白き檻
この国では、教育とは“選別”の別名だった。
全国の教育機関はすでに国営化され、すべての子どもは「国家育成庁」の管理下に置かれている。
教室では黒板が姿を消し、天井から吊るされた無数の監視カメラと生体センサーが、生徒たちの一挙手一投足を記録し続ける。
かつての教育は完全に解体され、国家が管理する「選別教育制度」が敷かれていた。
知能、身体能力、情緒安定度、そして心理傾向――
あらゆるスコアがAIによって数値化され、ランキングとして日々、生徒に通告される。
上位者として卒業した者は、異性との性交渉や、結婚の自由が与えられる。
下位者には、未来を選ぶ権利すらない。
特に、最下位層へと転落した男子には、全校生徒の前で生殖の権利および生殖能力の抑制、または剥奪措置を受けることになる。
女子は今後、異性との交遊が禁じられ、法の名のもとに、純粋と服従だけが求められた。
そしてその後、男女ともに隔離施設へと送致される。
表向きは「再教育施設」だが、実態は公にはされていない。
この選別教育制度を設計したのが、国家育成庁の長官であり、教育の母と呼ばれる女――上月凛である。
「優秀な子どもだけが、未来をつくるべきです」
彼女はそう言ってのけた。
メディアの前で、議事堂で、子どもたちの卒業式の演壇で、いつも変わらない微笑みを浮かべて。
整った顔立ちと冷たい瞳――。
彼女は大いなる権力を手にしていた。
その一言一言が国の方針となり、制度は神の如き不可侵のものとなった。
神谷日向は、その制度の中で選ばれし者だった。
容姿端麗。
IQ142。身体能力Sランク。心理安定指数も、かつては極めて高かった。
教師たちは彼を「未来の種」と呼び、女子生徒たちの視線も熱を帯びていた。
だが彼は、選別教育制度に対し、長らく疑念を抱いていた。
「この制度って、本当に正しいのですか?」
たった一言。
それだけで、すべてが変わった。
国家育成庁のカウンセリング室で、彼は、そう漏らしてしまったのだ。
翌日、心理スコアは大きく低下し、翌週には“ランクC”へ。
月末には“ランクE”──最下位層へと転落した。
クラスの担任である一条舞は、重い現実と向かい合っていた。
生殖能力の抑制、剥奪措置。と、一言で言っても施される措置は様々だ。
勃起の不能化、性的快感の抑制、性的欲求の制限など、その殆どが、体内チップによる科学的な処置であった。
生徒それぞれに、学力・身体能力・遺伝的適性・心理安定性など、細分化された数値を元に、AIによって適切な措置が選択される。
しかし今回、日向が施される措置は、陰茎の全切除だった。
「こんな残酷なことって…」
舞は悲痛な表情を浮かべる。
これは非常に重い措置だ。
外科的措置は、科学的措置とは異なり、肉体の一部、または機能を永遠に失ってしまう。
少なくとも、舞が教師になってから、このような措置が選択された事など、一度も無い。
たとえ最下位層に落ち、再教育施設へ送致されても、そこでの行いが正しければ、制御された機能や、失った権利を取り戻せるかもしれない。
無責任かもしれないが、そんな僅かな希望を頼りに、幾人もの生徒達を励まし、施設へと送り出してきた。
「でも、神谷君は……」
陰茎は、男女が愛し合う上で、なくてはならない重要な器官だ。
そして、排尿はもちろん、思春期の男子にとって、自慰を行うための大切な場所だ。
16歳の高校生が陰茎を失う。それは、どれほどの苦悩を伴うだろう。
たとえ、生殖の権利を取り戻したとしても、それに必要な器官が、もう彼には無い。
彼はこの先、何に希望を見出し、生きていけばいいのだろうか。
私は彼に何と声を掛け、送り出せばよいのだろうか。
しかし、舞は担任として、この重い事実を日向へ告げる責任があった。
放課後の教室。
生徒たちはすでに帰宅し、教室には夕日が差し込んでいた。
神谷日向は、一人で椅子に座っていた。
舞は、最下位通告書を何も言わず差し出した。
そこには、規格化されたフォントで淡々とこう記されていた。
個体番号:KD-1078942 神谷 日向
学業・身体・心理スコア下位3%に該当
処分対象(レベルE)として登録
処置内容:陰茎全切除
処置は全生徒の前で公開的に実施される。
また、通告の翌日より処置執行までの間、自慰行為を禁ずる。
「そんな!…陰茎…切除?こんな事、許されるんですか!?」
「ごめんなさい、神谷君。教師としての義務なの。拒否すれば、私も教育不適格者として登録されるの」
「こんなの、ありえない…。この社会は間違ってます。俺は全力でやっていたつもりです。勉強も、スポーツも、ルールも守って……。なのに疑問を持っただけで、陰茎を…切除って!」
「……神谷君」
舞は何も言えなかった。天井の監視カメラを見上げる。彼の言葉を肯定してしまえば、自分の身を危険に晒してしまう。
「わかってますよ。先生も……生徒を守れないんですね」
言葉は刺のように鋭く、けれど声はどこか、もう折れていた。
日向の頬に涙がつたった。
彼女はそっと椅子を引いて、日向の隣に腰を下ろした。
「……ごめんね。私は女だから、あなたの気持ちが正確にはわからない。
おちんちんを切られるって、男の子にとってどういうことなのか……。
本当は、理解してあげたい。
でも、生きる意味って、おちんちんが全てじゃないよね?
女の子とエッチや結婚が出来なくても、幸せになる方法は、いっぱいあるはずよ?」
日向は俯いたまま、肩をわずかに震わせた。
「わからなくても……否定しないでくれるだけで、少しだけ、救われます」
本当は、救われてなどいない。ただそれ以上、舞の言葉を聞きたくなかった。
早く一人になって、誰もいない部屋で、全ての感情を吐き出したかった。
舞は、そっと手を伸ばして、日向の肩に触れた。
舞は言葉にするのを躊躇う。
デリケートな内容。しかしちゃんと伝えなくてはならない。
「明日からはオナニーが禁止されちゃうから、もし、オナニーするなら今日の内に、たくさんしておきなさい。」
日向は何も答えない。
「神谷君、これは大切なことよ。日付が変わると体内チップの制御で射精ができなくなるの。
辛いかもしれないけど、今日が終わればもう一生、あなたはオナニーができなくなるの。
高校生の男子なら毎日して当然の事だけど、神谷君は、もう、今日が最後なの。
だから、……後悔だけは残さないように……ね?」
高校生の男子に対して、センシティブで言葉にし難い内容を、それでも舞は口にした。
日向は黙ったまま、微かに頷いた。
日向への最下位通告、そしてその措置内容。
それは暫くして全生徒へと周知された。
その知らせは、誰よりも一ノ瀬梨花を動揺させた。
梨花は国家が誇る完璧な少女。
上月凛直轄の英才校でトップを維持し続け、品行方正、非の打ち所がないとされていた。
だが、彼女は誰も知らない傷を抱えている。
かつて彼女には兄がいた。
兄、一ノ瀬拓馬は、日向と同じようにランキング下位に転落し、屈辱的な処置のあと、隔離施設へと移される直前に、自ら命を絶った。
まだ小学五年生だった梨花は、兄の遺体にすがりついて泣き叫んだ。
「兄さんは何も間違ってなかった……」
それ以来、梨花は完璧な優等生を演じ続けてきた。
制度の内側で、誰よりも忠実に振る舞うことで、復讐の機会を待っていた。
日向は、そんな兄に――よく似ていた。
表情も、声も、笑い方も。
梨花は、日向に対し、密かな恋心を抱いていた。
しかし彼が受ける罰は、生殖器の切断。
兄が受けたものよりも、遥かに重い罰。
そしてそれは、この恋心が実らぬことも意味する。
自身の叶わぬ恋。そして、今の彼の気持ちを考えると、胸が張り裂けそうだった。
彼の運命を変えられない己の非力さが、ただ悔しかった。
「……お願い、日向くん。どれだけ辛くても、苦しくても、絶対に死なないで……」
胸の奥で叫ぶように祈る。
体育館での公開処分は、3日後に迫っていた。
壇上で固定され、白衣の技術者に囲まれ、男であることそのものを取り除かれる――
日向の運命は、もう誰にも止められない。
処分当日。
薄曇りの空の下、学校の全校生徒が体育館へ集められた。
壇上、その中央には――拘束椅子が静かに威厳を放っている。
金属製のそれは、まるで手術台のようだった。
手足を固定するベルト、足元には排液口すらある。
「神谷日向、前へ」
AIの無機質な声が、体育館全体に響いた。
誰一人、声を上げない。
空気は、冷たい粘液のように重く張りついていた。
日向は、制服の上着を脱がされ、両脇を白衣の職員に抱えられながら壇上へと運ばれていく。
彼の足取りは重く、だが震えていなかった。
むしろ、表情には怒りと疑念が浮かんでいた。
「こんなやり方が、教育だっていうのか……」
数年前まで、自分もここでランク上位者として拍手を浴びていた。
今、自分は無言の群衆の見世物として、突き出されている。
壇上から見下ろす体育館の光景は、まるで一つの巨大な裁判場だった。
同級生たちの顔が見える。
ある者は、興味本位の目で。
ある者は、顔を背けながら。
ある女子生徒は、両手で口を押さえ、泣いていた。
彼の容姿や才能に、嫉妬していたものの中には、あざ笑う者もいた。
そして――その中に、一ノ瀬梨花の姿があった。
彼女は口元を固く結び、じっと壇上を見つめていた。
その眼差しには、怒りとも、悲しみともつかぬ強い感情が渦巻いていた。
だが、日向と目が合った瞬間――
梨花は、そっと視線を逸らした。
その一瞬が、日向の胸に深く突き刺さった。
壇上の前列に、白衣の男女が並んでいる。
厚生局所属の医療技師。だがこの場においては、執行人に等しい存在だ。
技師達が器具を準備し始める。
白いカーテンがかけられ、医療器具が次々と運び込まれる。
カーテンの内側で日向は、衣服を全て脱がされ、拘束椅子に両手、両足を大きく広げられた状態で、しっかりと固定される。
若い女性技師が一人、日向の前で足を止めると、突然腰をかがめ、露わになった日向の恥部にグイっと顔を近づけた。
「っ!?」
鼻先が触れそうなほどの距離で、自身の生殖器をまじまじと観察され、異性に恥部を見られた経験の無い日向は、恥じらいと驚きで身が固まった。
(可愛い顔してるのに、匂いも、大きさも、色も、えっちに男の子してるねぇ。楽しみ楽しみー♪)
女性技師は何やらボソボソと小声で呟いた後、垂れ下がった陰茎の先を指先で軽くつつき、ウンウンと頷きながら作業に戻っていった。
作業が機械的に、無感情に進められていく。
体内チップによる射精の制御が解除され、全ての準備が完了したとき、カーテンが開かれた。
体育館中に、どよめきが響く。
大きく開かれた両足。その付け根。その中央。
そこに16歳の少年の、性の根源が、強く存在感を放ち、ぶら下がっていた。
全校生徒の全ての視線が、そこに集約した。
覚悟はしていた。
だが、あまりの恥辱に、顔が真っ赤に染まる。
しっかりと生えた陰毛。
皮こそ完全には剥けてはいなかったものの、思春期の陰茎は太く、浅黒く、しっかりと大人の男であることを主張していた。
女子生徒たちの目は釘付きになった。
一部の女子はほおを紅潮させ、呼吸が浅くなる。
「あれが神谷君の……」
「大きいよね……」
「やっぱり神谷君のも、ちょっと黒ずんでるんだ……」
他の女子と同じく、梨花も、日向の男性器から目が離せずにいた。
日向とは、上位ランカーとして、何度もランキングを競い合い、認め合い、お互いを高めあう仲だった。
そんな彼の、初めて見る場所。男の子の大切な場所。
そして、彼がこれから失ってしまう場所。
そのとき――
「皆さん、よく集まりました」
体育館のスクリーンに、上月凛の姿が現れた。
漆黒のスーツ。銀灰の髪を結い上げ、整った顔立ち。
画面越しでも伝わる冷徹なカリスマ。
「神谷日向君は、優秀な生徒でした。ですが残念なことに、制度への疑問という危険な病に侵され手しまいました。
社会への悪影響を未然に防止するため、これから彼は生殖の権利と、生殖器の一部を失います」
彼女は感情のない声で語る。
「この処分は、彼個人の為のものではありません。世界の未来の為のものです。
優れた遺伝子を守るために、不要な交配は排除されねばなりません。
これは、慈愛なのです」
日向の心が凍った。
慈愛――? この仕打ちが?
(お前達は……人をなんだと思ってる)
何かしらの薬剤を注射される気配が、陰茎の根元に走る。
日向は思わず声をあげた。
「俺は……間違ってなんかいない!疑問に思うことが、どうして罪になるんですかッ!」
声が反響する。
誰も答えない。
技師たちは淡々と手を動かし、処置が進められる。
ただ、一人――
会場の片隅で、一ノ瀬梨花が、制服の袖を握りしめ、震えていた。
(違う……違う……日向くんは、間違ってない……!)
監視された校舎内で、声には出せなかった。
彼女にはまだ、“国家の寵愛”が残っている。
兄の二の舞にはなれない。
でも、このままじゃ――
「それでは、ただ今より、神谷日向くんの陰茎の全切除を行います。これは様々なデータから、AIによって導き出された、彼に施されるべき適切な処置なのです。」
体育館にざわめきが走る。
処置の内容を知らなかった生徒も、少なからずいたようだ。
「如何に能力が高く優秀であろうと、世界の未来にとって危険と判断されれば、彼のように重い罰を受けることになります。
今回はこれまで前例の無い、外科的な手法となるため、異性の局部を初めて見る生徒、衝撃を受けてしまう生徒も居ることでしょう。
しかし、今後皆さんが道を誤らぬよう、戒めとして、公開的に処置が実施されるという事。
この意味を皆さんよく理解して、処置の様子を、目を逸らさず、しっかりとご覧下さい」
スクリーン上から、にっこりと笑顔を浮かべた上月凛の姿が消え、代わりに日向の生殖器と、怒りと恥辱に震える表情が、アップで映し出された。
(本当に悪趣味ね……)
担任教師の舞は、声には出さず苦笑する。
人間の尊厳の剥奪。
そんな残酷な処置が、全生徒が見ている前で行われる。
これが本当に適切な処置なのだろうか。そう疑問に思う者は少なくなかった。
今行われている「処置」もそうだ。
「ぅあっ!?」
日向の陰茎は、白衣の女性技師の手により、明らかに性的な刺激を与えられ、勃起を促されていた。
この女性技師の名は朝霧あやか。
彼女は自他共に認める変態であり、特に男性器への知識、理解は非常に深く、施術において、他の追随を許さぬ豊富な経験と技術を有していた。
潤滑液を垂らした手で、太い陰茎が上下にしごかれる。
「何でっ……?これにっ、何の意味が、、あるんですかっ」
「キミ、可愛い顔してるのに、ここは大人なんだねぇ。もっと大人なったとこ、みんなに見てもらおうねぇ♪」
あやかが耳元で囁く。
意図を察知した日向は、陰茎が充血しないよう、歯を食いしばりながら刺激に抗う。
しかし先ほど、彼の陰茎には、性的快感を高める薬剤が投与されていた。
それに加え、措置の通告を受けてから、およそ二週間。
監視体制の下、自慰行為を禁じられていた思春期の陰茎は、刺激に耐える術を持たなかった。
その恥部は本人の意思に反して、徐々に角度を上げ、あっさりと天井を見上げた。
張りと艶のある、立派な亀頭が、完全にむき出しになっている。
「あんっ♪すっごくえっちで、切り応えのありそうなおちんちんだねぇ。お姉さん、うれしいなぁ」
皆、スクリーン上に、鮮明に映し出されたその光景を、脳裏に焼き付けた。
「うわぁ……すごい…」
「勃ったらあんなに大きくなるんだね……」
勃起した陰茎を、全生徒に、梨花に見られている。
羞恥に身体から汗が滲む。
しかし、性的な刺激はここで終わらず、その後も容赦なく日向を責め続けた。
はちきれそうなほど大きく育った、真っ赤な亀頭が、潤滑液たっぷりの手のひらに包み込まれる。
あやかがいたずらっぽい笑みを浮かべて、日向の整った顔を覗き込む。
「えっちな亀さんにはおしおきしないとねぇ……。きっついの、いくよぉー」
その直後、敏感な亀頭が激しくこねくり回された。
「はぅっ!!……やめっ!!」
強すぎる刺激に拘束された身体が跳ね上がり、快感が一気に高まる。
「ねえねえ知ってる?生体チップって、キミ達の健康状態とかぁ、身体のいろんなこと教えてくれるんだけどさぁ、一日のオナニーの回数とかも教えてくれるんだよぉ?」
日向の鼓動が乱れた。
「キミ、一日平均3回は多すぎだよぉ。まじめで優等生で可愛い顔してるくせにさぁ、キミのおちんちん、えっちすぎぃ。そりゃこんだけぶっとく育つよねぇー♪」
日向の顔が、羞恥で真っ赤に染まる。
「最後の日なんか7回もしてたよねぇ?人生最後のオナニー、どんなえっちなこと考えてたのぉ?好きな子のことかなぁ?気持ちよかったぁ?」
あやかはモニターを眺めながら、今度は亀頭のつけ根をつまみ、激しく上下させた。
射精感がこみ上げてくる。もう、快感に抗おうという意思は無くなっていた。
(ああっ!もう駄目だっ……出るっ!!)
そう思った瞬間、あやかの手が陰茎から離れた。
達せなかったもどかしさで苦悶の表情をうかべる日向に、あやかが得意げな顔を見せる。
「ざーんねんっ。あとチョットだったのに、イケなかったねぇ?」
脈打つ快感が落ち着いてくると、またモニターに視線を送りながら、再び手淫が始まった。
「まだまだいくよぉー」
「はあぁっ!!」
体内に埋め込まれたチップにより、AIが性的快感を正確に数値化し、モニターに映し出している。
絶頂に至らないよう、絶妙にコントロールされた刺激が、日向を苦しめる。
「このおっきくて、えっちなタマタマの中のミルク、いっぱい出したいねぇ?
……でも、だーめ♪」
日向の大きな陰嚢を鷲掴みにし、中の睾丸をいやらしく揉みしだく。
「あぐっ」
弱い部分を無造作に掴まれ、痛みに身体がビクンと反射する。
「あっ、ごめーん、ちょっと痛かったぁ?
……でもさぁ、キミがえっちなのはこのタマタマが原因なわけだしぃ。……ココもおしおきしちゃおっか。」
日向に緊張が走る。
陰嚢の中身、男の弱く、大切な二つの器官を指先が捉える。
「まずはぁ、みぎタマからねぇ?」
一気に力が込められ、ぐりぐりと転がされ、意地悪く弄ばれる。
「あぐっ!?ぐうぅぅうあっ!!」
重く強い痛みに、首が仰け反る。
「あはっ♪ちょっとくりくりしただけで、いい反応っ♪ほらぁ、キミのかっこ悪いとこ、みんなに見られてるよぉ?はいっ、次ひだりぃ」
「もうやめっ!!うぐぅぅっ!!」
「またみぎぃ」
「うぐうううぅぅっ!!!」
「次はぁ、どっちもぉ」
「はっっっ!?ぐううううううぅぅっ!!」
日向は、与えられる苦しみに、ただ身体をくねらせて悶えるしかない。
日向のその姿は、一部の女子生徒達に目に、扇情的に映る。
「はぁんっ、今のキミ、すっごく色っぽいよ。もっといじめたくなっちゃうじゃん」
脂汗が噴出し、息も絶え絶えな日向の睾丸に、更なる追い討ちをかける。
「えいっえいっ♪」
ぶら下がった二つの睾丸を、あやかの中指が、交互に容赦なく、何度も弾いた。
弾かれる度に身体が跳ねる。苦痛から逃れるため、腰を逃がそうと、股を閉じようと力を込めるが、大きく開かれた脚は完全に固定されており、叶わない。
「――っ!――――っ!!」
日向は首を仰け反らせ、涎を垂らしながら、声にならない声を上げる。
限界を知らせるように、陰茎の先から、僅かに尿が漏れ出た。
女子生徒達にとっては、自分には存在しない器官。
その痛み、苦しみは、はしたなく悶える日向の姿から想像するしかない。
その様子を興味深く見ている者もいれば、性的に興奮している者、情けない姿に笑いを堪えている者もいる。
梨花は恥辱に晒される日向の心情を察し、目を伏せた。
「ふうっ。……楽しかったぁ……。
そいじゃ、また寸止め地獄、はじまるよぉ?」
重苦しい痛みに支配される中、快感を忘れてしまっていた陰茎が、再びいやらしくしごかれる。
また、徐々に射精感が高まり始める。
日向を悶えさせる責苦が、それから何度も、何度も、淫らに繰り返された。
「うんっ。いい具合に仕上がったねっ」
絶頂に達せず、快感にさらされ続けた陰茎は赤黒く変色し、かつてない大きさに膨張していた。
先走り汁が涎のように垂れ、陰茎だけが別の生き物のように、ビクン、ビクン、と下品に跳ね回っている。
「やだ……神谷くん……」
この光景は性的経験のない女子生徒達にとって、あまりにも刺激的だった。
こんな状況であっても、常に全生徒が監視されている。
過激なリアクションをとる者は少ないが、館内はかなり色めき立っていた。
多くの者が、「今」に夢中になり、この先に待つ残酷を忘れている。
制度を憎む梨花ですら、この扇情的な光景に女を刺激され、本人も気付かぬうちに、秘所を湿らせてしまっていた。
現時点ですでに、日向が受けた恥辱は凄まじいものだった。
――しかし、本番はここからだ。
極限まで大きく反り勃った陰茎の根元に、局所麻酔、血液凝固促進剤が注入される。
徐々に陰茎の感覚が麻痺していき、陰茎に流れる血液が固まっていく。
日向の呼吸が整い始めた頃には、すべての準備が整っていた。
「そろそろかなぁ?」
あやかが亀頭部をぐにぐにとつまみ、反応を確認するが、もう、何も感じない。
日向の陰茎に血が巡ることは、もう、永遠にない。
「さあ、おまたせっ。おちんちん切られる覚悟はできてるぅ?」
日向は、涙を溜めた目であやかを睨み付けた。
「あはっ♪最近の男の子はさー、性欲少なかったり、えっちにあんまり興味なかったりして、つまんない子が多いんだよねぇ。
そんなおちんちん、切り甲斐がないじゃん。もちろん興奮はするけどね。
でもその点、キミのは最高だよっ。ちゃんとえっちだもん。」
あやかが、大きく反り返ったまま、感覚を失った陰茎を優しくなでる。
「おまけにイケメンくんでぇ、女の子にモテモテでしょぉ?
そんな男の子のぉ、えっちしたくてたまんない高校生おちんちん、切っちゃうんだよ。思春期の、命より大事かもしれないおちんちんを、私が。
ほんっと最っ高……。
今までいっぱいおちんちん切ってきたけど、お姉さん、こんな興奮したこと、あんまないよ♪
高校生の頃の彼氏がぁ、事故でおちんちん無くなっちゃったときくらい興奮してるかもぉ」
あやかがメスを手に取った。
涙が溢れた。
すれ違う女子生徒たちが送ってくる視線。
その視線に熱がこもっていることは、もちろん気付いていた。
可愛い子も、たくさんいた。
卒業後、手に入るはずだった性交渉の自由。
夢見ていた挿入の感覚。
絡めあう舌、交じり合う唾液。
中に解き放つ快感。
女の子の匂い、味。
そして、梨花。
すべてが奪われる。
絶頂に達したい欲望に悶えたまま、切り離される。
散々自分を弄んだ、このふざけた女技師に切断されてしまう。
今も、根元にメスを当てながら、ニヤニヤした表情で覗き込んでいる。
「キミのえっちなおちんちん、お姉さんに切られちゃうよぉ?いいのぉー?
キミなら、このおちんちんで、可愛い女の子達といっぱい、えっちできただろうねぇー。
……ナマで挿入してぇ、ベロチューしながらぁ、おっぱい揉んで、腰振って、いろんな子にそのまま中出してさ、気持ちいいよぉー?」
悔しさ、恥ずかしさ、切なさ、苦しさ、怒り、恐怖、絶望。色んな感情が混ざり合う。
「お姉さんがぁ……、ぜぇーんぶ、できなくしてあげるねぇ?」
最後まで気丈に振舞うつもりだった。でも、もう、限界だ。
メスが根元をゆっくり、ゆっくりと切り裂いていく。
日向は涙を流しながら、全校生徒の前で、みっともなく、嗚咽をあげた。
「もう最高♪キミ、どんだけえっちなのぉ?お姉さん、興奮しすぎて手元くるっちゃうじゃん。
ほらほら、よく見てっ。あとちょっとでキミの大事なおちんちん、さよならしちゃうよっ
一生えっちができなくなっちゃうよっ」
目を覆いたくなる光景。しかし梨花は決して、目を逸らさなかった。
「ちゃんと見てっ。ほらほらっ」
そして、ついに……。
「バイバイちーん♪あははっ!」
どこかで聞いたような、ふざけたフレーズと共に。
「あああっ!!うああああああ!!」
日向の性の象徴は、男としての未来は、……永遠に奪われた。
あやかは恍惚の表情を浮かべ、快感の波に身を痙攣させている。
スクリーンに映し出された非人道的な光景は、館内を、恐怖、嘲笑、罪悪感、様々な感情で埋め尽くした。
梨花の目から涙が零れた。
力なく開かれた手のひらには、深く爪跡が残っている。
切断された日向の陰茎は、他の医療技師の手によりケースへと移され、館外へと運び出されていった。
だが、それを気にしている者は誰も居なかった。
「はぁ……お疲れ様。よく、がんばったねぇ。お姉さん、いっぱい泣かせちゃってごめんね。
キミが可愛い過ぎて、いっぱい、いじわるしちゃった。
お姉さんって、ご存知の通り、変態だからさ」
先程までのふざけた印象が薄らぎ、優しさを感じる声色だった。
「これから、おしっこの穴を、タマタマの裏側に移していくからねぇ。
そうしないと、おしっこするとき大変な事になるからさっ。
しんどいけど、もうちょっとだけ、がんばってねぇ」
あやかの手が日向の頭を優しく撫でた。
しかし、日向の反応は何も無かった。
開かれた目に光は無く、誰の声も届かない。
そこからの施術は、これまでの冗長な、弄ぶような処置とは打って変わり、的確にスピーディーに行われた。
処分が完了し、AIが再び告げる。
「神谷日向、国家認定・生殖不能者に登録完了。
以後、教育制度外の人間として記録されます」
拍手も、喝采もない。
ただ静寂だけが、体育館を満たしていた。
彼はもう、“人間”ではなかった。
涙は枯れ果て、見える世界は灰色に染まっていた。
壇上から運び出されるそのとき――
再び、梨花と日向の視線が交差した。
梨花は震える瞳で、何かを訴えようとしていた。
でも、言葉にならない。
日向は、かすかに笑った。
彼は知らなかった。
国家による清潔で管理された抑圧、制度から排除されてしまった多くの者たち、その制度の創設者である上月凛という人間。
これから送られる再教育施設、その中で、それらの真実を目の当たりにする事を。