優希は最初、それをただの好奇心だと思っていた。
ネットの片隅で見つけた「エラストレーター」という名の強力なゴム。
家畜の断尾に使うような道具が、自分の体でどんな感覚を生むのか。
試してみたいという衝動が、彼の内に湧き上がったのは一時の興奮だった。
初めてゴムを手に持ったとき、心臓がドクドクと高鳴った。
ちんこにそれを巻きつける瞬間、冷たいゴムの感触と締め付けが妙な快感を呼び起こし、彼は息を荒くした。
血流が制限され、じんじんとした疼きが走る。それがたまらなく新鮮で、優希は目を閉じてその感覚に浸った。
最初は数分で外していた。だが、日に日にその時間が延びていく。
ゴムを付けたまま部屋で過ごし、疼きが強くなるのを観察するようになった。
ある日、鏡で見た自分のちんこは、少し紫がかった色に変わっていた。それを見て、彼はなぜかゾクゾクした。
変色していく様子にすら興奮を覚え、「まだ大丈夫」と自分に言い聞かせた。
感覚が少し鈍くなっても、それは「慣れ」だと誤魔化した。
だが、ある朝、異変に気付いた。ゴムを外しても感覚が戻らない。触っても何も感じない部分が広がっている。
鏡を見ると、ちんこは不気味な黒紫色に染まり、先端はまるで死んだように冷たかった。
……心臓が締め付けられるような恐怖が襲ってきた。
「やばいやばいやばい…」
慌ててネットで調べると、「壊死」という言葉が目に飛び込んできた。
震える手で服を着て、優希は救急病院へ向かった。
医師の表情は冷たく、診断は残酷だった。
「壊死が進んでいます。緊急で切除が必要です」
その言葉が頭の中で反響し、現実感が薄れていく。
手術室に運ばれるまでの間、優希はただ茫然と天井を見つめていた。
興奮から始まった遊びが、こんな結末を迎えるなんて。
手術台に横たわり、全身麻酔が効く直前、彼は最後に自分のちんこに触れようとした。
でも、もう何も感じなかった。
目覚めたとき、そこには何もなかった。股間を覆うガーゼの下に、かつての自分が消えていた。
看護師がガーゼを外し、アルコールで消毒するたび、優希は目を背けた。竿がなくなり、玉だけがぶら下がる異様な姿。
切り株のような根元は赤黒く、痛々しい傷跡が残っている。
看護師の無表情な手つきが、優希の屈辱をさらに深く抉った。
「もう男じゃない」その思いが胸を締め付けた。
退院後、傷が癒えていくにつれ、後悔が重くのしかかった。
風呂場でシャワーを浴びるたび、水が切り株を叩く感覚に現実を突きつけられる。
小便をするたび、かつての勢いはなく、ただ玉の下から滴るだけ。
トイレの鏡に映る自分の姿を見て、優希は歯を食いしばった。
「こんなはずじゃなかった」
ゴムを付けたあの瞬間、あの興奮が、こんな惨めな結果を招くなんて。
性欲は消えなかった。それがまた辛かった。
街で女の子を見ると、心がざわつき、体が反応を求める。でも、下半身は何も応えてくれない。
かつては勃起して疼いた場所が、今はただの空白だ。
夜、布団の中で手を伸ばしても、触れるのは切り株だけ。
感覚のないその部分を握り潰したい衝動に駆られながら、優希は涙をこらえた。二度と女の子とセックスできない。
抱き合うことも、熱を感じることもない。雄としての自分が完全に失われたことを、毎晩思い知らされた。
同世代の男たちが恋愛やセックスを語るたび、優希は黙って俯いた。あいつらにはできることが、自分には永遠にできない。
友人の軽い下ネタにも笑えず、ただ虚無感が広がる。
「俺はもう終わってる」
そう思うたび、ゴムを手に持ったあの日の自分を呪った。
一時の気の迷いが、人生をこんなにも暗く塗り潰すなんて。
性欲は溜まる一方だった。発散する術がないまま、優希の心は荒んでいった。
AVを見ても、かつての興奮は虚しく響くだけ。
手でどうにかしようとしても、切り株を擦る行為に何の意味もない。絶望が深まるたび、彼は鏡の前で自分の股間を睨みつけた。黒ずんだ傷跡と、役に立たない玉。
雄としてのプライドはズタズタに引き裂かれ、優希はただ静かに泣いた。
手術後の虚無は消えなかった。後悔は癒えるどころか、日々肥大していく。あのゴムさえ手にしなければ。
あの興奮に溺れなければ。今でも普通の男として生きられたはずなのに。優希はベッドに横たわり、暗闇の中で呟いた。
「ちんこがらあったあの頃に戻りたい…」
だが、その願いは切り株のように空しく響くだけだった。
後日談はこちら
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投稿:2025.03.05更新:2025.03.06
好奇心
著者 拷問執行人 様 / アクセス 746 / ♥ 5