第6章 「10年後の出会い」
小学校を卒業したとき、オレは名前を「シンヤ」から「マヤ」に改名した。そして、ブルマになって月日は流れ、オレは22歳になった。一人称も人前では「オレ」ではなく「ワタシ」と言うようにしている。姿も格好も一応は女性となり、「シンヤ」の面影はだいぶ薄れた。
そんなオレも、大学4年生となりそろそろ他の同級生は就職活動・・・。しかし、オレは取得単位が足りず、4年生になっても優先的に3年次までの単位を取得していた。4年生の4月にして留年、5年生が決定と言う有様だった。
そんな中、オレが3年生対象の初講義に出席したときだった。当然受講生はオレより1年下の学生だから知っている顔はほとんどいない。
しかし、教授が学生の出欠確認を始めた時、ある名前が耳に止まった。
「キシモト ヨウコ君。」
(キシモト ヨウコ・・・!?まさか・・・そんなはずはない。)
オレが知っているキシモト ヨウコは、オレがまだ男の子だったとき、ブルマ検査の直前に引っ越していった岸本さんだけだ。
(・・・そんなわけないよな。同姓同名ってあるしな・・・。)
そのときはそれほど気には留めなかったが、複数の講義でそのキシモト ヨウコと一緒になった。そうなると、確信はなくても彼女のことが気になってしまう。彼女のしぐさ、歩き方・・・。すべてが気になってしまう。あるときはちらりと彼女のほうを見たら、偶然目と目が会って気まずい思いをしたこともあった。
ある日、講義のひな壇で彼女がオレの隣に座った。さすがに隣に座られたとなるといつも以上に気になってしまう。これ以上気に病むのもどうかと思い、講義終了後、思い切って彼女に聞いてみた。
「すみません。最近よく講義で一緒になりますけど、20××年にあなたは○×小学校から転校していった岸本ヨウコさんでしょうか?」
単刀直入、それでいて唐突なオレの質問に彼女はちょっと怪訝な顔になった。
「・・・・・はい、たしかに私はその岸本ヨウコですが・・・。」
やはりそうだった。オレの予想は的中した。
「須藤シンヤという男の子をご存知ですか?」
「はあ、須藤君は小学校時代の・・・。」
「私、須藤マヤは、あなたのご存知の須藤シンヤです。」
彼女は目を丸くした。無理もない。彼女の知っている幼馴染で活発だった男の子が今は自分と同じ女の子(但しオレはブルマ)なのだから。
その後の展開は速かった。
聞けば岸本さん転校のあと、オレがブルマになったことはオレの母親を通じてしらされていたこと、最近講義でオレが岸本さんをチラチラと気にしていたことに気がついていたことなどを彼女の口から聞かされた。
昼休みにはお互い10年間のブランクを埋めるように、いろいろとお互いのことを話し合った。
結局、彼女とは打ち解けるのには時間がかからず、今度のGWには一泊で一緒に旅行くことになった。
第7章「10年後の絶望」
旅行の日、ビジネスホテルの部屋で今日の思い出話も出尽くした頃、今更ながらヨウコにブルマになったオレを見てどう思ったか今一度聞いてみた。
しかし、その一言がその日の夜はオレにとって忘れられない夜になった。
しばらくの沈黙の後、ヨウコは微笑みながら答えた。
「じつは、私も正直実際にブルマになったシンヤを見て驚いたよ。でもね、マヤになっても話して入るうちにやっぱりシンヤ君なんだって・・・そう思った。それに、私も子供のときシンヤのこと好きだったの。でもどうしても言い出せなくて。そのうち引越しの日が来ちゃって・・・。」
「そうなんだ・・・。」
「ねえ、マヤ。今日だけはシンヤでいて。私の好きだったシンヤに戻って。」
「シンヤに戻ってと言われても・・・。」
「わかっている。女の子の体になっていることは。でも一度シンヤと恋人同士になりたかった。今日は私の彼氏になって私を抱いて。」
「でも、今の私は・・・。」
「今日のマヤはシンヤ君。男の子よ。」
「男の子」と言われてオレの心の中で何かが吹っ切れた。子供のときブルマにさせられて、無理に男の子に戻ろうとして惨めな思いをしたあの時から、オレは無理にでも女として振舞おうとしてきた。
他のブルマになった元男の子がブルマになって、そのまま自分をブルマとして素直に生きているのかは知らない。たとえオレ以外の全員がそうだとしても、オレはブルマの体になっても、外面は女として振舞いつつも、心の奥底では「男」だと思って生きてきた。もう「男」ではない「男」が「男の子」と言われ、(それも自分の好きだった人から)たちまちにオレの心は本来の「男」に戻っていった。
現実が分かっていても躊躇はしなかった。ガウンをはだけた姿になりベッドで誘う岸本さんと自分も同じ姿になり、彼女の体にそっと自分の体を重ね合わせた。
(少年の頃、片思いの岸本さんと一緒になれるときが来るなんて。)
それは、少年の時抱いていた希望が叶った時でもあったが、今は自分を絶望に追いやる。
本来ならば、男として岸本さんと交わるはずであったが、今は交わるための術がない・・・。
(それでもオレは、オレは男なんだ!)
当たり前のことだが、ブルマになった今のオレは、彼女と交わることが無理だということは自分自身が誰よりも一番よく知っている。彼女と抱き合えたことですべて満足だ。一生懸命自分にそう言い聞かせた。
しかし、そんな自分の気持ちとは裏腹に、オレの潜在意識の中に今まで残されていた男として本能が目を覚ましたのか、自分の体は幻のオチンチンを彼女の体に入り込ませることを要求し、それをさせようと一生懸命になっている。
もう付いていないはずのオチンチンが、幻の感覚になってオレの股間をムズムズさせる。まだ男だったとき、男の子としての行動をとって、絶頂を迎えるときに「出すな!」と言われているくらいのもどかしさと苦痛だ。頭の中で現実と幻の綱引きが始まった・・・。
残念ながら、オレの理性は本能が引き起こす幻には勝てなかった。現実が痛いほど分かっていても、オチンチンの付いていない股間を彼女の股間に近づけた。しかし、当然ながら突き挿すことはできない。無意識に右手が自分の股間に行き、オチンチンをしごこうとするが、右手も付いていないオチンチンをしごくことはできず、空振りに終わるだけだった。
(ない!ない! オチンチンがないよう!)
そんなことは分かっていても、本能はそれを受け入れようとはせず、幻のオチンチンを彼女に突きたてようと再チャレンジさせようとする。
しかしいくらやっても、それは彼女と同じ形をした丸い股間を擦り合わせているだけでしかなかった。
(畜生、畜生!オチンチンが欲しい。)
今日ばかりはそう思った。そう思っていても、なおも今日のオレの股間にはオチンチンがそそり立つ幻の感覚があり、本能が「突け、突け。」と命令してくる。
本能につぶされかけていた理性が、わずかの間、再び優位に立ったときオレは我に返った。
気がつけば、体中汗を流しながら無意識に股間に力を入れていた。力を入れれて幻のオチンチンを硬くしようとしていたのか、それとも股間に力を入れることで、子供のときにオチンチンを切られて今はブルマの股間になってしまったそこから、本物のオチンチンを再び生やそうと努力していたのか・・・。
どちらにしても岸本さんと交わりたいがためにしたことには変わりない。
いずれにせよ結果を伴わない努力でしかなかった・・・。
我に返ってどっと疲れが出てきた。
せっかく岸本さんと一緒になれたというのに、男としての行動が一切できないこの悔しさのあまり、いつの間にかオレは大粒の涙を流していた。
「シンヤ、ブルマにさせられて悔しい?正直に言っていいよ。私はシンヤがブルマにさせられて悔しい。」
「・・・・。」
岸本さんは、オレの気持ちを察してか、優しくオレの股間に手を差し伸べてきた。
「いい。オチンチンがなくても気持ちよくはなれるのよ。」
そう言うと、オレの股間についているクリトリスを指で撫で回してきた。
「こうすると女の子は気持ちよくなれるのよ。」
やはり生まれながらにして女の岸本さんの手さばきは器用なものだった。
執拗に指で弄られているうちに、オレの体はビクン、ビクンと痙攣してしまった。
「ね。気持ちよくなったでしょ。」
もう何も言えなかった。ブルマになって無理とは分かっていても、今日ばかりは男としてイキたかったのに、股間を弄られた結果、女としての絶頂を迎えてしまった。
つまりは、シンヤとしての絶頂ではなく、マヤとしての絶頂を彼女に見せつけてしまったのだった。一日だけ気持ちだけでもシンヤに戻るという希望は女としての絶頂を迎えたことで、あっさりと砕け散ってしまった・・・。
すべてが終わった後、これまでに感じたことのない悔しさと惨めさがオレを襲った・・・。
終章「その後」
あの惨め過ぎる旅行から帰って1週間後、大学の帰りに岸本さんに声をかけられた。
「ねえ、シンヤ・・・、じゃなかったマヤ。この前のこと怒っている?」
「いや、別に・・・。」
怒るとかそう言う気分じゃなかった。ただあの時、シンヤになれなかったのが惨めで・・・。この前のことはそんな気持ちしかオレには残っていない。
「実は・・・、マヤに紹介したい人がいるの。」
「紹介したい人!?」
「じゃーん。トシカズ君。」
「・・・・。」
「マヤがシンヤだった時の野球のチームメイトだったトシカズ君。実は、私たち私が大学に入る前から付き合っていました。」
「どういうことだよ・・・。」
「まさか、私が通っている大学にシンヤがいたなんて思っていなかった。シンヤがブルマになったって聞いた時から、ブルマになった男の人って、どんななのかなと前から興味があったんだけど、そう思っていた時に私にシンヤが近づいてきたもんだから、ちょっと遊び半分で。」
「・・・。」
「あの時、もう男じゃないのに、必死になって男になろうとしているシンヤを見て、ちょっとかわいそうな気持ちになったけど、もうついていないオチンチンを一生懸命私に入れようとしている姿、気が付かれないように写メ撮らせてもらいました。」
信じられない言葉を岸本さんから聞いて頭が真っ白になった。
「マヤは一生懸命、シンヤになろうとしていたけど、私、やっぱりオチンチンが付いている男の人が好きなの。マヤとはこれからもお友達でいましょうね。」
つまり、岸本さんはとんでもない悪女だった。オレはこの前の旅行で10年ぶりの再会の親睦を深めたつもりが、彼女にオモチャにされただけだった。さらに、彼女の彼氏が幼馴染のトシカズだったなんて・・・・。
「じゃ、そういうことだから。」
そう言うと、ふたりは手をつないでオレの前から去っていった。
オレは去り行く二人の後姿を、視界から消えるまで、その場でただ眺めることしかできなかった。
(おしまい)
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中編はこちら
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投稿:2013.01.01更新:2013.01.01
非常なる運命 後編 「10年後の出会い」
著者 やかん 様 / アクセス 14238 / ♥ 2