第4章 「ブルマ検査後の初めての日曜日」
ブルマ検査の2日後の日曜日、所属している少年野球チームの練習会があった。仲間の中で、自分だけブルマにさせられたことに納得できなかったオレはブルマになったことを隠して、その日もいつもと変わらないユニフォーム姿で出かけた。
(せっかく勝ち取ったレギュラーなんだ。1ヵ月後の試合が終わるまではブルマになったことなんかバレたら大変だ・・・。)
「おはよう。」
「あ、・・・うん。おはよう。」
コウジ、トシカズたちの挨拶が、なんかよそよそしい・・・。
(おかしいな、まだバレてはいないはず・・・。)
そんな不安を抱えながら練習は始まった。
しかし、いつもと何かが違う。バッティングも思いっきり振ってもいつもより飛距離が出ない。そればかりか50mダッシュでは、いつもは相手にすらならなかったコウジ、トシカズたちにあっという間に抜かされてしまった。
(おかしいな。なぜなんだ・・・。)
「おい、シンヤ何やっているんだよ。タイム9秒5だぞ。レギュラー陥落するぞ。」
オレに不安をよそに、他の仲間たちからの檄が飛ぶ。
練習が始まって1時間ぐらいしたころだった。監督から集合がかかった。しばらくの沈黙の後、監督が重い口を開いた。
「・・・実は、みんなに申し伝えなければならないことがある。おい、シンヤ何かみんなに言い忘れていることはないか。」
(!!!)
「いえ・・・、すみません。今日はなんか調子が出なくて・・・。」
「そんなことじゃない、もっと大切なことだ。」
「・・・?」
監督があのことを知っているはずがない・・・。冷や汗が出てきた。
「もう一回聞くぞ。本当に言うことはないか?」
「・・・。ないです。オレは男です。」
「男か・・・。そうか、じゃ仕方がないな。単刀直入に言うぞ。シンヤ、おまえはもうブルマなんだろ。」
みんなの視線がオレの顔に集中する。
「お、オレは男です。」
「そうか、言い張るなら仕方がない。実は昨日キミのお母さんから『退会届』をもらったんだよ。『息子が志願でブルマになりました。』とのことが書かれていた。ブルマになることは悪いことじゃない。おまえをこのチームから失うことは正直痛い。志願だというからにはよほどの覚悟があったんだろ。だったらなぜ、志願したのに隠して男だと言い張るんだ。」
「・・・。」
実際は不合格だったのを志願に切り替えたなんて本当のことは言えない。それに、オレより普段のオチンチンが小さかったコウジ、トシカズが合格でオレだけ不合格だったなんて。オレが不合格だったんだから、2人だってオレと同じブルマになっていると思っていた。でも実際はあいつらは男で残って、オレだけ女になってしまったことが何より一番悔しかった。野球だって、体育だっていつもオレのほうが2人より勝っていたのに・・・。悔しくて悔しくて涙が溢れてきた。
「質問したのに泣かれたんじゃあ仕方がないなぁ。おい、コウジ、トシカズ。同じ学校の仲間だろ。シンヤをなだめてやれ。」
2人に抱えられ、ベンチに連れて行かれるとき、こらえていた怒りと悔しさを爆発させてしまった。
「なんでおまえたちが男で、オレが女なんだ。」
「えっ!?そんなこと言ったって、シンヤ君志願でブルマになったんだろ。」
「ボクだって、今日監督から聞かされてびっくりしたんだよ。」
「うるせぇ!おまえたちオレよりオチンチン小さかったじゃないか。おまえらも今から病院行ってブルマになってこい。」
「そんなむちゃくちゃだろ。」
「おまえたちが男なら、オレだって男だからな。オレのポジションは誰にもゆずらねえからな。」
泣きながらだったから、しっかりと言葉になっていなかったかもしれない。しかし、どうしても納得がいかないこの悔しさをコウジ、トシカズの2人に当り散らした。
しかし、ここでも悲劇は起きた。言い争いからつかみあいに発展したオレたちは、けんかになった。いつもならオレ一人でコウジ、トシカズの2人をまとめてぶっ飛ばすくらいのことは簡単だった。しかし、いつもとぜんぜん違う。コウジにつかみかかっても、トシカズにつかみかかってもあっさり倒されてしまう。ぜんぜん腕力がかなわない。
「くそう。おまえらふざけるなよ。」
再び二人につかみかかろうとした、そのときだった。
「いい加減にしろ、シンヤ!」
背後から歩み寄ってきた監督に腕をつかまれて顔に平手打ちを食らった。
「おまえは志願でブルマになったんだろ!だったらなぜ、はじめから正直に言わないんだ。普通、男が志願でブルマになるなんて、なかなかできることじゃないんだ。だからブルマ志願者は尊敬されることだってある。それが何だ、おまえときたら、ブルマになったことを隠したり、友人に当り散らしたり、女々しいぞ。」
「・・・。」
「志願でブルマになったのならなったで、みんなの前で堂々と男らしく『志願でブルマになりました』って言えないんだ。男や野球に未練があるなら何で志願なんかしたんだ!退会するならするでみんなの前で『最後の男らしさ』を見せてみろ。」
オレの本当の気持ちを知らない監督が、この悔しさを理解してくれるはずがない。屈辱的にもコウジ、トシカズになだめられながらベンチで声を上げて泣いた。
第5章 「ブルマになって初めての登校」
この屈辱的な野球チームでの出来事の翌日、オレはブルマになって初めての登校日を迎えた。当然ブルマになった子達は女の子の姿で登校してくる。廊下を歩いていると、各クラスでは「○○がブルマになった。」という話題でもちきりだ。女の子姿になじめないせいか、恥ずかしそうに昇降口でソワソワしているやつだっている。
オレだって、昨日のことがあってもすんなりブルマを受け入れられる気持ちにはなれなかった。そのため、ブルマになったオレを女子の姿で登校させようとする母を押し切って、黒のランドセルにGパン、いわゆる「男の子の姿」で登校した。
(あいつら2人にはオレがブルマだということがバレたけど、野球チームには同じ学校のヤツはあの2人しかいない。何とかしてあいつらを黙らせればもう少しの間は男として・・・。どうせもうすぐ夏休みだ。ブルマになったことは夏休み明けにでもみんなにバラせばいい。)
本当はもう少しだけでも男の子でいたい。自分の心の整理がつくまでは自分がブルマになったということを、あいつら以外に知られたくない。これが本心だった。
しかし、オレの淡い希望はすぐに打ち砕かれた。机はこの土日の間に席替えをされており、オレの席は女子列に、そして名簿、ロッカーなどあらゆるものが女子に切り替わっていた。つまり、誰がブルマになったかは学校にはすでにバレバレになっており、いくらオレがブルマを隠そうとしても、隠し用がない状態になっていた。
「あれ?シンヤ君ブルマになったのに、なぜ男の子の格好しているの?」
クラスメイトの声が突き刺さる。もう、ブルマになったことがばれてしまっては、今のオレは「男装した女子」以外の何者でもない。
特にオレを困らせたのがトイレだった。ブルマとばれていなければ、うまくごまかして男子トイレの個室を使う予定だった。しかし、ブルマとばれてしまっては男子トイレは使うことはできない。かといって女子トイレに入る勇気はまだない。ガマンにガマンを重ねた結果、お昼休みにはもう限界が近くなっていた。
(どうしよう。マジでトイレに行きたい。)
無理せずに女子トイレを使えばいいのだが、まだ心が男のままのオレはそれができなかった。
(そうだ、保健室だ。あそこなら男女共用の洋式トイレがある。そこなら気兼ねなくできる。)
保健室の中には、ベッドで休んでいる人などが使う洋式トイレがある。オレはとにかく保健室に向けて走った。
急いで保健室のドアを開けたそのときだった。信じられない光景が目に入った。保健室には金曜日にオレのオチンチンを切ったあの女医がいた。
「あら、こんにちは。また会ったわね。」
「な、なんで・・・。」
「この前、ブルマになった子達の様子を見に来ているのよ。それにしても早速、問題児発見ね。ブルマになったのに男の子の格好をしているということは、念願のオチンチンが生えてきたのかしら?」
「オレは元々男なんだ。」
予想外の展開だった。まさか今日あの女医に会うとは。しかも保健室で。
「そうなの。・・・男なのね。・・・じゃあこっちに来て。」
トイレに行く間もなく、女医に手を引かれて保健室の壁にかかっている姿見の前に立たせられてしまった。
「じゃあこれは何かしら。施術から3日なのに、もうこんなに出てきている。男の子ならこんなには出ていないはずよね。」
女医にTシャツの裾をピンと引っ張られて、鏡の中のオレの胸に浮かび上がったのは、2つの男としてはありえない膨らみだった。」
(嘘、こんなになっていたんだ・・・。)
ブルマになってから、これまでオチンチンとタマタマのなくなってしまった自分の体を凝視したことはなかった。オレの「男でいたい」という気持ちとは裏腹に、体の女性化は冷酷なほどに進んでいた。
「それに、聞いたわよ。昨日野球チームで散々お友達に迷惑をかけたんだって。その時だってわかったでしょ。もう体力では男子にかなわないこと。もうあなたはブルマなのよ。いい加減にあきらめなさい。」
「うるさい。みんなでよってたかってオレを女扱いしやがって。男だと言ったら男なんだ!」
「そこまで我を通すのね。だったら、もうすぐ始まるプールの授業はどうするの。その頃には胸がもっと大きくなっているはずよ。さすがに海パンというわけにはいかないでしょ。」
「胸なんてこんなもの・・・。」
オレは両手を自分の胸に押し当てて、出っ張った胸を無理に押し戻すように力を込めた。しかし、すでに膨らみかけた胸は戻ることなく、グニャリとした感触を手のひらに伝えるだけだった。
「ムダよ。それにさっきからモジモジしているようだけど、本当はあなたトイレに行きたいんじゃないの。保健室のトイレは病人のためのトイレよ。もう素直に受け入れて女子トイレに行きなさい。」
「男なのに、誰が女子トイレに行くかよ。」
「だって、立ってはできないんだから、もうあなたは男子トイレは使えないのよ。男子トイレの個室はブルマが使用するものではないわ。」
「立ちションぐらいしてやるよ。立ってできれば男なんだな。」
もう、幾度となく女子扱いされてヤケクソになっていた。それに今まで散々「オレは男だ」といってきた手前、このまま女子トイレに行ったのでは、自分自身の面子もプライドも立たない。正直、ブルマになってからは立ってやったことはない。でも、この女医の鼻を明かすために、目の前で立ちションを成功させてやろうと思った。
「どうしたの。さっさとトイレに行きなさい。」
「・・・立ってできれば男なんだな。」
「なにを言っているの?」
「見てろ、オチンチンがなくたって立派に立ちションやってやるよ。」
オレは、保健室のトイレに駆け込むと、ドアも閉めずにおもむろに便座を上げ、ズボンを下げて股間を突き出した。「やめなさい。」という女医の言葉をよそに、便器の中央にねらいを定めると、今までガマンしていたオシッコを思いっきり放尿した。
しかし、勢いよく出たオシッコは便器の中には入らず、便器の先端にかかっただけで、やがて勢いがなくなると、太股を伝いパンツもズボンもオシッコでビチョビチョになってしまった。
「あーあ、だからあれほど言ったでしょ。あなたはもう男の子じゃないんだって。汚したトイレは自分で掃除しておきなさい。」
そう言われてもしばらくの間は放心状態だった。昨日の野球チームでの出来事があっても、学校の中で女子扱いになっても、いつかはまた「男」に戻れる。オチンチンは再び生えてくると自分に淡い希望を持たせ、何より自分は「男」なんだと、自分自身の中で「男」として生きる希望を守ってきたつもりだったけど、自分の気持ちをよそに女子化が進み、ついには男の証である立ちションすらできなくなってしまった自分の姿を思い知らされたことで、すべての希望が打ち崩され、絶望に変わった。
立ち尽くすオレを残して、そっと女医は保健室を出て行った。
立ち尽くしたままどれくらい経ったのだろうか。いつの間にか保健室の中に入ってきていた保健の先生に声をかけられ、我に返った。
「悔しいかもしれないけど、しっかりと事実を受け入れなさい。」
そう言いながらも、オレの汚したトイレの掃除を手伝ってくれる保健の先生がとても優しかった。男をあきらめなければならないこと、コウジやトシカズがもう異性になってしまったこと、野球を続けられなくなったこと・・・。いろいろなことが頭を駆け巡って、掃除をしている間中涙が止まらなかった。
「クラスには午前中で早退したことにしておいたから心配しなくていいわよ。事実を受け入れられなくて、この数日間悔しい思いをいっぱいしたと思うけど、今日は思いっきり泣いていいから、明日からは心を入れ替えて再出発するの。」
「・・・。」
「それと、女医さんからあなたに渡してほしいと預かったものがあるの。」
そう言って保健の先生がオレに差し出したものは、真新しいブルマーだった。
「心を入れ替えるためには、まずは身だしなみからよ。スカートがまだ抵抗があるのなら、ズボンでもいいから、明日からは中にこれを身に着けて過ごすの。これからは少しずつでいいから、新しい生活に慣れるようにしないとね。」
オレは素直にそのブルマーを受け取った。もう、どう逆らっても男には戻れない。もう、男でいられる場所もない。悔しい気持ちは残ったけれど、素直にブルマになった自分を受け入れるしか道はなかった。
真新しいブルマーを保健の先生から受け取った時が、オレにとっての、男の卒業式であり、ブルマとしての再出発の瞬間だった。
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後編はこちら
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投稿:2012.11.22更新:2013.01.01
非常なる運命 中編 「ブルマの絶望」
著者 やかん 様 / アクセス 15528 / ♥ 4