少し赤く染まっており、日頃はついぞ人には見せぬその様子に、見守る者たちの内心を驚かせた。
下着は履いておらず、下衣が膝元まで降ろされると、使い込まれた立派な男根がこぼれ出る。上衣の裾を左右に割り開くと、無数の傷跡が刻み込まれた皮膚が、分厚い筋肉を覆っている様がよく見えた。
「恥毛を剃り落としたのか?」
青々と剃り跡の目立つ股間とその外の剛毛との境を訝しく思った国王が問いただすと、そのことを聞かれる事は覚悟していたのか、頬と剃られた下腹の色づきに照れを隠せぬながらも、堂々と返事がなされる。
「国王陛下のお口に登らせていただくからには、不快招かぬよう、全て剃れと申し付かりました」
将軍が確認を促すように視線を向けると、給仕長が頷く。
納得した国王の許しを得て、将軍は陰茎を手に取り、国王の前で自らを慰め始めた。幾多の浮名を流したであろう巨根はすぐに亀頭を赤黒く張り詰めさせて膨らむ。その勢いに、年齢にそぐわぬ昂りを感じた国王は、ペニスを扱いている将軍に語りかけた。
「しばらく女を抱いておらぬように見えるな」
手が止まりそうになったところを料理長に視線で咎められ、バツの悪そうな顔を浮かべながら、将軍は自慰を続ける。
「はい。陛下の御前に上るにも関わらず、情けない有様を晒しては一族の恥ゆえ、この一月ほどの間は女色を控えておりました」
決して精が弱いわけではないであろう男盛りの健康な肉体からは、既に溢れんばかりの押さえ込まれた色気が漂っている。常人の身であれば発狂しそうなほどの活力が太い肉茎の血管を張り詰めさせて駆け巡っている様子からは、当人の尋常ではない意志の力が感じられた。この男はその戒めを、誰に求められるでもなく己に課し、主君に捧げる忠誠の証にしようというのだ。
粘りの強い雫が肉茎を伝うのを音を立てて擦りながら、男は自分の絶頂を予告する。厨房の者が隣から進み出て、将軍にナイフを手渡した。彼は受け取ったナイフを赤く腫れあがった先端の括れにあてがう。押し殺した呻き声と共に、尿道の先から勢いよく精液が飛び、男の前に置かれたスープ皿の中に音を立てて飛び込んだ。腰を痙攣させながら最後の一滴まで絞り出した将軍は、荒い呼吸を整えると、唇を硬く噛みしめ、萎えることなく張り詰めたままのペニスを握り締め、自分の手で一息に亀頭を切り落とした。切断された先端の肉はポチャリとスープの中に転がり落ちる。第二の精液のように勢いよく溢れた血液が、スープの中に注ぎ込まれた。料理長がその量をうかがいながら、ちょうど良いと思ったところで将軍の前から皿を取り上げる。少量のスパイスによって味が調えられ、かき混ぜられると、待ちかねていた国王の前に運ばれた。
「ル・スープ・ア・ラ・ビェンデ・ダセズンメ・ルージュ・エ・ブラン、で、ございます」
(紅白仕立ての肉のスープ)
赤く混ざり込んだ血色のスープに溶けきれぬ精液が白く渦を巻き、射精の余韻冷めやらぬまま切り落とされた亀頭がぷかぷかと浮かんでいる。国王はスプーンでその肉片をすくうと、接吻するように口元へ運んだ。百戦錬磨の壮年の男の性器は、切り離されてなおどっしりとした威厳を放っている。国王は鈴口の形を眺めてしっかりと目を潤した後、まだ温かい肉をむさぼり、熟成されたエキスを啜った。
様々なハーブの下味が付けられたスープに、たっぷりと放たれた精と血の香りが漂い、将軍のペニスの味がくっきりと際立っている。混ぜ込まれた体液の組み合わせに異物感はなく、明らかに料理長は培われた熟練の勘で、将軍の血と精液にマッチした完璧なスープを産みだしたに違いなかった。
出血にもまるで動じず、国王の様子を伺う将軍に、一言、国王は申し付けた。
「美味である」
自分の味に対する高い評価を聞き届けると、将軍は深く頭を下げて感謝した。同時に給仕長が将軍の退席を促し、控えの間で傷の手当てをさせる。
将軍が去り、スープを飲み終えた国王は、給仕長に耳打ちした。
「傷が治れば夜伽を申付ける故、とくと伝えよ」
給仕長は顔をほころばせた。
「それは閣下もお喜びになるでしょう。お気に召されたようでようございました。将軍閣下のご献身も、有意義な実りを迎えたことと存じます」
「奴が抱けずとも余が存分に可愛がってやる故、精を溜める心配はいらぬと伝えよ」
「ははっ、かならず閣下の耳に届けさせるよう、取り計らいます」
給仕長は、新しい国王の愛人の為に、速やかに手配を行うことにした。傷の位置を考えれば当面は有り得ぬはずだが、我慢を続けた将軍が、痛みを無視して久しぶりの性技に浸る予定を既に立てているかも知れない。まあその時は奥方や妾ともども召し上げれば済む話だが。給仕長の部下は落ち着いて手当を受ける将軍の下へ向かった。
・メインディッシュ
続く料理を待っていた国王の耳に、控えの間から騒がしい声が届いた。
「御耳汚し申し訳ございません。食材の性質により、静かにさせることが困難でございまして」
国王は完全な理解には及ばぬものの、次の趣向を察して許しを与えた。頭を下げた給仕長の合図で扉が開かれる。途端に、明晰な罵詈雑言が響き渡った。
「呪われろ! この肥え太った豚ども! 神の名のもとに裁かれるが良い!」
引きたてられた男は、腰から下は裸で、車輪の付いた台に縛り付けられていたが、肩には質素な法衣を被せられていた。刺繍で飾られたその服を見て、国王はある程度その男の身分を察しながらも、解説を待つ。
黙らない男に猿轡を噛ませ、給仕長が彼の身元を語った。
「先月の反乱にて捕縛した、デボネアのヤン・ジョルジオ・バレンティノ司祭でございます。教会の裁定において審判を預けておりましたが、このたび破門が決定し、こちらの裁量に任されました」
国王も書類上はその事実を確認していた為、頷く。
「本来であれば絞首が適当で御座いますが、寛大なる陛下の恩赦により、去勢のち幽閉と相成りましたところ、本日はその去勢をもって食卓の華と飾り、陛下の慈悲の心を讃えさせていただく所存であります」
当の男は猿轡の下で呻き声を上げながら首を振っていたが、国王はその様子に取り合わず、粛々と認可を出した。
「よかろう。よきにはからえ」
給仕長の合図で、料理人たちが男を中央の柱に縛り付け、猿轡を外した。待ちかねたように元司祭は、国王とその腐敗を罵り始めるが、その大言壮語をあえて止めぬのが、今回の趣向であるのが明らかであるため、誰も咎める者はいなかった。
「貴様らはいずれ滅ぶ! こんなことをして、神が許すと思うな!」
暴れはするものの、どうやら既に己の運命が引き返せぬところまで来ていることは察しているようだ。虚勢は張っているものの顔色は悪い。
料理長が進み出て、長く太い金釘を掴み上げると、男は息を呑んで脂汗を流した。怯えたように尻を後ろに引くが、そこには柱が立ち塞がるのみであった。使いもせぬのに、無駄に包皮を切り取られた聖職者の亀頭が、年にそぐわぬ薄桃色の皮膚をさらけ出している。その中央に釘の先端を突き立て、料理長は用意された木枠に、男のペニスを打ち付けた。くぐもった悲鳴を口の中で噛み殺して、市民の反乱を煽った首謀者は暴れた。傷口から血の筋を垂らして情けなく目尻に涙を滲ませる。料理長は、性器と枠がしっかりと固定されていることを確かめると、いくつか竿の中頃に包丁で傷を切れ目を入れ、無慈悲に塩を揉み込んだ。男は痛みのあまり泡を吹いてもがいたが、ゴシゴシと力強く扱き立てる腕から逃れるすべはなかった。調味油や醸造酢などが次々と振りかけられ、生白い性器は独特の光沢を放った。
中空の細い鉄の棒が取り出され、中にチーズやバターなどの味付けしたペーストが練り込まれているのだと説明が加えられる。料理長はその長い棒を使って、囚われた元司祭の尿道を犯した。突き立てた棒で内壁面を擦り削るように激しく前後させる。尿道の中に傷をつけることで味が染み込みやすくするのだとの説明を聞かされながら、当の司祭は首筋の血管を破れそうに引きつらせながら悲鳴を上げていた。
やがて、筒の中のペーストを尿道に残したまま、鉄の管だけを引き抜いた料理長は、陰茎の付け根を強く紐で縛り、準備が出来たと熱した鉄板を司祭の性器の下へ運んでくる。そして、性器を釘で打ち付けた木枠を、容赦なく鉄板に押し付けた。ジュッとくすぶった音がして、皮膚の焦げる特徴的な匂いが漂う。何度も司祭が気絶しようとするのを許さず、料理長は食材の意識を保ったままじっくりと最後まで火を通した。
国王の前に、ミサ用のビロードが広げられ、焼き上がった後で切り離された陰茎と睾丸が皿の上に重ねられた。焼き菓子で作られた小さな十字架が、ペニスの切り口を隠すように飾られている。
「サクルメ・デ・オガン・マスキュリン・デジ・ア・ジュ、で、ございます」
(神に捧げる男性器の聖餐)
香ばしい薫りを漂よわせながら、陰茎に焦げ色が付けられていた。祝福を象徴する眺めを国王が堪能したことを確かめると、料理長自ら焼けたペニスを切り分けた。噛み切るには固さの残る表皮を薄く短冊のように繊維を刻み、口に入れたときにもスッと歯の通るように下処理をする。切り分けられた肉片は、尿道に詰まったチーズがとろけ出る様が見えるように積み上げられ、国王の手元に送られる。
国王はフォークで豪快に突き刺した肉片を口へ運ぶと、性器を失った股間から血と尿を垂れ流している呆然とした表情の元司祭を眺めて、視覚と味覚の両方で強者の余韻を味わった。口の中でプチプチと千切れる組織は、失敗した革命の無謀さを思わせる。
続いて料理長は、陰嚢の中から睾丸を引きずり出した。袋ごと焙られた精巣は、白く凝固して独特の弾力を持つ仕上がりになっている。料理長は細かく包丁を踊らせ無駄な管や組織を取り除きつつ、しかし精巣自身の薄い膜は破れないように注意を払った。この年齢でもついぞ女の肌を知らずに終わった男の子種が、神に捧げられんと小さな袋の中に詰まっているのであった。
国王は陰嚢の皮膚を受け皿に並べられた睾丸を、スプーンの上に転がすように乗せて、口へ運んだ。プチリと噛み潰した袋の中から、飛び出してきた子種の風味がしっかりと舌に届くよう、料理長が絡めるソースの味付けをわざと薄味に抑えたことがわかった。
満足した国王が食器を置くと、その皿の上には破瓜の染みのような様々な粘液の痕跡が残るばかりであった。給仕長が空になった皿を、まだ自分を襲った悲劇の現実を信じきれていない男の眼前に置き、その失われた股間の軽さを改めて強調する。
国王は、放心状態の元司祭を連れ去ろうとする給仕長を呼び止めた。
「しばらく時を待たせてから、余の糞を食わせてやるがよい」
「素晴らしいお考えにございます」
給仕長は敬礼すると、傷の手当てを受けた後、生涯牢に幽閉される男の最初の食事が、自分の性器の残り滓となるように手配した。
改めて後ろ手に縄で縛り直された男は、そのまま外へ運び出されていった。顔も股間も隠そうとはされなかったので、辿る道のりで法衣のマントを羽織った元司祭の去勢された姿を、皆が眺めていくことになるだろう。
一息ついた国王の前に、口清めのワインが注ぎ直され、国王は改めて本日のメニューを支えるワインの謂れを思い返し、ソムリエの選択を褒めた。
・デザート
さて、コースを終えた国王の前に洒落た身なりのパティシエが進み出た。
「本日の締めくくりに、特製のアイスクリームを用意させていただきました。お召し上がりくださいませ」
差し出されたガラスの容器には、いくつもの宝石のように輝く色とりどりの小さな玉と、まるで玩具のような小指の爪ほどの大きさの、小さなペニス型の菓子がいくつも詰め込まれていた。一粒つまんで口に入れた国王の舌の上で、それはホロリと溶けるような甘さと、しかしながら僅かな肉の風味を残していった。
パティシエに視線をやると、彼は得意そうにほほ笑んだ。
「それは胎児のペニスを切り取って集め、レモンを加えた蜂蜜の中にじっくりと漬け込んだものです」
国王は驚いて一口食べたばかりの肉片を見つめ直した。道理で小さいながらも細かな部分まで性器の形をしているわけである。産まれる前の胎児であるからこそ、このような微細な味と形の表現をすることが出来たのだろう。
「では、これは?」
国王が飴玉か何かと思っていた塊をすくうと、よく見れば中に小さなチェリーの種のようなものが、砂糖の粒に包まれているのがわかる。
「同じく、胎児の精巣や卵巣を砂糖菓子に設えたものです。軽く火を通して生臭みを取った後、時間をかけて糖の衣を着せました」
国王は興味深げに、青い粒の一つを口に入れる。今度は本当に舌の上で溶けてしまった。もう一つ、今度は赤い粒を口に入れた国宝は、しばらく口の中で転がした後、パティシエをジロリと睨む。
「赤い方が男子であるな?」
「まさしく陛下の仰るとおりにございます」
主君を試すようにわざと紛らわしく着色を施したパティシエは、いたずらっぽく微笑みながら国王の確かな味覚を讃えた。
「ペニス・フェタル・マリーネ・オ・ミール・エ・コンフィセリ・ド・シュクル・ゴナーデ、で、ございます」
(蜂蜜漬けの胎児のペニスと生殖巣の砂糖菓子)
国王は感嘆しながら、残りを味わいつつ尋ねた。
「しかし、よくこのような量の胎児を都合よく手に入れることが出来たな」
国王の問いに、パティシエは首を振った。
「ちょうど国王陛下がお手を付けられた侍女たちが、落胤の処分を宰相閣下に迫られておりました。王家の種を宿すにしては少々家格が足りぬ者たちばかりでしたので、産まれ落ちた後も悩みの種となるご様子、差し出がましく口を挟んだ次第にございます」
「なんと余の子らであったか。…ふむ、后にはもしや知らせてはおるまいな?」
「滅相もない。恐れ多くも女王陛下のお耳を無用な騒ぎで煩わせるようなことは致しませんとも」
「なれば、よい。産まれてしまった後では余計に角が立つ。芽が出る前に摘んだのならば、結構なことだ。後ほど褒美を与えよう」
「有難きお言葉!」
「他の者も大儀であった。今宵の食事は実に満足できたぞ。今後も励むが良い」
「ははっ!」
揃って頭を下げる厨房係の家臣たちに見送られ、国王はまた優雅に歩み去っていくのであった。
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投稿:2022.07.07更新:2022.07.07
王様のれすとらん
著者 ななしさん 様 / アクセス 3561 / ♥ 19