十四歳になるルカの父親の仕事は、街一番の腕利きの去勢師だ。
殺したり、切り株を残したり、体内に睾丸を逃がしたりと言った失敗もなく、傷跡も美しいので、引く手数多だった。
犯罪者、奴隷、自宮者、愛玩物にされる小さな子供…
一日何人もの男のシルシを斬り落としていた。
ルカ自身も、十歳くらいから、仕事を手伝うようになった。
最初は、薪を割り、釜戸にくべて湯を沸かす、鎌を研ぐといったことで、十二歳になる頃には、止血用の薬草を摘んだり煎じたり、庭の芥子から、痛み止めの阿片を作ったりを任された。
今では、それらの仕事を、二つ下の弟のロコに譲り、恥毛を剃る、性器を洗う、付け根を括り、去勢の後の止血を行なう、といった重要な仕事を任されている。
そんなある日、父親は、ルカに言った。
「ルカ、お前もそろそろ一人前だ。今日は斬ってみろ。用意はしてある。」
家の地下にある仕事場への階段を降りながら、父は言う。
「ニケド様の屋敷に買われて働くことになってんだ。まだ若いから、お嬢様や奥様と間違いがあっちゃあならねえ。もう男じゃねえし、立ちションも出来ねえんだと思い知らせるためにも、チンボもキンタマも跡形もなく斬らなきゃならねえんだ。」
父によって去勢台に乗せられて、体を括り付けられていたのは、ルカと同じ年ごろの少年だ。
轡を咬まされたその少年の顔を一目見て、ルカは呟いた。
「…ハルト!」
間違いない。
そこにいたのは、幼なじみのハルトだった。
「ねえ、お父さんやめて!やめてあげようよ!!ハルトは、僕とロコの大切な友達なんだよ!ハルトの父さんか、ニケド様に言って、取り止めてもらおうよ!!」
「…あほか、お前は。」
父は、心底から呆れたという態度で、わが子に言う。
「ハルトの親だってな。本当に困ってるからニケド様の申し出を受けたんだ。俺たちが立て替えられるとでも思うか?第一、俺たちは去勢師だ。頼まれた仕事は受けなきゃならん。もし、出来ませんでしたとなれば、違約金を取られるし、仕事ももらえなくなるんだ。」
「でも、でもハルトが…!!」
父は、いきなりルカの横面を張り飛ばした。
「今まで親がチンボとキンタマ斬って稼いだ金で飯食ってデカくなったくせに、いまさら綺麗事か!お前は去勢師の倅だぞ!判ったら…とっとと斬れ!!」
父は、先に地下室に来ている、次男のロコに言った。
「鎌と胡椒湯と剃刀は用意してあるな。付け根を括る紐も。」
「はい!」
父に応えて兄を見やったロコの顔には、仕方がないじゃないか、という色が浮かんでいた。
「さあ、ルカ!とっとと毛を剃れ!チンボとキンタマを洗って紐で括るんだ!!」
ルカは、小さな頃から、連れションや、水遊びや較べっこで、何度もハルトの股間を見ていた。
仲間内で、誰よりも太く長く、睾丸も大きいことを自慢していたことも、誰よりも遠くへ小便を飛ばしていたこともよく知っていた。
ハルトは、自分を見ながら、「斬られたくない、斬らないでくれ」と哀願するかのように、目にいっぱい涙を貯めてかぶりを振る。
ルカは、大股びらきのハルトの恥毛を剃り落とし、男性器を胡椒湯に浸し、丹念に洗い清める。
そのペニスは完全に露茎しており、睾丸共々大人のものと較べても全く見劣りがしない。
今から、これを、僕が斬らなきゃいけないんだ。
ハルトだって、まだ子供なのに…!!
そう思いながら、袋を扱いて、二つの睾丸を下に下ろし、男性器の付け根を革紐で硬く結わえ付けた。
今までは、仕事だと思ってやっていたし、慣れ切った作業だったけど、いざ自分の友を去勢するとなると、手が震える。
ハルトの気持ちが、痛いほど分かるからだ。
勃起したハルトのペニスは、目をみはる大きさだ。
全体が、ぱんぱんに硬く膨れ上がった男性器が、青紫に変色したら斬り落とす目安だ。
ルカは、自分の片手に余る友の股間のものを、掴んで引っ張り、付け根に去勢用の丸鎌をあてがう。
「斬れ、ルカ!」
父の声に促されて、付け根にあてがった鎌を引き下ろしたとき、ハルトの体は、大きく跳ねた。
阿片を呑まされていても、神経が集中している場所だからある程度の痛みはあるし、何よりも男のシルシを奪われたことへの精神的打撃も大きいだろう。
ルカの鎌は、ハルトの大切なペニスと睾丸を、一瞬で削ぎ落としていた。
(ハルトの男を奪ったのは、この僕なんだ…!)
誰よりも自分が男であることを誇りとし、自慢し、男のシルシを大切にしていたハルトだったのに…!!
左手の中に握り締めた物を見ながら、ルカは思う。
去勢師の家に生まれついたからには、いつか誰かの男性器を斬り落とす事になるのは判り切っていた。
だけど、初めて斬るものが、よりにもよって、ハルトが大事にして、みんなに自慢していたものだったなんて…!!
初めて、斬られる側の気持ちが判った。
そして、少なくとも自分たち家族は、かなり大それたことを生業にして生きていたんだ。
がっくりと膝をついてうなだれるルカを尻目に、ハルトは全身をびくん、びくんと痙攣させながら泣き続け、父はその切断面の止血を行なっていた。
斬り落としたものは、後から防腐処置を行なうために熱した油に通す。
確かに去勢したという証拠として、必要不可欠だからだ。
ハルトは、これから、隣の家が営む療養所に連れて行かれ、傷が癒えたら、防腐処置をされた男性器を添えられて屋敷に赴くことになる。
「よくやったな、上手かったぞルカ。あれだと傷跡も綺麗だし、治りも早いだろう。」
食事の時、父は言った。
その時、ルカは、気が付いた。
相手が例え、どんな立場の誰であろうとも、私的な感情を一切差し挟む事無く仕事をこなす。
そんな去勢師として必要不可欠な冷徹さと、職務を全うする心構えを身につけさせんが為に、父が何もかも知っていてわざと自分にハルトを去勢させたのだと。
こうしてルカは、一人前の去勢師としての第一歩を踏み出した。
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投稿:2007.12.12更新:2010.12.04
ルカの初仕事
著者 真ん中 様 / アクセス 24020 / ♥ 68