俺はごく一般的な男子高校生。
高野健一、高校3年だ。
普通の高校3年なら受験勉強真っ只中なのだが、うちの高校は大学付属。余程悪い成績でなければ大学には入れる。
俺自身は普通の男子高生だが、弟、いや半年前に妹になったか…は、ちょっと変わってる。
まず性別が変わっている、というのは前提として、妹の入った中学が変わっている。
国家公認で中学生を性転換するお墨付きを持つ“私立”中学。なんだそれは?
国家公認なら国公立にすればいい。なぜ私立?
要はたぶん国としては“目はつぶるけど表立って運営したらいろんな反発が起きて面倒だ”ということだろう。全く都合がいい。
でも妹はこの中学に入るために必死に勉強した。作文の勉強も頑張っていた。
しかもいくら学力も作文も優秀な成績で基準に達していても合格するにはそこから更に面接が3回もある。多すぎるだろ…
グループ面接、親同伴の面接、本人だけでの面接。この面接では精神科医2名も立ち会う。この中学の職員として常勤する精神科医だ。普段は保健室の先生をしている。2人要るのは性同一性障害の診断には2名の医師の診断が必要なのと、保険医が2名いれば有給取得がさせやすいという観点かららしい。まぁいい職場なんだろうな…
つまり、面接という名の“診断”なのだ。
さすが国家公認だけあって、事を運ぶのが慎重だ。きっちり精神分析をして心と体の性が不一致な男子生徒が入学を許可される。
ちなみにもともとの女子生徒もいる。女子は面接1回で済むらしい。作文がA.I.に考えてもらって書いたものじゃないことを確認するためみたいだ。ここらへんもソツがない。
入学した男子生徒はまず保健体育で女性ホルモンの働きについて学び、女性ホルモンの投与を開始するかどうか選択する。
そして女性ホルモンの投与が3ヶ月に達した生徒から順に朝礼で“おちんちんいらない宣言”なるものをして全校生徒の前でおちんちんを切って、そのまま病院に運ばれて性転換手術をする。
なぜ中学1年生に全校生徒の前でそんなことさせる必要がある?非人道的にも程があるだろう?と考えていたが、それなりに理由はあるらしい。
この中学に入学した男子生徒は全員が「おちんちんを自分で切って女の子になりたい」男子たちだ。
だから自分の夢を実現させ、それを大勢の観衆の前でやり遂げることによって、成功体験として心に刻み、それによって自己肯定感が上がり、その後の人生において自分を信じられる心を育むのだそうだ。そう言われればそうかもしれない。
弟だった健吾はいつもおどおどして自信が無さそうだった。それが妹になった今は毎日とてもウキウキしてキラキラしている。よく笑うようにもなった。ちなみに妹は結構可愛い。
妹は入学当初からの女性ホルモン投与は躊躇した。学校側としてはそんなことは想定内で、半年間の内にどうするか決めれば良いという方針だった。
同じクラスの生徒の反応も様々で、すでに覚悟が決まっていて入学とともに女性ホルモンを始める生徒も一定数いたらしい。
3ヶ月後、朝礼での“おちんちんいらない宣言”が始まった。妹はそれを見、女の子になって戻ってきたクラスメイトと再開し覚悟を決めた。7月からの服用だった。
10/28、望の番が回ってきた。この朝礼にはその日性転換する生徒の父兄も参観が可能だ。
うちは両親と俺、家族総出で見に行った。俺は学校をズル休み、じゃなく午後から行く連絡をして参観した。
裸の望が登壇し、宣言をした。
そのあとマットの上に膝立ちになり、そこへ教職員がローテーブルとまな板、包丁、消毒用アルコールを運び準備を整える。
器具類と望の体の消毒を担任の先生が行う。
すでに救急車と救急隊員は待機している。周囲の病院とも提携している。本当にソツがない学校だ…。さすが国家公認。
望がまな板の上に自分のおちんちんとタマタマを乗せる。左手でおちんちんを押さえ、右手に包丁を握り、おちんちんの根元に当てた。
「あたし今から女の子になります!」
と大きな声で叫び、包丁をおちんちんに食い込ませた。包丁を滑らせるように切っている。
これは家でソーセージを切って練習したとおりだ。自分のおちんちんより太いソーセージを切ってイメージトレーニングを積んでいた。
包丁の切れ味が良かったのか、あっけなくおちんちんが切り取られた。
望はがっくりとへたり込み、まな板の上に残された望のおちんちんだけが時間から取り残されたように動かなかった。
教職員がすぐに駆け寄り、傷口を消毒。
生理用ナプキンを患部にあてがい、紙パンツを穿かせて毛布で包む。救急隊員が担架を担いで登壇し、望を乗せて救急車へと運ぶ。ついでに切断された性器も回収する。
両親は救急車に同乗し、一緒に病院へ。俺は高校へ向かった。
結構衝撃的な現場だったが、取り乱す人は一人もおらず、皆が望を応援する温かい雰囲気だった。
入院中の妹の御見舞にも毎日行ってやった。
妹は毎日のように「あたし、女の子だよ!女の子になっちゃったんだよ。あたし可愛い?偉い?」と繰り返し聞いてきた。俺は棒読みで「えらいえらい」と繰り返し、妹は「心が篭ってない。やり直し。」という応酬が続いた。
明日退院と言う日になって、妹は「まだちゃんとお兄ちゃんに褒められてない」と涙ぐんで訴えてきた。なかなか可愛かった。おれは妹の頭を撫でて「ちゃんと見てたぞ。自分で全部切って偉かったぞ。」と言った。妹は恥ずかしそうに満足そうに頬を染めながら頷いていた。
どうやらまた妹の名前が変わったらしい、と言っても読み方が同じで漢字が増えただけだが、もっと女の子らしい名前にしたかったらしい。
妹、高野望美は「髪が伸びるまでウィッグを被る」といって、なぜか水色のロングヘアのウィッグを被って女子の制服で学校に通っている。なんか好きなアニメキャラがいるらしい。
髪の色って校則で規制されないんだろうか?
改めて不思議な学校であり、不思議な妹だ。
それに妹の考えを尊重し支援するうちの両親も中々人間出来てると思う。
俺は本当に普通な高校生なので、それに影響されたり感化されることもない。
ただ、女の子として全力で楽しんで中学生活を満喫する妹を応援はしている。
このときはまさかあんなお願いを妹からされるとは思ってもいなかった…。
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投稿:2025.03.23更新:2025.03.23
弟が妹に 兄から見た『私立 聖触学園中学校』
著者 たべっこ呪物 様 / アクセス 390 / ♥ 6