ABC兵器のうちbiology(生物)兵器とchemical(科学)兵器は使用が国際条約で禁止されているが、開発自体は禁止されておらず、大国は公然と、中小国すら秘密裏に開発している。
実は私も生物兵器に関わっていたりする。ただし、開発しているのは殺傷性ゼロの、不快感だけを与える「嫌がらせ」菌だ。ただし、その不快感たるや、精密な操作や狙いを定める際の集中力を阻害するぐらいのもので、十分に敵の攻撃能力・防衛能力を落とす。
化学兵器にしろ生物兵器にせよ、相手を殺したり麻痺させるべく毒性の高いものが主に開発されてきた。だからこそ国際条約で禁止になったのだ。だから私のように殺傷性ゼロの菌を開発する者は異端だ。だが、考えてみてほしい。相手を殺さず重症にしてこそ、その兵士の保護・治療に人手を取られて、相手の足止めになるではないか。しかも、たといバラまいても生物兵器として露見しにくいだろう。私の開発しているような「嫌がらせ」菌なら、誰もが「突然変異」と思うだろう。
ついでに、伝染性も低い奴、つまり接触感染以外を起こさない奴がいい。生物兵器はサイズが小さい故に事故で漏出する可能性があるから。実際、1979年にはソ連のスヴェルドロフスクで炭疽菌漏出事故が起こっているほどだし、Covid-19に関しても事故が取りざたされてほどだ。後者の真相は不明のままだが。
私が思いついた着いた案は水虫兵器だ。白癬菌を強化して、足と股間の痒みで車の運転すら集中して出来なくなれば、ドローン操作も地対空ミサイルの発射も失敗率が高くなるだろう。こうして、苦節10年かけて完成させた。
もともと生命力の強かった白癬菌をさらにしぶとくしたので、現存するどの薬でも治療出来ない。この菌を殺すほどの薬は、いずれも部位全体が壊死させるほどに毒性が高くなる。それでも足指なら、まだ皮膚再生が出来るが、下手にインキンになったら手の施しようがない。菌を殺すほどの薬は、陰嚢を壊死させるからだ。それでは中身が保てなくなる。
白癬菌といえば、皮膚硬化の性質もあるので、そっちに特化した白癬菌も開発した。硬化して不快な部位といえば陰嚢だ。硬化することで熱放出も悪くなるから、あっちも弱る。もともと弱い人だと不能になりかねない。
難しかったのは、動物愛護の精神から感染を人間限定にすることだった。解決策として、フルチンでは発芽しないようにした。ヒトの男の匂いがパンツで一体以上の濃度になって初めて発芽する。動物実験はヒトの男の悪臭の強いパンツを実験動物に履かせて発芽させて行なった。
白癬菌の開発と並行して、睾丸そのものへ寄生する細菌も開発した。その目的は男性ホルモンの分解だ。男性ホルモンの分解というと、肝臓の分泌するアルマターゼ(男性ホルモンを女性ホルモンに変化させる酵素)があるが、これを分泌する機能をリン菌に加えたのだ。正確には、酵素の性質を代えて、男性ホルモンを食べて(分解して)エネルギー源とするようにしているから、女性化はそこまでしないはずだ。去勢と同じ単なる脱男性化と言えば良いだろうか。こちらは痒みのような不快感はないが、長期戦で敵国の士気を落とすには効果的だろう。
男性ホルモンが餌だから、一旦侵入したら、次第にホルモンを出す器官に少しずつ接近して、最後はその器官そのものを占拠してしまうことになる。その速度を高めるべく、精子や精液を食べる(分解する)ことで増殖を引き起こす性質も付け加えた。なので元々のリン菌より増殖が早い。もっとも排尿で外に出てしまって無秩序に広がるリスクもあるので、菌自体は血液や尿素には弱いものにしてある。
尿道から前立腺を通じて感染するので、睾丸に達した段階で手遅れだ。とはいえ、睾丸だけでなく副腎など総ての器官にも寄生するから、そこを守ろうと思ったら、そちらに感染が進む前に、睾丸だけでなく前立腺も陰茎も摘出する以外に方法がない。
まあ、性病にかからないように気をつければ良いだけのことだが。
こうして「嫌がらせ菌」兵器が無事に完成した。
この時、私は菌の危険性を全く認識していなかった。というのも、これら開発成果がスパイに盗まれて、他国でさらに強化される可能性を全く考えていなかったからだ。
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投稿:2022.07.11更新:2022.07.19
細菌兵器の異端たち
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