「はい!切った!シャキッ!」
授業で宦官の歴史が話題になった時、隣に座る明智くんがくすくす笑いながらからかってくる。その言葉を聞いた瞬間、思わず震えて、はっと息を呑んだ。赤くなった顔を隠すように、慌てて熱くなった頬を背けようとする。
そうだな、明智くんもこんなことで興奮する歳か。でも、本当にそんな危ないこと言わないでよ…。こんな風にドキドキさせられるなんて、若しかしたら僕は──
は、明智くんのせいで授業に集中すらできなくなっちゃった。
『切っちゃうなら、そっちも逃さないよ』
放課後、僕は明智くんにいたずらっぽい口調で言いながら、ハサミの手真似をする。僕の言葉を聞いた明智くんが、クスっと笑い出す。
「なんだよ、ケン まじめすぎて興味ないかと思ったら、結局、そういうノリなのか いいよ、じゃあ」
そう言って、明智くんも自分のズボンにハサミの手真似をしながら、
「シャキッ!これでいいかい?」
『アハハ、参ったな。そうだね、実に簡潔だけど、まあ、いいんじゃ無いかな。』
「へえ、簡潔って、物たりない?」
『そんなこと言って無いよ。でも、本物の「シャキッ」なら、その影響は永久に続くんじゃ無いかな。どうだ、二人で試合してみるか?僕か明智くんか、期末試験で負けた方が、今後相手に「チン無し」って呼ばれても文句言え無い、ってルールで。勿論、他の人が居無い時限定で。復習にもなるし。どうだ?』
「ちょっと酷いあだ名だな……まあ、うけてもいいけど」
やばい、つい心のままに言っちゃった。でも、綽名だけは良い感じかな…。
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「今日も休み時間に復習してるんだ…夜ふかしまでしたみたいだし 最近、勉強しすぎじゃない?」
『そうかな?』
「ちょっと休んで、ぼくと遊ぼうよ こっちはたいくつで死にそうだよ」
『アハハ、悪かったな。でも、話し掛けてくれるだけでちゃんと返すから。』
「それって試合のためか?そんなにかちたいの」
『へー、どうだろうね』
「ケン、まじめすぎてちょっとこわいよ 今、試合やめてもいい?」
『無理だよ。でも、仮に僕が勝ったとしても、普段は綽名で呼ぶことは無いから安心して。』
勿論だ。最初から「呼びたかった」訳では無いし……いや、僕は一体何を考えているんだ?
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「マジですごいよ、ぼくにかっただけじゃなくて、今度ケンは全校一の点数だよ!おめでとう!!」
『アハハ、ありがとう、明智くん!いや、チン無しくん〜』
「えっ、あ、ははは……やっぱりはずかしいな それに、みんなまだいるし」
『ああ、そうだね、悪かった!ところで、もう2ヶ月くらいちゃんと遊んで無いよね?やっと夏休みだし、明日家に遊びに来なよ』
「うん、じゃあ明日ね!」
そして、久しぶりにケンとたくさんゲームをして、漫画を読んで、まずい料理を作って、楽しい一日を過ごした それから、夜更かししすぎたぼくは、泊まることになった
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「ケン、おはよう…」
「…?」
まだ眠気覚ましの途中で、ぼくにカフェインとして作用したのは、手足に感じた妙な違和感だ
「えっ、これ、何だよ?」
気づいた時には、ぼくは縄でベッドにがっちりと縛られてる
「え、いえ、なんで?ケ、ケン?」
『お早う、明智くん。素敵な夢を見たかい?』
「それより、何をしてるんだよ!」
『これは……明智くんをチン無しくんにする為の準備さ』
「えっ……?」
ま、まさか……
「ケン、ユーモアのセンスが悪すぎだよ。こんなところまで遊びが来ちゃって、もう面白いを通りこして怖いよ。だから、」
『申し訳御座いません!!!』
「……え?」
『怖いって分かっているよ。だから、謝らなきゃ』
「だから、なんのはなし……ですか?」
あやまるって……
『僕は子供の頃から、こんな捻れたことにしか興味が持て無かった。怖くて、それを隠してきたんだ』
「……」
『でも、君を傷付けたくも無かったのも本音だ。明智くんが一時間でも早く起きていたら、良かったかもしれ無い』
「……じゃあ、今でも、」
『ううん。もう、明智くんを縛り付けてしまった。だから、二度とチャンスは無いだろう。そんなことを知って、僕はもう……欲望に勝て無いよ』
「いやだ……」
『僕は補償をする。同じことをしてくれても、一生捧げても、起訴されても、絶交されても、仮令死なせられても、明智くんがしたいなら、絶対に文句は言わ無い。だから……』
『多分本物は欲しく無かったけど、明智くんも興奮しただろう?じゃあ、できるだけ楽しんでくれ』
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どうして、ぼくがこんな目にあったのだろう 目の前の光景が信じられない 『さいごに気持ちいいことをしてあげよう』と言われても、結局はさらに恥ずかしい思いをさせられるだけで、なんの意味もないよ
明智くん、昨日オナニーして無かったような気がする。一度チンチンが切られてしまったら、欲望は一生解消でき無くなってしまうね。可哀想だから、せめて今日まで溜まったものをちゃんと絞り出してあげるよ。
ケンに脱がされちゃった ズボンも、そしてパンツも 恥ずかしい あれが見られることは何年ぶりだ あぁ、抵抗できずににぎられちゃった… ともだちに、オナニーされるなんて… はあ…、はあ……
これが明智くんのアレか。ちょっと臭うけど、僕のより元気そうだな…。あっ、硬くなった。やっぱり君も少しは楽しんでいるんだね。嬉しいよ。じゃあ、まずはティッシュで…、いえ、僕の左手の甲でそっと擦ってみよう。それからは優しく右手で包み込んで、震えるだけかな。やばい、凄くドキドキしている。
はあ… 気持ちいい もしかしてまたケンとそうしたいかも… いや、そんなはずはない これが終わったらおしまいだ… いやだ… はあ… がまんしないと…… でも、やばい、はあ…、もう、はあ…、限界だ……
うーん、明智くんの顔はもう真っ赤だし、呼吸もだんだん苦しそうになってきているね…。若しか、限界が近いのかもしれ無い。君は無理して我慢して来たことは分かるけど、それでも何も変わら無いよ……ああ、明智くんの精液がかかって、僕の手に所々付いているじゃ無いか。今はそのままにして置こう。では、そろそろ本題に入ってしまおうか。
あっ……
で、でちゃった……
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「お願い、放っておいて……ケンだってゆれてるんじゃない、ですか……?手が、震えてます……」
えっ?あ、そう言えば、確かにそうだ…。
お茶目で無邪気、素直で優しい君が、僕のせいで恐怖に怯え、何時でも泣き出しそうな顔をしている。そんな君を見ていると、深い罪悪感が胸を締め付け、僕を突き刺して苦しめている。
ぐぅ!やっぱり、この行き過ぎを止め無ければなら無いんだ……
もう終わりか…… 自分も震えているのに、どうしてまだぼんやりとメスを取った? だ、だれかたすけて……
え、どうしてこのメスがまだ僕の手にあるのだろう?……あ、そうだ、縄を切るのにもメスが必要だ。
今縄を切ってしまえば、間違い無く二度とチャンスは訪れ無い。でもやはり、これこそが正しいのかもしれ無い。だから、――
……
……
違う……
……
もうここまで来てしまった、若しかしたらもう遅いのかもしれ無い。今、僕が諦めたとしても、さっき負わせた恐怖が、明智くんを永遠に怖がらせ、ひょっとしたら僕を避けるようになるかもしれ無い。
逆に、若しか明智くんがもう僕を恐れる意味すら失ってしまっているのであれば、寧ろそれが良いのかもしれ無い。若し僕が、既に行き詰まっているこれを無理にでも完了させ、お互いを成り果てへと追い詰めちゃったら――それが、明智くんが僕を恐れる意味を失わせ、若しかしたら逆に、この絆を保つことができるのだろうか?
僕は、明智くんを失いたく無い。其れ故——
やっぱり、去勢を完了させ無ければなら無い。
良し、切れ味が鋭いみたいだ。
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『ああ、麻酔を忘れるなんて!でも、麻酔薬を準備してい無かったみたいだし、どうやら無理に進めるしか無さそうだ。』
だから、何を言ってるんだ……やっぱり、もうおわりなのか……
『まずは消毒か。うん、もう済ませて置いた。』
こんなふうに触られるなんていやだ…
『次に、陰嚢の皮膚に切開を加える。』
「ぎゃあああぁあああああああぁぁあああああぁああ——!!!!」
『えっと、精巣…じゃ無くて、睾丸を取り出し易くする為に慎重に行うべきだって。うーむ、この広さで十分かな?』
「ぎゃあぁ…………」
『……これで一つ目…。良し、二つ目も取った!』
「あぁぁ……」
「……」
「……」
『陰茎の切除にはまずしっかりと固定してから固く結紮する。それではここで……』
『シャキッ……!はい!切った!!』
この捻れた夢中から目を覚ますまで、心が疲れ切って死んだような顔をしている明智くんが、もう話すこと無く、ベッドで気絶していることに気付か無かった。
僕は一体何てことをしてしまったのだろう?
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「ぼく、前みたいに冗談言うのが好きじゃなくなったって?そうだっけ」
「ああ、ケンか……たしかに、ちょっといろいろあったかもね ははは……」
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THE END
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尊敬なる読者の皆様、この物語をお読みいただけることに心から感謝いたします。ご覧の通り、本作はやや実験的な筆致を試みており、加えて筆者の母語が日本語ではないため、至らぬ点が多々あるかと思います。物語がここで途切れていることを筆者は非常に残念に思います。しかしながら、これ以上ふさわしい結末を思い描くことが叶わず、苦慮の末、この形に落ち着かせるほかありませんでした。また、本作が娯楽性よりもむしろ重さを帯びた仕上がりとなってしまったことは、私の本意ではありません。その点について心よりお詫び申し上げます。それでも、もし本作の中に少しでも興趣を見出していただけたのであれば、それに勝る喜びはありません。最後になりますが、ご感想などございましたら、ぜひお聞かせください
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投稿:2025.03.19更新:2025.03.21
『あだ名』
著者 ichi 様 / アクセス 1029 / ♥ 5